ACORN

【論文タイトル】
Cefepime vs Piperacillin-Tazobactam in Adults Hospitalized With Acute Infection: The ACORN Randomized Clinical Trial

【Reviewer/担当者】
Nemoto Kotaro, Yaguchi Takahiko

Introduction

【わかっていること】

  • セフェピムとピペラシリン・タゾバクタムは多くのグラム陰性菌に対して同様の活性を有するため、両者の選択は副作用の違いによって決まると考えられる。
  • 複数の観察研究で、ピペラシリン-タゾバクタムと急性腎障害(AKI)との関連、特にバンコマイシンの同時投与でのAKIとの関連が報告されている。
  • MRSAに対する治療を比較したRCTで、バンコマイシンに抗ブドウ球菌βラクタム系抗菌薬を追加するとAKIのリスクが増加することが報告されている。
  • セフェピムにはせん妄や昏睡などの神経毒性との関連が報告されている。
  • ICUでは、せん妄は死亡率、入院期間の延長、および長期的な認知機能障害の予測因子である。
  • セファロスポリンによる神経毒性の発生率は不明であるが、院内死亡率を増加させることが報告されている。

【わかっていないこと】

  • ピペラシリン・タゾバクタムはAKI、セフェピムは神経毒性を起こすと仮説が立てられているが、それぞれの安全性を比較したRCTはまだない

【Research Question】 or 【仮説/目的】
セフェピムとピペラシリン・タゾバクタムの安全性プロファイルを比較する

【PICO】
P: EDまたはICUにおいて、来院後12時間以内にセフェピムまたはピペラシリン-タゾバクタムの投与を開始された成人
I: セフェピム
C: ピペラシリン-タゾバクタム
O: 無作為化から14日目までに発生したAKIのStageまたは死亡

Method

【期間】
2021年11月10日〜2022年10月7日

【場所】
Vanderbilt University Medical Center

【デザイン】
非盲検無作為化比較試験

  • 事前プロトコルの有無︓有
  • ランダム化の方法︓電子カルテ内のソフトウェアで、患者を層別化せずに単純無作為化によりセフェピム投与群とピペラシリン-タゾバクタム投与群に1対1の割合で割り付け
  • 割付隠蔽化の有無︓有(患者が登録されるまで、試験担当者および治療チームには割り付けを隠蔽化)
  • マスキングの有無、その対象︓無

【患者選択基準】
Inclusion Criteria:

  • EDまたはICUにおいて、来院後12時間以内にセフェピムまたはピペラシリン-タゾバクタムの投与を開始された成人(18歳以上)を対象

Exclusion Criteria:

  • セファロスポリンまたはペニシリンに対するアレルギーを有する患者
  • 過去7日以内に抗緑膿菌性セファロスポリンまたはペニシリンを1回以上投与されたことのある患者(他の抗緑膿菌抗菌薬を投与されたことのある患者は適格)
  • 中枢神経系感染症や既知の耐性菌感染症などにより一方がより適切と判断された患者
  • 囚人

【介入】
セフェピム(eGFRで用量調整):8時間ごとに2gを5分かけて点滴静注

【対照】
ピペラシリン-タゾバクタム(eGFRで用量調整):初回投与時に3.375gを30分かけてボーラス投与し、その後の投与は8時間ごとに3.375gを4時間かけて点滴静注

【両群共通のプラクティス】
特に記載なし

【主要評価項目】
無作為化から14日目までに発生したAKIのStageまたは死亡

【副次評価項目】

  • 14日目に主要な腎有害事象(死亡、新たなRRT、最終クレアチニン≧2×ベースライン)を経験した患者の割合
  • 14日以内にせん妄や昏睡がなく生存していた日数

【解析計画】

  • 目標N; 2500例
  • サンプルサイズ計算
    当初は2050人を登録し、主要評価項目でオッズ比0.65を検出するように設計されたが、interim解析の時点でバンコマイシンの使用率が75%と高かったため、サンプルサイズを2500例に増やし、オッズ比0.75を検出するように変更された。
  • 検定方法: 比例オッズモデル
  • ITTの有無: 有

