New Surviving Sepsis Guidelines スクリーニングと初期蘇生編

post66.pngScreening and Resuscitation
スクリーニング

スクリーニングに関しては3つの推奨がなされている。

推奨1 post66_1.gif 病院が敗血症のパフォーマンス改善プログラムを使用することを推奨する。
(※スクリーニングは中等度、標準化された手順は非常に低い)
推奨2 post66_2.gif qSOFA を、SIRS、NEWS、MEWS と比較して、敗血症または敗血症性ショックの単一スクリーニングツールとして使用しないことを推奨する。
推奨3 post66_3.gif 敗血症が疑われる成人に対して、血中乳酸値の測定を提案する。

qSOFAの位置づけを明確化

この項で重要な点は、qSOFAを SIRS、NEWS、MEWSと比較して、単一の敗血症スクリーニングツールとして使用しないことを推奨したことである。
qSOFA (quick SOFA)スコアは、SOFAスコアをつけることが困難と想定される場所(一般病棟、救急外来、非急性期病院)でより簡便に敗血症を疑うきっかけとなるツールとして2016年の敗血症の定義変更の際に考案された。Seymourらの研究では、院外、救急、一般病棟の感染症が疑われる患者において「Glasgow Coma Scale (GCS)<15、sBP≦100mmHg、RR≧22回/min」のうち、2項目以上当てはまること(q SOFA陽性)がより院内死亡を予測することを示した。ここで注意したいのはあくまで敗血症ではなく死亡を予測するということである。死にそうだから敗血症に注意しておこうという論法である。この研究をうけて、「GCS<15」を「意識の変容」として言い換えることで、qSOFAが策定された。qSOFAは意識、循環、呼吸の項目からなりSOFAの項目に一部、対応しながらもベッドサイドで簡便に、素早くスコアリングすることが可能であり、スクリーニングツールとして期待された。

しかしその後の研究で、敗血症の診断において、SIRSの4つの基準のうち2つを満たすことよりも、qSOFA陽性の方が特異度は高いが感度が低いことが示された[4]。つまり、qSOFA陽性であれば、敗血症を疑って精査を進めるのが良いが、qSOFA陰性だからといって「敗血症ではない」とは言えない。そもそものqSOFAの予測モデル作成過程として敗血症の診断ではなく院内死亡をアウトカムにしており、他の変数の多い予測モデルと比較すれば劣るのは自明である。敗血症スクリーニングの文脈では感度、特異度のどちらを優先するかなどの議論が重要である。SIRSもqSOFAも単一で万能な敗血症スクリーニングツールとはなりえず、医療従事者はそれぞれの特性や限界を理解して使用する必要がある。

初期蘇生

推奨4 post66_4.gif 敗血症と敗血症性ショックは、医療緊急事態であり、直ちに治療と蘇生を開始することを推奨する。
推奨5 post66_3.gif 敗血症による低灌流や敗血症性ショックの患者には、蘇生後3時間以内に少なくとも30mL/kgの晶質液を輸液することを提案する。
推奨6 post66_5.gif 成人の敗血症や敗血症性ショックに対しては、身体検査や静的なパラメータだけではなく、動的な指標を用いて輸液を行うことを提案する。
備考: 動的パラメータには、passive leg risingや輸液反応性が含まれ、ストロークボリューム(SV)、その変動(SVV)、脈圧の変動(PPV)、または心エコーが利用可能な場合はそれを使用する。
推奨7 post66_3.gif 成人の敗血症や敗血症性ショックの場合、乳酸値が上昇している患者には、血清乳酸値を使用しないよりも、血清乳酸値を低下させるように蘇生を誘導することを提案する。
備考: 急性期の蘇生において、血清乳酸値は、臨床的背景および乳酸値上昇の他の原因を考慮して解釈されるべきである。
推奨8 post66_3.gif 敗血症性ショックの成人に対しては、他の灌流測定法の補助として、毛細血管充填時間(CRT)を蘇生の指針として用いることを提案する。

初期輸液30ml/hr.は強い推奨から弱い推奨へ

敗血症は生命を脅かす状態であり、迅速に認識し、直ちに治療と蘇生を開始し(BPS)、敗血症による低灌流または敗血症性ショックの患者の初期蘇生には、30mL/kgの晶質液の静注を提案された。この推奨は、エビデンスの質が低いことから、「強い推奨」から「弱い推奨」に格下げされた。

これは、敗血症または敗血症性ショックにおける初期蘇生の異なる輸液量を比較した介入研究がなく、観察研究のエビデンスのみに基づくため、GRADE評価でエビデンスの確信性が低いことから弱い推奨になった。

推奨理由では体液過剰のリスクが強調されるようになったことについての言及はなかった。成人を対象とした過去起点研究では、末期腎不全や心不全などの併存疾患の有無とは無関係に、敗血症発症後3時間以内に30ml/kgの晶質液治療を受けられなかった場合、院内死亡割合の上昇、低血圧の解消の遅延、ICU滞在期間の延長と関連していることが示されている[5]。初期蘇生に関しては当面はデフォルトで30ml/kgの診療が続きそうである。

平均動脈圧

推奨9 post66_6.gif 敗血症性ショックで昇圧剤を使用している成人では、初期の平均動脈圧(MAP)の目標値として、65mmHgより高い血圧ではなく、65mmHgを目標値とすることを推奨する。

65 trialなどが新たにメタ解析に追加され、MAPの目標値を高くしても利点はなく、高齢者ではMAPの目標値を60〜65mmHgにしても害はないことから[6-8]、昇圧剤を必要とする敗血症性ショック患者の初期蘇生においては、MAPを65mmHgの目標値が推奨となった。昇圧剤の使用には不整脈をはじめとする害もあるので、必要最低限の使用に止めるのが大切である。

ICUへの入室

推奨10 post66_3.gif ICUへの入室が必要な成人の敗血症または敗血症性ショックに対しては、6時間以内にICUへの入室を提案する。

ICUへの移動は可能なら早い方が良いが、敗血症の重症患者をICUに直ちに移すことが常に可能とは限らない多くの理由があり、特に低中所得国では、ICUのベッド利用可能数が限られていることにも配慮された。日本国内では大規模病院で集中治療体制が拡充されつつあるが、大規模病院の一般病棟や小中規模の病院で主治医や当直医が他の業務をしながら敗血症患者を抱える時代はそろそろ終焉を迎えるべきである。


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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学