ENIO

post72.jpg【論文】
Cinotti R, Mijangos JC, Pelosi P, et al. Extubation in neurocritical care patients: the ENIO international prospective study. Intensive Care Med. 2022;48(11):1539-1550.
doi:10.1007/s00134-022-06825-8

【Reviewer】
Tomohisa Nagayama, Toshiyuki Karumai

【Summary】
国際的多施設前向きコホートのデータから神経重症患者の抜管成功予測スコアの作成を試みた研究。
頭部外傷・脳卒中・中枢神経系感染で意識障害を伴った神経重症患者の抜管の評価は困難な場合が多いが、本研究の示したスコアに含まれる項目はそのような症例の抜管成功率を高めるのに参考にする価値がある。

【背景/Background】
<わかっていること>

  • 神経重症患者は、一般的な重症患者と比較して、人工呼吸期間が長く、抜管失敗率が高い。
  • 神経重症患者における最新のガイドラインでは、抜管管理または気管切開に関するエビデンスレベルの低さが指摘されている。

<わかっていないこと/臨床上の疑問>

  • 神経重症患者の抜管成功の要因はよく分かっておらず、どの患者が直接気管切開、すなわち抜管を試みずに気管切開することが有益であるのかも不明である。
  • 抜管成功予測スコアを作成する試みもされているが 、方法論的な問題(単盲検試験、検証コホートの欠如)がある
    →神経重症患者における抜管と気管切開のためのエビデンスに基づく臨床ガイダンスが欠如している <この研究の仮説/目的> 神経重症患者における抜管成功の予測スコアの作成・検証

【方法/Method】
<研究デザイン>
多国籍多施設前向き観察データによる予測モデル研究

<データベース/レジストリ> 

  • 評価項目 - 年齢、身長、体重、脳損傷の種類および位置(テント下)、ベースラインGCS、神経重症管理(バルビツール酸による深鎮静、治療的低体温、脳室ドレナージ、開頭減圧)および脳損傷の位置(後頭蓋窩)。
    - ICU入室後1日目,3日目,7日目の呼吸データ,鎮静管理,神経・筋遮断の使用
    - 医療関連肺炎、気管気管支炎、急性呼吸窮迫症候群およびWLSTの発生などの一般的なICU内イベント

    - 自発呼吸試験(SBT)成功日、初回抜管試行日、気管切開日

    - 抜管日の副腎皮質ホルモンの使用(抜管後の喘鳴対策)や経腸栄養の中止など抜管関連の管理について
    - 抜管当日のバイタルサイン(体温,心拍数,収縮期動脈圧),呼吸(SBTの種類と時期を含む),身体検査(咳評価,視覚追従,GCSの眼・言語・運動項目,咽頭反射)
    - 再挿管のタイミングと原因

<セッティング>
18カ国の73の集中治療室(ICU)で行われる、国際的な前向き観察研究
国内および国際的な集中治療・神経重症患者ネットワーク、および治験責任医師(PROtective VENTilationネットワーク、欧州集中治療医学会、Colegio Mexicano de Medicina Critica、Atlanréaグループ、Société Française d'Anesthésie-Réanimation-SFAR リサーチネットワークのメーリングリストとウェブサイト)を通じて施設を募集した。参加施設は、少なくとも6ヶ月の間に連続した患者をスクリーニングし、組み入れた。医療従事者と研究従事者が前向きに患者をスクリーニングし、参加させた

<期間> 
2018年6月26日から2020年11月15日まで

<事前プロトコルの有無>
神経危機患者の離脱・抜管に関する文献上のコンセンサスがないため、抜管戦略および抜管後の戦略(非侵襲的機械換気)は各施設の独自のプロトコールに従って実施された。

<患者選別>

  • 組み入れ基準:
    - 神経重症患者(外傷性脳損傷(TBI)、くも膜下動脈瘤出血(SAH)、頭蓋内出血(ICH)、虚血性脳卒中、中枢神経系感染(脳膿瘍、蓄膿症、髄膜炎、脳炎、脳腫瘍)患者
    - 18歳以上で,気管挿管前のベースラインのGlasgow Coma Score(GCS)が12以下でICUに入室し,24時間以上の侵襲的人工呼吸を必要とし,抜管試験や気管切開などの人工呼吸器からの解放の試みを受けた患者

  • 除外基準:
    - 18歳未満、妊娠中、T4以上の脊髄損傷、心停止後の蘇生、ギランバレー症候群、運動ニューロン疾患、筋ジストロフィー、重症筋無力症、抜管前の死亡、ICU入室後24時間以内の生命維持治療の中止(WLST)
    - 終末期抜管、主要な呼吸器系の合併症(在宅での慢性酸素、ゴールド分類の慢性閉塞性肺疾患グレードIIIまたはIVと定義)、主要な胸部外傷(Absbreviated Injury Score(AIS)≧3)などがありました。ICU入室前に気管切開を受けた患者も除外。
    - 人工呼吸離脱を試みずに死亡した患者は対象外

