RADAR-2

post70.jpg【論文】
Feasibility of conservative fluid administration and deresuscitation compared with usual care in critical illness: the Role of Active Deresuscitation After Resuscitation-2 (RADAR-2) randomised clinical trial

【Reviewer】澤村 夏生

【Summary】
制限的輸液管理と積極的除水管理は実行可能であり、通常診療と比較して体液バランスを減らすことができる。そして、利害両方の可能性があり、重症患者における制限的体液管理に関してはより十分なPowerのある大規模な試験が必要である
*deresuscitation:利尿薬や限外濾過を用いて蓄積された体液を積極的に除去する

【目的】
重症患者において、通常診療と比較して、 制限輸液と積極除水の体液管理の実現可能性、安全性、臨床転機を調査する

【わかっていること】

  • 輸液療法は集中治療に欠かせない。輸液はしばしば重症患者の蘇生のため、心拍出量の改善やショックの改善のために大量に投与される。加えて、重症患者において維持輸液や電解質補正、薬剤の溶媒として輸液が使用される。腎臓や内分泌の要因のために体液量が減少している場合には、ポジティブバランスが蓄積されるのは典型的である。
  • 観察研究では一貫してポジティブバランスと死亡率や人工呼吸期間延長といった負のアウトカムの間に用量依存関係がある。輸液蓄積量の安全な閾値は不明である。
  • Fluid overload:典型的にはプラスバランスとなっている状況でおきる臨床的に末梢浮腫または肺水腫(確立された定義なし)
  • Fluid overloadに対処するために2つの戦略が発展してきた

    (1)輸液制限:蘇生輸液を制限
    ・PilotRCTでも輸液を制限するアプローチは安全であり、臨床転帰の改善と関連が示唆された。Chest 158:1431-1445 (2020)/ Intensive Care Med 42:1695-1705(2016)
    だが、十分な検出力を持った臨床研究で効果的だとわかっても、薬剤希釈液や栄養剤など他の水分摂取の寄与が遥かに大きいことを考えると、このアプローチ(蘇生輸液の制限)は体液過剰の発生を防ぐのに十分であるとは言えない
    Crit Care Med 46:1600-1607(2018)/Intensive Care Med 44:409-417(2018)/ Crit Care Med 46:1217-1223(2018)

    (2)Deresuscitation:利尿薬や限外濾過による積極的な除水
    ・除水は一般診療でしばしば使用されるが、最適なアプローチ、エンドポイントは不明   Intensive Care Soc 21:111-118.(2020)
    ・系統的レビューとメタ解析では重症の初期蘇生を過ぎた患者では制限的輸液戦略とderesuscitationは非制限的輸液戦略よりも人工呼吸期間やICU入室期間を短縮させた。しかし、その解釈は研究間の異質性のため制限された。
    また一部の患者を対象とした事後解析でderesuscitationが12ヶ月後の認知機能障害と関連していた
    a systematic review and meta-analysis. Intensive Care Med 43:155-170.(2017)/Crit Care Med 185:1307-1315.(2012)

  • 全体として、制限的輸液戦略や積極的除水戦略の益と害は不明である。

【わかっていないこと】

  • Deresuscitationは利尿薬や限外濾過を用いて、積極的に除水することでこの治療は一般的に使用されるが、適応や用法、エンドポイントが特定されていない

【目的】
今回のfeasibility trial(実現可能性を評価するRCT)の目的は成人重症患者において、通常診療と比較して、制限的輸液戦略と積極的除水戦略の実現可能性、安全性、臨床アウトカムを調査することである

【PICO】
P 人工呼吸器を要し、かつICU入室から24−48時間経過し、かつ翌日以降もICU治療が必要になる可能性が高い患者
I ランダム化から5日目までは維持輸液中止。適応を満たせば−1000〜-3000ml/日バランスとなるように除水する
C 通常診療(担当医の判断で輸液、利尿、限外濾過を実施)
O 試験開始 2日目から3日目までの24時間の体液バランス

