New Surviving Sepsis Guidelines Methodology編

post65.pngSurviving Sepsis Campaign(SSC)による新しいガイドラインが2021年10月に発表された。SSCは2002年に敗血症と敗血症性ショックによる死亡や罹患の低減に取り組む組織で、これまで、2004, 2008, 2012, 2016年に、成人の敗血症および敗血症性ショックの治療に関するベストプラクティスと推奨を提供するガイドラインを発表してきた。2021年10月にガイドラインが更新され、これで第5版となった。前回同様、Critical Care Medicine[1]およびIntensive Care Medicine[2]に同時掲載されている。
SSCG2021は可能な限り他のガイドラインとの重複を避ける方針となっており、敗血症に特有のケアに焦点を当てて作成されている。特に、集中治療室(ICU)から退室した後の敗血症患者のケアを改善することなどに重点が置かれており、以前のバージョンよりも多様性が増している。
このブログでは数回に分けて、SSCG2016からSSCG2021への変更点に力点をおいて解説する。

ガイドラインの作成プロセス
今回のガイドラインの作成プロセスなどはSupplementary Informationと別記事に記載されている[3]。
SSCG2021はSociety of Critical Care Medicine(SCCM)とEuropean Society of Intensive Care Medicine(ESICM)がスポンサーとなり、Guidelines in Intensive Care Development and Evaluation(GUIDE)グループが方法論をサポートし、さらに24の学会が承認している。産業界からの資金提供はなく、パネルメンバー、患者の参加、利益相反の管理も明確に行われている。 敗血症の定義はsepsis-3の定義が用いられ、ガイドラインの使用場所としてはhigh resource countryが設定されている。
今回のガイドラインでは、6つのドメイン(スクリーニングと初期蘇生、感染、循環動態、人工呼吸、追加治療、治療目標と長期転帰)が選択された。各ドメインでPICO形式のclinical question (CQ)が設定され、専門司書とガイドライン作成メンバーが検索式を作成し、英語文献を対象にガイドライン方法論者の監修のもと、systematic reviewが行われた。可能な限りintention-to-treatデータを重視して関連データを抽出し、従来のメタアナリシス手法が用いられて解析されている。
 
<推奨方式>
強い推奨("We recommend")は、推奨を遵守することで得られる望ましい効果が望ましくない効果を明らかに上回るという高い確信性を反映している。弱い推奨(「我々は提案する」)は、望ましい効果が望ましくない効果を上回る可能性が高いことを示している。ベスト・プラクティス・ステートメント(BPS)は、評定されていない強い推奨を反映しており、有益性または有害性が明白であるが、GRADE手法に基づいてエビデンスを要約または評価することが困難な場合には使用されている。
これらの推奨方式に関しては2021年からの変化はない。一方で、臨床家、患者、医療政策者の観点からの推奨の解釈などのコンテンツが方法論に記載されている。

視点

強い推奨

弱い推奨

患者

ほとんどの人は、推奨された行動をとることを望むでしょう。望まない人もわずかにいる。

大多数の人は提案された行動を望むだろうが、それなりの人が望まないかもしれない。

臨床家

ほとんどの人が推奨された行動をとるべきである。

異なる患者には異なる選択が適切かもしれない,治療は個々の患者さんの状況に合わせて行われるべきである

医療政策者

推奨は、パフォーマンス指標としての使用を含め、ほとんどの状況でポリシーとして適応できる。

方針決定には、多くの関係者が参加し、議論を重ねる必要がある

今回のガイドラインではEvidence-to-decision frame work (EtD)が導入された。このプロセスはGRADEアプローチで採用されている標準化された推奨作成の手法である。具体的には、テーマとなる問題の重要性を評価し、望ましい効果と望ましくない効果を定義し、エビデンスの革新性を評価し、効果のバランス、必要とする資源、費用対効果、実行可能性などの点から推奨を決めるプロセスである。

前回同様GRADEアプローチがとられているものの、本編のガイドラインは推奨事項とその推奨となったエビデンスについてのみ解説されており、推奨決定までの理由やその透明性が欠けている。ガイドライン評価ツールであるAGREE2で評価するとその点は低い質になるかもしれない。一方で前回のガイドラインは重くてブラウザが動かなくなったりしていたので、ユーザーフレンドリーな体裁にはなっているようには思われる。

推奨事項
合計93の推奨があり、
・スクリーニングと初期蘇生(n=10)
・感染(n=21)
・循環動態(n=14)
・人工呼吸(n=12)
・追加治療(n=16)
・ケアの目標と長期転帰(n=20)
を取り上げている。15は強い推奨(16%)、54は弱い推奨(58%)、15はBPS(16%)、9は「推奨なし」(10%)である。

今回の記事では以下のようなアイコンを使って推奨をまとめた。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学