PRONECMO

【論文タイトル】
Prone Positioning During Extracorporeal Membrane Oxygenation in Patients With Severe ARDS: The PRONECMO Randomized Clinical Trial

【Reviewer】
Fukuda Naoya, Yamamoto Taihei

【Summary】
フランス国内の14施設で実施された非盲検のRCT。VV-ECMO導入下の重症ARDS患者において、腹臥位療法は仰臥位と比較してECMO離脱までの期間を有意に短縮させなかった。

【Research Question】
VV-ECMO導入下の重症ARDS患者において、腹臥位は仰臥位と比較してECMO離脱までの期間を短縮するか?

【わかっていること】

  • 過去のRCTでARDS患者において1日16時間以上の腹臥位療法は90日死亡率を有意に減少させた。
  • 腹臥位はdependent lungとnondependent lung間のガス・組織比をより均一にして換気血流ミスマッチを改善させることと、肺にかかるストレスを軽減することでVILI: ventilator-induced lung injuryを減少させる可能性がある

【わかっていないこと】

  • ECMO中の腹臥位を支持するエビデンスは限られており、腹臥位を使用した場合にECMO離脱が促進されるという後ろ向き研究やメタアナリシスに留まる。

【仮説/目的】
VV-ECMO導入下の重症ARDS患者において、腹臥位は仰臥位と比較してECMO離脱までの期間を短縮する

【PICO】
P
Inclusion criteria

  • VV-ECMOを開始するかは診療チームの判断
  • EOLIA trialのinclusion criteriaが推奨された
  • 成人で、侵襲的人工呼吸管理を受けており、VV-ECMO導入48時間以内の患者

Exclusion criteria

  • 18歳未満または75歳以上
  • 妊娠中または授乳中
  • 48時間以上前からVV-ECMOが導入されている
  • 末期の慢性肺疾患がある
  • 腹部手術後のARDS
  • SAPSⅡscore>=90
  • 肺移植後
  • 肺機能回復の見込めない重症ARDS
  • 腹臥位の禁忌がある

I
ECMO中の腹臥位療法

C
仰臥位でのECMO管理

O
【主要評価項目】

  • 割りつけ後(≒ECMO導入後)60日以内にECMO離脱率
     「ECMO離脱」の定義:離脱後30日間患者がECMO再導入または肺移植なしで生存している

【副次評価項目】
Efficacy Endpoints

  • 90日間の全死因死亡率
  • 7日以内に肺コンプライアンスが30mL/cmH2Oを超えるまでの時間
  • 心不全・腎不全のない生存日数(SOFAscoreで0-1点)
  • VAP発生率
  • ECMOおよび機械的人工呼吸なしで過ごした日数(死亡は0日とする)
  • ICU入室期間、入院期間
  • 60日および90日追跡時のVA-ECMO導入

Safety Endpoints

  • 意図しないデバイス抜去
  • 意図しない抜管
  • 手技中の喀血
  • 手技中の心停止

【期間】
2021/3/3-2021/12/7

【場所】
VV-ECMOの使用経験が豊富でECMO中に腹臥位にすることが可能なフランスの14施設

【デザイン】
非盲検無作為化比較試験

  • 事前プロトコルの有無:有
  • ランダム化の方法:最初の20人をランダム化したのち、ECMO前の腹臥位の有無・肺コンプライアンス(20未満or20以上)・COVID-19の有無おける層別ランダム化、コンピュータベースにランダム化
  • 隠蔽化の有無:コンピュータベースにランダム化
  • マスキングの有無と対象者:なし

【N】
170

【介入】
腹臥位

【対照】
仰臥位

【主要評価項目】
「割りつけ後(≒ECMO導入後)60日以内のECMO離脱成功率」

  • 「ECMO離脱」:離脱後30日間患者がECMO再導入か肺移植なしで生存

【副次評価項目】
Efficacy Endpoints

  • 90日間の全死因死亡率
  • 7日以内に肺コンプライアンスが30mL/cmH2Oを超えるまでの時間
  • 心不全・腎不全のない生存日数(SOFAscoreで0-1点)
  • VAP発生率
  • ECMOおよび機械的人工呼吸なしで過ごした日数(死亡は0日とする)
  • ICU入室期間、入院期間
  • 60日および90日追跡時のVA-ECMO導入

