RECOVERY

post63.jpg【論文】
Dexamethasone in Hospitalized Patients with Covid-19 -- Preliminary Report.
The RECOVERY Collaborative Group.;Peter Horby,et al. The New England Journal of Medicine.
July 17,2020.
DOI: 10.1056/NEJMoa2021436
PMID: 32678530

【Reviewer】 Yumi Kohno

【Summary】

  • COVID-19患者において、デキサメサゾン6mg/日(最大10日間投与)は、酸素療法の必要な患者の28日死亡率を低下させる。
  • 酸素投与不要な患者の死亡率の低下はない。

【Research Question】
Covid-19入院患者において、デキサメサゾン投与は標準治療群と比較して28日死亡率を改善するか

【わかっていること】

  • Covid-19は全世界でパンデミックの状態で、多くの薬が治療薬として検討されている。
  • しかし、効果が示された治療薬はレムデシビルのみで、下気道症状のあるCovid-19入院患者における症状改善までの期間短縮が示されているが、(ACTT-1 study)死亡率の低下は示されていない。
  • Covid-19は、感染から早期にウイルス増殖が起き、熱や咳などの症状が出たあと、1週間程度で自己免疫反応応答が肺傷害が起き、さらに免疫応答が過剰になると、血栓傾向、ARDS、多臓器不全へ進行する。
  • ウイルス増殖の時期を過ぎた時期で、患者の免疫応答を抑える目的で免疫抑制剤であるステロイドを投与すれば進行が抑えられる可能性がある。
  • しかし、過去の研究では他の重症ウイルス感染(MERS,SARS)でのステロイドの有益性は示されず、Covid-19患者のステロイド投与については推奨されていなかった。(WHO. 2020年1月時点)

【わかっていないこと】
過去の重症ウイルス感染症でのタイミング・量・種類は統一されておらず、Covid-19患者への有益性は不明である。

【仮説/目的】
Covid-19 入院患者において、デキサメサゾン投与は標準治療群と比較して28日死亡率を改善する。

【PICO】
P: Covid-19入院患者

Inclusion Criteria:
 Covid-19入院患者(疑いを含む)
 18歳以上の成人(2020.5.9〜小児、妊婦、授乳婦も対象)

Exclusion Criteria:
 病院で治療薬が入手できない、または
 臨床医が患者にとって禁忌であると考えた場合

I :デキサメサゾン投与
C:標準治療
O:28日死亡率

【期間】
2020年3月19日〜2020 年6月8日
事前プロトコールあり
NIH臨床研究ネットワークによるサポートあり

【場所】 イギリス 176施設

【デザイン】
多施設オープンラベルRCT、Adaptive design

●事前プロトコルの有無 :あり

●ランダム化の方法 : 標準治療群:デキサメサゾン群=2:1でランダム化
(Simple randomization, Web-based)

※platform design:
 下記Main randomizationではPart A + Part B
 ランダム化から21日以内にSpO2 92%以下またはCRP>75mg/Lに進行した場合は
 Second randomaizationに進む
 [Main randomization]
・Part A: 2:1:1:1:1でランダム化
(治療薬なし:ロピナビル・リトナビル:デキサメサゾン:ヒドロキシクロロキン:アジスロマイシン)
・Part B:2:1 =治療薬なし:回復期血漿

[Second randomization]
 2:1=治療薬なし:トシリズマブ

●割付隠蔽化あり

・マスキングの有無と対象者 :オープンラベル
 参加者とスタッフは盲検化なし
 調査チームのメンバー盲検化あり

【N】 6425人

【介入】
デキサメサゾン内服または静注(1日1回、6mg投与)最大10日間(退院が早ければ退院日まで)
妊婦の場合はプレドニゾロン40mg内服またはヒドロコルチゾン80mg静注1日2回

【対象】追加投与薬なし

【主要評価項目】
Covid-19入院患者の28日死亡率

【副次評価項目】

  • 退院までの期間
  • ランダム化時点で人工呼吸器管理されていない患者について
     →人工呼吸器管理開始(ECMO含む)または死亡
  • 疾患別死亡率 (Cardiovascular, Non-vascular, other)
  • 透析
  • 重大な不整脈
  • 人工呼吸器使用、人工呼吸日数

【解析】

  • サンプルサイズ計算
    パンデミックの状態であり、開始時のサンプルサイズ計算はできず。
    Studyの進行とともに28日死亡率20%、介入群16%に設定、α 1%、Power 90%
    介入群2000人、標準治療群 4000人が集まった時点で2020年6月8日に終了

●ITT解析
[Primary outcome]
Cox回帰分析でハザード比を解析しKaplan-Meier 生存曲線
サブグループ解析:
 呼吸サポートレベル(人工呼吸器使用、酸素投与、酸素なし)
 年齢、性別、症状発現からの日数、28日間の死亡リスク
 人種(データ収集が完了したら解析予定)

6月7日の締め切り時点で、28日時点の情報がない患者(0.1%)は生存しているものとして扱った。
データ収集後にデキサメサゾン群の年齢が1.1歳高いため、ベースライン調整
・調整年齢カテゴリーは<70歳、70-79歳、≧80歳の3つで区別