Results

【結果】

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ率、除外理由)
    組み入れ基準を満たした3806例のうち、1172例(30.8%)が除外され、2634例が登録。セフェピム群1214例(48.3%)、ピペラシリン-タゾバクタム群1297例(51.7%)が一次解析に組み入れられた。
  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性)
    年齢、性別、併存疾患、感染源、重症度などベースライン特性は両群でバランスがとれていた。
  • 治療のアドヒアランス
    ランダム化後7日間の割り付けられた抗菌薬の投与率は、セフェピム群で1日目95%、3日目79%、7日目38%、ピペラシリン・タゾバクタム群で1日目98%、3日目80%、7日目37%であった。7日目までに各群の約20%(ピペラシリン・タゾバクタム群 18.8%, セフェピム群 17.2%)の患者が反対側の抗菌薬を1回以上投与されていた。2日以上連続で両方の抗菌薬を投与されていたのは、32人(1.3%)のみであった。
  • 主要評価項目
    14日目までのAKIまたは死亡は、セフェピム群とピペラシリン-タゾバクタム群で有意差なし(OR、0.95[95%CI、0.80〜1.13]、P=0.56)
    2511例のうち、セフェピム群75.0%(1214例中910例)に対してピペラシリン-タゾバクタム群73.4%(1297例中952例)は、14日目fまでに死亡またはいずれのstageのAKIも経験しなかった。
  • 副次評価項目
    14日目における主要腎有害事象︓10.2 vs 8.8%(RD1.4%、95%CI 1.0 - 3.8)
    →すべての要素(死亡、新たなRRT、最終クレアチニン≧2×ベースライン)に差はなかった
    14日間中のせん妄および昏睡のない日数
    →OR0.79(95%CI0.65-0.95)でセフェピム群で有意に多かった
    せん妄・昏睡発生率︓20.8 vs 17.3%(RD:3.4%、95%CI0.3 - 6.6)
    28日目までにvasopressor使用日数、人工呼吸器使用日数、ICU滞在日数、入院日数に差はなし

Discussion

  • 結果の総括
    ピペラシリン-タゾバクタムはセフェピムと比較してAKIの発生率や死亡率を増加させなかった。セフェピムは神経機能障害のリスクを増加させた。
  • 著者による結果の解釈
    複数の観察研究でピペラシリン-タゾバクタムとバンコマイシンの併用はAKIリスクを上昇させるとされていたが、本研究では全体でもバンコマイシン併用例でもAKIリスクに影響しなかった。
    本研究では、ピペラシリン-タゾバクタムは全体でもバンコマイシン併用例でもAKIリスクに影響しなかった。AKIの既往がある患者を登録したのは、これらの患者は腎障害の悪化や死亡のリスクが高く、抗菌薬の選択によって転帰が左右される可能性があるためである。しかし、これらの患者を除外した解析でも結果は同様であった。
  •  一方、セフェピムは過去のコホート研究と同様に、神経毒性のリスクを増加させた。
  • Limitation
    患者や臨床医は群割り付けについて盲検化されていなかった。
    せん妄と昏睡に関するデータは収集されたが、興奮、ミオクローヌス、痙攣など、セフェピムに起因すると考えられる他の神経障害に関するデータは収集されなかった。

【著者の結論】

  • ピペラシリン-タゾバクタムによる治療ではAKIや死亡の発生率は増加しなかった。
  • セフェピムによる治療では、神経機能障害がより多くみられた。

論文の解釈

【論文の結論】
結論は飛躍していない。研究の限界点は適切に記載されており、結果に基づいた妥当な結論であると考えられる。

【批判的吟味】
<内的妥当性>

  • Strength
    • ベースライン特性のバランスをとるためのランダム化、選択バイアスを防ぐための登録までの群割付けの隠蔽、登録前の抗生物質への曝露を最小限にするための病院受診後中央値1時間での登録などが行われている。
    • サンプルサイズ修正により、全体および登録時にバンコマイシンを同時投与されていた1939人の患者における治療効果の正確な推定が可能となった。
  • Limitation
    • 患者や臨床医は群割り付けについて盲検化されていなかった。
    • せん妄と昏睡に関するデータは収集されたが、興奮、ミオクローヌス、痙攣など、セフェピムに起因すると考えられる他の神経障害に関するデータは収集されなかった。

<外的妥当性>

  • Limitation
    • 単施設研究
    • 本研究ではピペラシリン-タゾバクタムは4時間かけて点滴静注で投与されるextended infusionの施設である
    • 平均のSOFAが2点であり、軽症が多い集団である可能性がある

【Implication】
ピペラシリン-タゾバクタム±バンコマイシンによる腎機能障害の懸念については本研究をもって根拠が得られたと考えてよいだろう。すなわち、腎機能障害を理由に同薬を避ける必要はない。
またセフェピムの神経毒性のリスクのORに有意差があったが、その詳細は14日間中のせん妄および昏睡のない日数の平均の差が0.3日程度であり、臨床的に意義のある「神経毒性」かは疑問である。また神経毒性については、サンプルサイズ設計に関わる事前設定がされておらず、同アウトカムに関わる他の背景因子(eg. 神経疾患の有無、感染フォーカスの層別分類)も明らかにされていない。神経毒性を理由にセフェピムを避ける根拠としては、今回のデータは非常に弱いといえよう。
本研究は副作用の観点からそれまでFirst choiceとしていた薬剤をピペラシリン-タゾバクタムかセフェピムのどちらかに変えさせることはなく、抗菌薬選択は純粋に感染症治療の適応に準じて行えばよいことを示したと考える。

【本文サイト】
Cefepime vs Piperacillin-Tazobactam in Adults Hospitalized With Acute Infection - The ACORN Randomized Clinical Trial

このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学