<Case> 抜管の失敗

<Control> 抜管の成功

<アウトカム> 

  • Primary objective:神経重症患者における抜管成功の予測スコアの作成・検証
    ※抜管失敗の定義:計画的または偶発的な最初の抜管を試みた後、5日以内に再挿管が必要になること。
    (過去文献を参考に5日間に加えて2日間の再挿管データも収集している)
  • Secondary objective:抜管失敗の原因、および抜管戦略(抜管試行、抜管失敗、抜管戦略を適用しなかった場合の気管切開)と転帰の関連
  • 再挿管時期・原因
  • 呼吸管理法の比較(抜管成功 vs 抜管失敗 vs 直接気管切開)
  • 鎮静法の比較 (抜管成功 vs 抜管失敗 vs 直接気管切開)
  • 抜管を試みた群 vs 直接気管切開 での特徴比較
  • 離脱戦略の違い(①抜管成功 vs 抜管失敗 ②抜管施行 vs 直接気管切開) と転帰(侵襲的/非侵襲的呼吸サポートの期間、ICU滞在、ICU死亡、院内死亡)の関連性の検討

<解析プラン>

  • サンプルサイズ計算
    多変量解析で少なくとも30の変数を評価するため300例の抜管失敗イベントを想定
    再挿管率20%の見積もりで300/0.2➡1500例目標

  • 使用する検定方法
    抜管成功・抜管失敗・直接気管切開の特徴および転帰を比較
    連続変数の比較:Students’s test/Mann-Whitney U検定
    カテゴリー:χ2乗検定

【予測スコアの作成における手順】
① 直接気管切開と治療撤退例を除外
② 組み入れ症例の2/3をTraining群、1/3をValidation群にランダム割付
③ ⽋損値は多重代⼊(MICE)法で補完
④ LASSO 回帰で抜管予測スコア項⽬を決定
 ●Complete score: 全項⽬
 ●Simplified score: ベッドサイドで計算 (最⼤12項⽬)
⑤ Logit係数から“重み“を決定(合計100点)
⑥ モデル性能評価
Training群とValidation群 双方をROC曲線とAUC計算
較正 (Calibration) : Hosmer Lemeshow検定
性能 (Overall performance) : Brier検定
⑦ 感度、特異度、陽性的中度、陰性的中度
⑧ 頑健性 (Robustness) : LASSO回帰 +10 different seed

【結果 Results】

  • 患者背景
    最終コホート(N = 1512)のうち、患者はTBI(725(47.9%))、ICH(521(34.5%))、SAH(269(17.8%))で、年齢中央値は54[36-66]歳、ベースラインGCSは7[5-9]。
  • フランス(44%), メキシコ(13.4%), イタリア(8.7%)で2/3を占める
  • 疾患の内訳は脳出血(39.8%), 外傷性脳損傷(35.5%), くも膜下出血(20.3%), 脳梗塞(10.8%), 中枢神経感染(4.3%), 脳腫瘍(4.3%)
  • 主要評価項目について
    ENIOの全コホートにおいて、1193例(78.9%)が少なくとも1回の抜管を試み、253例(21.2%)が抜管後28日以内に再挿管を必要とした。
    抜管失敗した253人のうち231人(19.3%)が5日目までに再挿管を必要とした(本研究の抜管失敗)

5日目の抜管失敗群は
- TBIが少ない(82(35.5%) vs 498(51.8%),p<0.001)
- 高齢(59[45-68]歳 vs 54[34-65]歳,p=0.002),
- ベースラインのGCSスコアが低い(7[5-8] vs 7[5-9],p=0.006 (本文Table1))

General management the day of extubation
抜管当日の一般的な管理は両群間に有意差なし
抜管成功と関連する当日Vital:体温, 心拍数, SpO2

Clinical features the day of extubation
追視、嚥下反射、咽頭反射で有意差あり

Clinical features the day of extubation
気管内吸引頻度、GCS(Total/motor)は抜管成功に関連あり

抜管成功予測スコア

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コホートのうち、抜管成功予測スコアに利用できたのは1106人。
トレーニングセットには737人、バリデーションセットには369人が含まれた。

→最適LASSOモデルは、20変数を保持。
トレーニングコホート(N = 308)におけるAUCは0.79 95%信頼区間(CI95)[0.71-0.87]、バリデーションコホート(N = 166)では0.71(95%CI[0.61-0.81])。

最適モデルで保持される変数の数を考慮し、使いやすく簡略化されたスコアも検証された。簡略化したスコア(Simplified score)では、7つの予測変数のみが保持された
- Simplified score: TBI、激しい咳、咽頭反射、嚥下試行、1時間に2回以下の気管内吸引、GCS運動スコア=6、抜管当日の体温の7項目。
このスコアのAUCは,トレーニングコホートで0.79 CI95 [0.71-0.86],バリデーションコホートで0.65 CI95 [0.53-0.76] であった.