【期間】2018年4月から2020年1月

【場所】イギリスの8施設

【デザイン】

  • オープンラベル並行群間比較 多施設ランダム化比較試験
  • 事前プロトコルの有無: あり (データ解析前に出版済)
  • ランダム化の方法:層別ブロックランダム化 層別因子:施設 ブロックサイズ:4または6 オンラインのランダム化ツール利用して4人もしくは6人の順列ブロックで1:1の割合
  • 隠蔽化の有無: 無
  • マスキングの有無と対象者:Open-label 6ヶ月後のアウトカム評価者にはマスキング

Inclusion Criteria
人工呼吸器治療を要し、かつICU入室から24−48時間経過し、かつ翌日以降もICU治療が必要になる可能性が高い患者

Exclusion Criteria

  • 16歳以下
  • 体重40kg以下
  • DKA、HHS、非外傷性くも膜下出血、急性心不全、心原性ショック
  • 末期腎不全
  • 糖尿病性尿崩症の治療中。
  • 妊娠中
  • 72時間生存困難と予想される
  • DNAR希望
  • 同意拒否
  • 書面または口頭による情報を理解できず、通訳も利用できない場合
  • この研究での薬剤の1つもしくはそれ以上アレルギー反応がある
  • 水分出納が測定不可能

【N】 180

【介入】 2段階の輸液戦略
(1)無作為化から5日目まで維持輸液を中止して、臨床チームには血液やそのほかの明らかな体液の喪失が疑われる状況をのぞいて、輸液投与をしないように要請
(代替療法が奏功しない、または制限されている場合、電解質異常がある場合など心血管が不安定な場合の輸液は認められた)
(2)試験 2〜5日目 毎日除水開始基準を満たすか検討
ICU入室時から累積体液2000m以上もしくは
身体の少なくとも2箇所以上に浮腫(肺、脇腹、上肢もしくは下肢)
でかつ禁忌なければフロセミド0.5mg/kg(Max40mg)ボーラスして、2.5〜20mg/hで開始。加えてインダパミド5mg/日とスピロノラクトン100mg/日を経腸投与する
1日バランスがー1000〜3000mlになるように漸増した。
*禁忌
ノルアドレナリンorアドレナリン>0.2mcg/kg/min 1種類以上の昇圧剤使用 Lac>3.5mmol/L 血清K<3.0mmol/L 血清Na<130mmol/L or >150mmol/L
(*インダパミド:サイアザイド系利尿薬で力価表は明らかではない。日本では2mg/日前後で漸減)
(RRT患者には利尿薬投与せず、1日バランスが同じ量となるように調整した)
プロトコルの最大量の利尿薬を投与しても利尿が得られない場合RRTを開始するよう推奨したが、開始判断は臨床医の裁量
介入は試験開始5日目、ICU退院、死亡、同意の撤回で中止

【対照】
通常診療に従って、担当臨床チームの判断で利尿薬使用、限外濾過を行う

【主要評価項目】
試験開始2日目から3日目にかけての24時間における体液バランス

【副次評価項目】

  • 実現可能性アウトカム:ICU入室時から試験3日目及び5日目の開始時までの累積体液量、組み入れ率、プロトコル逸脱の発生頻度
    組み入れ率:施設ごとの、スクリーニングされた患者の割合及びICU入室した全患者に占めるリクルートの割合
  • 安全性アウトカム:有害事象(重篤なもの・重篤でないもの)
  • 臨床的アウトカム:
    28日及び180日後の死亡率
    人工呼吸期間、及びICU入室期間
    新たな急性腎障害の発生率
    (急性腎障害はCre基準のKDIGO stage3と計算式を用いて体液バランスを補正した後のCre基準によるKDIGO stage3の2通りで定義)
    180日目に電話連絡して認知機能(Montreal Cognitive Assessment-BLIND)、QOL(EQ-5D-5L)、不安・抑うつ症状(Hospital Anxiety and Depression scale)、PTSD(Impact of Events Scale-Revised)を評価する質問表を記入
  • 探索的アウトカム
    近赤外分光法を用いて、 2つの研究センターのサブセットの参加者の脳と大腿四頭筋の酸素濃度を最大72時間測定