Safety Endpoints
意図しないデバイス抜去
意図しない抜管
手技中の喀血
手技中の心停止

【解析】

  • サンプルサイズ計算
    介入群のECMO離脱成功率:60%
    対照群ECMO離脱成功率:40%

    α:5% power:80%
  • ITTの有無: 有
  • 中間解析: 無
  • 感度分析: 有
     priori sensitivity analysis:ECMO離脱成功率をGray検定を用いて比較
     post hoc sensitivity analysis:多変量解析
  • 交互作用検定: 有

【結果】

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外)
    250人が適格と評価され、170人が無作為化、86人が腹臥位、84人が仰臥位に割り付けされた
     
  • 主要評価項目
    複合アウトカム
    腹臥位38(44.2%) vs 仰臥位37(44.0%) RR 1.11(0.71-1.75)
     
  • 副次評価項目
    ・Efficacy Endpoints
    ・90日間の全死因死亡率
    44(51%) vs 40(48%) RR1.12(0.72-1.72)
    ・7日以内に肺コンプライアンスが30mL/cmH2Oを超える割合
    33(38.4%) vs 26(30.9%) RR1.24 (0.82-1.88)
    ・心不全・腎不全のない生存日数(SOFAscoreで0-1点)
    腎不全:7 vs 7
    心不全:5 vs 5
    ・VAP発生率
    73(85%)vs75(89%) RR0.95(0.85-1.97)
    ・ECMOおよび機械的人工呼吸なしで過ごした日数(死亡は0日とする)
    平均49.22vs52.11
    ・ICU入室期間、入院期間
    ・60日および90日追跡時のVA-ECMO導入

Safety Endpoints:
 低血圧の持続
 96(100%) vs. 96(100%)
 心室性不整脈
 14(15%) vs. 17(18%) RR 0.82(0.43-1.57)
 心房性不整脈
 43(45%) vs. 36(38%) RR 1.19(0.85-1.68)
 経静脈/経口での抗不整脈薬の使用
 43(45%) vs. 41(43%) RR 1.05(0.76-1.45)
 昇圧剤の増量や新規昇圧剤が必要
 94(98%) vs. 93(97%) RR 1.01(0.97-1.06)
 ・意図しないECMO脱落事象、計画外抜管、体位変換中の大量喀血はなかった

サブグループ解析
有意な交互作用なし
1. ランダム化時の肺コンプライアンス(20以上 vs. 20未満)
2. BMI(33以上 vs. 33未満)
3. ECMOのハイボリュームセンターか否か

【Strength・Limitation】
・Strength
原疾患にかかわらず、重症ARDSの定義をみたした患者がincludeされている

・Limitation:
サンプルサイズが小さい
170例中69例が同一施設であり、判断が偏っていた可能性がある
介入の性質上非盲検であり、バイアスを排除しきれていない可能性がある

【論文の結論】
重症ARDS患者においてVV-ECMO中の腹臥位はECMO離脱成功までの時間を有意に短縮しなかった。

・飛躍していないか:
していない

【批判的吟味】
<内的妥当性>

  • Strength
    重症ARDSに対するECMO導入についての多施設RCTである
    重症ARDSの集団に対してECMO離脱というアウトカムの設定はpatient-centeredである(一方でsoft outcomeであり、施設ごとの判断の違いの影響があるかもしれない)
     
  • Limitation
    サンプルサイズは小さく、小さな効果を検出することは困難である(βエラーの可能性)
    体位がinterventionなので盲検化は不可能

<外的妥当性>

  • Strength
    定義に従って重症ARDSがincludeされており、一般化可能性がある
    VV-ECMOの開始は医療者に委ねられている点は現実的である。
     
  • Limitation
    COVIDの症例が90%以上を占めており、non-COVIDのデータに乏しい
    170例中69例が同一施設であり、結果を一般化して捉えるには問題があるかもしれない

【Implication】
重症ARDSでVV-ECMO導入中の患者に追加で腹臥位療法を行う必要性はない。

【本文サイト】
Prone Positioning During Extracorporeal Membrane Oxygenation in Patients With Severe ARDS The PRONECMO Randomized Clinical Trial

【もっとひといき】
Prone positioning in severe acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med 2013:368:2159–68. Doi:10.1056/NEJMoa1214103.

Extracorporeal Membrane Oxygenation for Severe Acute Respiratory Distress Syndrome. N Engl J Med 2018:378:1965–75. Doi:10.1056/NEJMoa1800385.

このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学