New Surviving Sepsis Guidelines 循環管理 その1

post69.pngHemodynamics management 1

要約

循環管理に関わるガイドラインの大きな変更点は,輸液の種類,昇圧剤のタイミング,輸液戦略の3つである.本ガイドラインでは、蘇生のための輸液の第一選択として晶質液を推奨しており、今回の更新で、通常の生理食塩液よりもバランスのとれた晶質液(乳酸リンゲル液などの緩衝化された輸液のこと)を推奨している。また,昇圧剤のタイミングに関しては敗血症性ショックの患者に対しては、第一選択の昇圧剤としてノルエピネフリンを推奨し、中心静脈にアクセスできない場合には、昇圧剤の投与が遅れないように末梢から開始することを提案している。輸液戦略に関しては,初期の体液蘇生後の制限輸液戦略と自由輸液戦略のどちらが良いかに関しては推奨を出すための十分なエビデンスがなかった.

Fluid management

推奨32 弱い、中等度 成人の敗血症または敗血症性ショックの場合、蘇生のための第一選択の輸液として晶質液を使用することを推奨する.
推奨33 弱い、低い
成人の敗血症または敗血症性ショックの場合、蘇生には通常の生理食塩水の代わりに緩衝化晶質液(balanced crystalloid)を使用することを提案する。

輸液の第一選択は緩衝化晶質液を使用

輸液の種類としては生理食塩液よりも緩衝化晶質液が最初の輸液として推奨されるようになった.これまで,初期蘇生の輸液として,生理食塩液(0.9%塩化ナトリウム)の投与が一般的に行われてきた.しかし,生理食塩液はクロール(Cl)を多く含むため高Cl性代謝性アシドーシス、腎血管収縮、サイトカイン分泌の増加、急性腎障害(AKI)や腎代替療法の増加などの潜在的な副作用への懸念があった.2014年に敗血症患者を対象としたRCTを含めたネットワークメタ解析が行われており,緩衝化晶質液は生理食塩液と比較して死亡の低下と関連することが示唆された[1].しかし,ネットワークメタ解析の間接効果であること,十分大きなサンプル数ではないことから,エビデンスは不十分と判断され,2016年のガイドラインでは,「敗血症または敗血症性ショックの患者の蘇生に緩衝化晶質液または生理食塩水のいずれかを使用することを提案する(弱い,低い)」という推奨であった.
その後,SPLIT[2],SALT[3],SMART [4]などのいくつかの生理食塩液と緩衝化晶質液を比較するRCTの敗血症のサブグループ解析が報告された.これらの結果からは,緩衝化晶質液の方が,生理食塩液と比較して,アウトカムを改善する可能性があった。望ましい結果が緩衝化晶質液で増える可能性があることがガイドライン内で支持され,緩衝化晶質液とそれ以外の費用対効果の研究はまだないこと,エビデンスの質が低いことから、推奨度は弱い推奨となっている.PLUS study (NCT02721654)とBaSICS study[5]が現在進行中であり,これらの結果で次第で次回のガイドラインの推奨は変わる可能性がある.

その他の製剤に関する推奨には大きな変更はない.

推奨34 弱い、中等度 成人の敗血症や敗血症性ショックの場合、大量の晶質液を投与された患者では,晶質液を単独で使用するよりもアルブミンを使用することを提案する.
推奨35 強い、高い
敗血症や敗血症性ショックの成人に対しては、蘇生のためにデンプン(HES)製剤を使用しないことを推奨する。
推奨36 弱い、中等度
成人の敗血症や敗血症性ショックに対しては、蘇生のためにゼラチンを使用しないことを提案する。

アルブミンが敗血症患者の死亡,臓器障害,人工呼吸日数などのアウトカムを改善することは示されていないものの,アルブミンを投与した場合、敗血症初期および後期で血圧の上昇があり、static filling pressuresが高くなり、正味の体液バランスが少なくなるという報告があるため,このような推奨になっている.

HESの使用に関しては2016年から追加のエビデンスはなく変更はない.
ゼラチンは蘇生液として使用される合成コロイドである.ゼラチンとほかの生理食塩液や晶質液を比べた場合に,死亡への影響はまだわからないが、RRTのリスク増加,アナフィラキシーのリスク増加などの害が増加すること、コストが高くなることを考慮して、蘇生にゼラチンを使用しないという弱い推奨を出している。

1. Rochwerg B, Alhazzani W, Sindi A, et al. Fluid resuscitation in sepsis: a systematic review and network meta-analysis. Ann Intern Med. 2014;161(5):347-55.
2. Young P, Bailey M, Beasley R, et al. Effect of a Buffered Crystalloid Solution vs Saline on Acute Kidney Injury Among Patients in the Intensive Care Unit. JAMA. 2015;314(16):1701.
3. Semler MW, Wanderer JP, Ehrenfeld JM, et al. Balanced Crystalloids versus Saline in the Intensive Care Unit. The SALT Randomized Trial. American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine. 2017;195(10):1362-72.
4. Brown RM, Wang L, Coston TD, et al. Balanced Crystalloids versus Saline in Sepsis. A Secondary Analysis of the SMART Clinical Trial. American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine. 2019;200(12):1487-95.
5. Zampieri FG, Azevedo LCP, Corrêa TD, et al. Study protocol for the Balanced Solution versus Saline in Intensive Care Study (BaSICS): a factorial randomised trial. Crit Care Resusc. 2017;19(2):175-82.


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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学