【解析】

  • サンプルサイズ計算:
    先行の観察研究より通常治療群で予想される体液バランスが494±1512mlであることから、24時間で群間に750mlの差を検出するために
    (*先行研究のエビデンスやプラクティスに基づいて、主要アウトカムについて750mLの群間差を検出することとした J Intensive Care Soc 21:111-118(2020) Intensive Care Med 43:155-170(2017) Crit Care 23:392-410(2019))
    Power90% αレベル0.05→174名の患者(各群87名)
    (サンプルサイズは3%のdropout 見越して180人に増えた)
  • ITTの有無:ITT解析 
  • 中間解析の有無:なし
  • 感度分析の有無:あり
  • 交互作用検定の有無:あり 

主要評価項目を含む連続関数: t検定またはノンパラメトリックな変量法を用いてグループ間比較
カテゴリー変数:カイ二乗検定or フィッシャー正確確率検定
全生存率:Cox PHモデルと残差平均生存時間法
ハザードの等質性:log-rank検定とCOX比例ハザードモデル

Additional Analysis
事前に計画されたper-protocol解析
(1)介入群の試験期間の少なくとも50%の日にフロセミド点滴を施行していない患者を除外
(2)介入群の体液バランス-1000〜-3000を達成した患者のみを組み入れ、通常治療分で利尿薬を投与された患者を除外
で28日死亡率、生存者のMV期間、ICU滞在期間の臨床転帰を多変量回帰分析

サブグループ解析:ARDS(Berlin基準)、敗血症(Sepsis-3) (外傷性脳損傷は患者が少なく省略)

【結果】

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外)
    1068人の患者がCriteriaを満たしたが、888人が除外された。
    888人
  • 72時間以内に生存の見込みがない(n=204)
  • 心不全(n=126) ・不同意(n=90) ・失敗(n=76)
  • 臨床医の均衡が欠如(n=74)
  • くも膜下出血(n=47) ・DKAやHHS(n=24) ・末期腎不全(n=16)
  • 体重<40kg(n=2) ・その他(n=219))
    N=180人がランダム化された(介入群N90 対照群N90)
  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性)
    Baseline:介入群の方がARDSの割合が多く、昇圧剤使用多くRRT多い
  • アドヒアランス ―――
  • 主要評価項目 試験開始2日目から3日目にかけての24時間における体液バランス
    平均値 介入群−840(SD1756)vs通常群+130(SD1401) P<0.01
  • 副次評価項目 5日目の累積バランス
  • 平均値 介入群+397(SD 4173) vs 通常群+3692(SD4415) P<0.01
  • 死亡率など臨床アウトカムは差なし
  • 重篤ではない有害事象 介入群で高い(低/高Na、代謝性アルカローシス)
    介入群 人数31/89(34.4%) vs 通常群17/90(18.9%) P=0.03
  • サブグループ解析 敗血症のサブグループで28日死亡率が介入群の方が高い
    介入群 人数14/40(35.0) vs 通常群4/32(12.5%) P=0.03
    しかしベースラインの時点で介入群の方がRRTや昇圧剤の使用が多く、ベースライン不均衡や介入群の方が、重症度が高かったことを考慮して解釈する必要がある。
  • 事前に計画されていたPer Protocol分析
    (1)介入群で少なくとも50%の日にプロトコルに沿った除水の介入を受けなかった12人除外
    (2) 2回目のPer Protocolは 2日目時点で体液バランスが1000−3000mlではない人、通常群で利尿薬が使用された人が除外された
    →(1)も(2)もどちらも主要解析結果と一致であった