[Secondary outcome]
ランダム化時点で「人工呼吸されていない患者の人工呼吸器使用+死亡」の
 複合アウトカムを二項(あり/なし)回帰で解析

【結果】
●フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外)
11,303人のうち、デキサメサゾン入手ができない病院、投与できない患者は除外され、
9355人のうち、2930人は他の治療群に割付され、
残り6425人をデキサメサゾン群2104人、usual care群4321人に割付。
また、症状の進行により、トシリズマブのSecond randomizationを受けた患者は、デキサメサゾン群4.5%, ususalcare群で6.4%で、ITT解析

●集団特性(内的妥当性・外的妥当性)
両群のベースラインはほぼ同等
年齢は70歳未満が54-58%、70代が20-22%、80歳以上が22-23%の患者集団
糖尿病患者と心疾患が25%前後、慢性呼吸器疾患が20%程度
患者の60%が酸素投与を受け、15%が人工呼吸器管理

●アドヒアランス
デキサメサゾン群の95%に投与が行われ、アドヒアランス良好

●主要評価項目 :28日死亡率
デキサメサゾン群482人( 22.9%)vs 標準治療群1110人(25.7%), ARR2.1%
(age-adjusted rate ratio, 0.83; 95% CI, 0.75 to 0.93; P<0.001).

[サブグループ解析]デキサメサゾン投与群:標準治療群
・人工呼吸器群: 29.3% vs 41.4%,  ARR 12.1%, Rate ratio 0.64
・酸素投与群:  26.3% vs 23.3%,   ARR 3%, Rate ratio 0.82
・酸素投与なし群: 17.8% vs 14%, Rate ratio 1.19

●他の有意差有りのサブグループ:
・70歳以下 :11.3% vs 17.1% (Rate ratio 0.64)
・発症から7日間以上に投与:17.9% vs 24.1% (Rate ratio 0.69)

・副次評価項目
・退院までの期間:デキサメサゾン群 12day vs 標準治療群13day (Rate ratio 1.1)
・人工呼吸器管理されていない患者についての人工呼吸器管理開始(ECMO含む)または死亡:
 人工呼吸器管理移行はデキサメサゾン群5.7% vs 標準治療群 7.8% (Risk Ratio 0.77)
・他の項目については現在解析中

【論文の結論】
COVID-19患者において、デキサメサゾン6mg/日(最大10日間投与)は、
酸素療法の必要な患者の28日死亡率を低下させる。
酸素投与不要な患者の死亡率の低下はない。

・飛躍していないか
 いない

【批判的吟味】
<内的妥当性>
●Strength
・28日死亡率をoutcomeとした大規模RCT
・アドヒアランスが良い
・フォローアップの脱落が少ない
・登録患者の9割がSARS-CoV-2 のPCR陽性である
 (原疾患についての異質性が非常に低い)
●Limitation
・オープンラベル
・サンプルサイズの事前設定なし
・患者のベースの重症度、検査値などの詳細な情報はない
・28日が評価に適切な期間ではない可能性が残る
・block-randomizationされておらず、施設間の偏りが生じる可能性

<外的妥当性>
●Strength
・デキサメサゾンは入手しやすく低コスト
・1日1回投与であり、臨床的に投与しやすい
・副作用が少なく、適応できる患者が多い
●Limitation
・ヨーロッパの死亡率は高く、各国によって差が大きい
・デキサメサゾンが使えない施設に来た人は除外(施設特性の偏り)

【Implication】
Pandemic下での大規模RCTであり、データの不足やバイアスの可能性があるが、十分なサンプルサイズでhard outcomeを示した点は評価される。
 他に効果のある薬剤が証明されていない現段階では、デキサメサゾン投与は支持されると考えられる。

【本文サイト】
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2021436

【引用】

  1. Dexamethasone in Hospitalized Patients with Covid-19 -- Preliminary Report.
    The RECOVERY Collaborative Group.;Peter Horby,et al. The New England Journal of Medicine.July 17,2020. DOI: 10.1056/NEJMoa2021436 PMID: 32678530
  2. Beigel JH, Tomashek KM, Dodd LE, et al. Remdesivir for the treatment of Covid-19 -- preliminary report. N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa2007764. PMID: 32445440
  3. Hasan K Siddiqi, Mandeep R Mehra,et al.COVID-19 illness in native and immunosuppressed states: A clinical-therapeutic staging proposal. DOI:10.1016/j.healun.2020.03.012. PMID: 32362390
  4. Ruan Q, Yang K, Wang W, Jiang L, Song J. Clinical predictors of mortality due to COVID-19 basedon an analysis of data of 150 patients from Wuhan, China. Intensive Care Med 2020;46:846-8. DOI: 10.1016/S0140-6736(20)30317-2. PMID: 32043983
  5. COVID-19 Treatment Guidelines Panel. Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Treatment Guidelines. National Institutes of Health. https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/

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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学