完全スコア(Complete score)70点以上(理論範囲0~91点)における抜管成功の尤度比は3.67(感度0.24, 特異度0.94)であった。

  • 副次評価項目について
    抜管失敗の原因
    5日目抜管失敗群では、抜管失敗の主な原因は、神経学的障害(92(39.8%)患者)、呼吸不全(126(54.5%)患者)、気道障害(87(37.7%)患者)であった。

抜管試行なしの直接気管切開
直接気管切開は319例(21.1%)で行われ、気管切開のタイミングの中央値はIMV開始後9日[5-15]であった。
気管切開の主な理由は、重度の神経障害(237例(74.3%))、気道障害(51例(16%))、重度の顔面/頸部外傷(14例(4.4%))であった。気管切開の使用には国によって大きな差が認められた(p < 0.001)。

抜管失敗、気管切開と転帰
5日目抜管失敗の患者は、より頻繁に院内肺炎、急性呼吸窮迫症候群を起こし、IMVの期間が長く、ICU内死亡率が高かった。 2日目の抜管失敗の解析でも同様の結果が示された。
直接気管切開を行った患者は、直接気管切開を行わない患者に比べ、院内肺炎が多く、IMVの期間が長く、ICU内死亡率が高かった。

【論文の結論】

  • 飛躍していないか:いない
    この国際的な神経重症患者コホートでは、抜管失敗は高く、抜管後の5日間は注意深くモニターする必要がある。抜管を試みる代わりに直接気管切開に進む神経重症患者はより重症度の高い患者群であると思われ、今後特に調査する必要がある。

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【批判的吟味】 
内的妥当性について

  • Strength
  • 多国籍・多施設の規模の大きいコホートで目標のサンプルサイズ達成している。
  • 抜管失敗イベントの発生率も事前の見積り通りである。
  • 解析は事前の計画通りに実行され、変更はされていない。
  • Limitation
  • 観察研究であり、各因子と抜管失敗の因果関係の推論を行うことはできない。
  • ランダム化試験と違い、今回観察されていない因子の交絡は評価できない。
  • 直接気管切開の集団がスコア作成のコホートから除かれているため、当初想定したイベント数よりも少ないコホートで予測スコア作成を行っている。
  • Complete scoreでは120分以上のSBTが最も配点が高く、1-30分が最も低く、0分(SBTなし?)でやや加点される。SBTの試行および時間は医療者が恣意的に決めることができるため120分のSBTでもクリア可能な症例が30分未満で済まされると抜管可能性が低く見積もられてしまう。0分で加点されるのはSBT不要で抜管できると医療者が判断した症例がコホート内に一定数いて、実際に抜管成功していたからだろう。
  • GCS-Eyeは3点が最高点で、1-2が次点、4は0点となっている。GCSは抜管可能性と関連しないことは過去研究でも報告されているが、Bestの4点が最も成功尤度比を下げるのは不思議である。

  • 外的妥当性
  • Strength
  • 国際研究で集められたコホートであり外的妥当性は高い
  • 抜管失敗のイベント発生率が予測と近かったことも、目的とする症例を正しく集められていることを示唆する。
  • 抜管失敗を5日以内の再挿管と定義しており、より短い2日以内よりも実践的である。

  • Limitation
  • 検証コホートは学習コホートと同じ標本から抽出されたものであり、スコアのより妥当な検証はこれ以外のコホートでまた別に行われるのが望ましい。
  • 直接気管切開へ進んだ患者を除外したコホートに基づいたスコアなので、そのような患者群には当てはめることができない(直接気管切開すべき症例はどのような症例かも未知である)。

【Implication】
通常のプロセスで抜管までの評価が困難な神経重症患者の抜管成功予測スコアを、国際的に前向きに集められたコホートで作成した本研究の意義は大きい。
十分な覚醒が得られないために抜管を躊躇する神経重症患者は臨床でも度々出くわすが、本研究の示したスコアに含まれる項目はそのような症例の抜管成功確率を高める評価の役に立ってくれるかもしれない。
一方でスコアの各項目を見ると、現場で生じているバイアスも含んだスコアになっている可能性もある。今後妥当性の検証が重ねられていくことを期待する。

【本文サイト】
https://link.springer.com/article/10.1007/s00134-022-06825-8

【もっとひといき】
同著者によるコラム。Figureにエッセンスがまとまっている。
https://link.springer.com/article/10.1007/s00134-022-06907-7

このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学