【Discussion】

  • 重症患者全体を対象としたオープンラベルの臨床試験において、制限輸液と利尿もしくは限外濾過を使用したderesuscitationは実現可能であり、通常診療と比較して蓄積体液量を減らした。
  • 体液バランスが死亡率と強く関連するICU入室早期において、介入群と通常診療群とで体液バランスに差をつけられるか検証するために、試験開始2日目から3日目にかけての24時間における体液バランスを主要評価項目とした
  • フロセミドは重症患者に最も広く使用される利尿薬であり、インダパミドとスピロノラクトンは一連のネフロンBlockerを行うために利用され、単剤の副作用を最小限に抑えNa利尿と利尿を高めた
  • 本研究で血行動態が安定した後の体液バランスを最小限にすることが実現可能であった
  • 介入群では維持輸液およびBolus輸液の投与量が少なかったが、両群間の体液バランスの差は、主に利尿や限外濾過によるものであった。
  • deresuscitationの潜在的な副作用としては高/低Na血症、低K血症などの電解質異常、代謝性アルカローシスなどがある。今回介入群で腎機能低下や心血管機能低下は認めず重篤な有害事象の発生率は両群間同等であった。
    今後のトライアルでは代謝性アルカローシスを抑えるために別の利尿薬の組み合わせが検討される。
  • 敗血症患者では28日の死亡率の上昇と関連していた
    →ベースライン不均衡や介入群の方が、重症度が高かったことを考慮して解釈する必要がある。
    →患者数が少なく、重症度の調整は行えなかった。
    →最近の研究と比較し対照群での死亡率が予想外に低かった。
  • 輸液制限が同等もしくはより良い臨床転帰となることが示唆されていることを踏まえ、今回がType1エラー(第一種過誤)の可能性もある
  • しかし敗血症患者において積極的な除水戦略が有害になる可能性は考慮せねばならず今後の研究では慎重に検討する必要がある。
  • 臨床的なサブグループ(内科/外科/脳神経外科など)で有益性とリスクが異なる可能性があることも示している。

【Strength・Limitation】

  • Strength
  • Limitation
    (1)臨床転帰の違いを検出するには検出力が足りない
    (2)Baseline特性に偏りがある。また鎮静剤の使用など血行動態に影響しうる因子で収集されていなかったものが、2群間で偏っていた可能性がある。
    (3)除水の適確基準が広く、ICU入室後の体液バランスや浮腫は体液の状態を測定するには不正確。体液量がより多い、もしくは少ない患者群がderesuscitationの利益を受けるのかもしれないが、それも不明。
    (4)臨床的均衡が欠如し、Protocolを遵守した介入が行われないことがしばしばあった
    (5)他の臨床試験同様、組み入れ基準を満たした患者のうち除外基準に該当せず無作為化された割合が16.8%と少なく、外的妥当性が制限される

【Conclusion】

  • 成人重症患者では制限輸液を行い、利尿薬や限外濾過を用いてFluidoverloadを最小限に抑える管理は実現可能である
  • 臨床では大きな変動性があり、また実際の診療では広くDeresuscitationが行われていることを踏まえ、制限的な輸液とDeresusucitationに関しては患者中心のOutcomeの差を検出できるようにした大規模な無作為化試験が必要であり、敗血症の有無に関わらず患者への影響の違いを考慮すべきである

【論文の結論】

  • 飛躍していないか: ない

【批判的吟味】
Feasibility Study: 本調査の前に「このStudyは可能か」という問いに答えるために行われる調査のこと。本調査のデザインに必要な重要なパラメーターを推定するために使用される。
https://www.nihr.ac.uk/glossary?result_1655_result_page=Fhttp://www.nets.nihr.ac.uk/glossary?result_1655_result_page=P
Feasibility studyはアウトカムを評価するものではなく、それは本研究に託す。
https://bmcmedresmethodol.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-2288-10-67

<内的妥当性>
内的妥当性
Strength
-RCT並びにITT解析

Limitation
-オープンラベルである
-Baseline特性に差がある、鎮静剤使用などの情報がない
<外的妥当性>
外的妥当性
Strength
-多施設RCT

Limitation
- 除水開始基準は適切であるか
-フロセミドに加え、インダパミドやスピロノラクトン併用する治療法が実臨床で標準的か
-適格患者の16.8%しかEnrollできていない(臨床医の均衡性欠如:74、その他:219)
-Protocol違反が37名見られた
【Implication】 
feasibility trialで通常診療への影響はない
除水開始基準など課題は残るが、DeresuscitationのFeasibilityが確認されたので大規模なRCTを待ちたい

【本文サイト】
Feasibility of conservative fluid administration and deresuscitation compared with usual care in critical illness: the Role of Active Deresuscitation After Resuscitation-2 (RADAR-2) randomised clinical trial
https://link.springer.com/article/10.1007/s00134-021-06596-8


Tag:, , , , ,

このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学