LOCO2
【Reviewer】Ryutaro Fukagai、Toshiyuki Karumai
【論文】Barrot L, Asfar P, Mauny F, et al. Liberal or Conservative Oxygen Therapy for Acute Respiratory Distress Syndrome. N Engl J Med. 2020;382(11):999-1008. doi:[10.1056/NEJMoa1916431]. PMID:32160661
【Research Question】ARDSの患者において, 低いPaO2目標は死亡率を改善するか
【わかっていること/いないこと】
- ARDSの国際的観察研究 LUNG SAFE studyでは人工呼吸初日のFiO2の中央値は0.6、SpO2の中央値は96%だった[1]。
- Liberalな酸素投与(PaO2目標下限75mmHgのみ)とConservativeな酸素投与(PaO255-86mmHg,SpO292-95%)を比較したbefore-after studyではConservative群で28日死亡率が低かった[2]。
- ARDSの酸素療法に関して、PaO2ターゲットの根拠となる質の高い研究はなされていない。
【仮説/目的】 ARDSの患者において、低いPaO2目標は患者の28日死亡率を改善する。
【PICO】
P: ARDSの患者
Inclusion Criteria:
1. 挿管&人工呼吸管理開始から12時間以内の患者
2. Berlin定義を満たすARDS患者 明らかな誘因または呼吸器症状の出現または悪化から1週間以内 胸部画像での両側性陰影(胸水、無気肺、結節のみでは説明できない)
肺水腫の原因が心不全や輸液過量のみでは説明できない
PEEP≧5cmH2OでP/F比≦300
Exclusion Criteria:
- 妊婦
- 鎌状赤血球症
- 喀血あり
- 18歳未満
- 長期間の酸素療法をされている
- ECLS、ECMO使用患者
- COPD既往で自宅でNIV使用
- 数時間で死亡するリスクが高い
- シアン化合物中毒
- メトヘモグロビン血症
- 未治療の気胸
- 癌性リンパ管炎
- 好酸球性肺炎
- 臓器提供者
- 意思決定能力のないもの
- 心停止
- 高圧酸素療法
- 外傷性脳損傷
- 頭蓋内圧亢進をきたしている患者
I: 酸素療法の目標をPaO2 55-70mmHg
C: 酸素療法の目標をPaO2 90-105mmHg
O: 28日死亡率
【期間】2016年6月-2018年9月
【場所】フランスのICU 13施設
【デザイン】多施設非盲検化RCT ・ランダム化の方法: Computer randomization、blocks size:4 ・隠蔽化の有無: あり ・事前プロトコルの有無: あり ・マスキングの有無と対象者: Open label
【N】205
【介入】Conservative Oxygen: PaO2 55-70mmHg(SpO2 88-92%)で7日間、7日以内に抜管した場合は抜管時まで 6時間毎に動脈血液ガスを確認。 目標PaO2から5mmHg以内であればFiO2を0.05、5mmHg以上離れていた場合はFiO2を0.10ずつ調整。 血液ガス測定時にはSaO2とSpO2を比較し乖離がないか確認。 動脈血液ガスを測定していない間の6時間は、5分ごとにSpO2を見ながらFiO2を0.05ずつ調整
【対照】Liberal Oxygen: PaO2 90-105mmHg(SpO2≧96%)に管理 管理方法は介入群と同様
【両群共通の治療】 A/Cモード、VCV (VT 6ml/kg) PEEPはP/F比に応じて調整 P/F比200-300mmHgの場合はPEEP 5-10cmH20 P/F≦200の場合は、プラトー圧28-30mmH2Oを上限としP/F>200となるようPEEPを上げる。 P/F比>200mmHgを12時間超えた時点でPEEP圧は5-10cmH2Oに設定する。
[呼吸器のweaning] 3日目以降でP/F比>200mmHg の患者 原疾患治療済み、もしくはコントロール良好の場合に実施 動脈血ガス採取後15分220分後にPEEP 5cmH2Oを目標に漸減 P/F比≧150mmHgの場合、PEEP 5-10cmH2Oの間に設定 P/F比<150mmHgの場合、24時間以内に再検討する。
[SBT] PS 7cmH20、PEEP 0cmH20、もしくはT-Tubeを用いて実施。 30-120分間。 成功時には抜管。
[抜管後] 予防的なNIV使用を推奨。 治療目的のNIVは推奨されず、再挿管を推奨。
【主要評価項目】 28日時点での全死因死亡率
【副次評価項目】 ICU死亡および90日時点での死亡 0、3、7日時点のSOFA score 28日時点でのVAPと敗血症 最初の7日間での心血管系イベント(新規発症の不整脈、虚血、血管収縮薬の使用) 28、90日時点での呼吸器のweaning成功 RASSによる神経系の評価 けいれん、脳梗塞、神経遮断薬の使用、せん妄
【解析】
- サンプルサイズ計算 :対照群の28日時点での死亡率を30%、介入群で21%の死亡率を想定。 Power 90%、α=0.05の片側検定→サンプルサイズを850人に設定。 中間解析で有害事象増加のためサンプルサイズ205人で中断となり、片側検定から両側検定へ変更になった。
- ITTの有無: あり
【結果】
- フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外) :396人のeligibilityを評価 191人が除外 .人工呼吸器使用後12時間以上(n=100), 18歳未満(n=2), 心停止でICU入室(n=13), 死亡リスクが高い(n=24), ECMO使用(n=7), TBI、頭蓋内圧亢進(n=4), COPD患者で自宅で酸素療法、NIV使用(n=8), 意思決定能力の欠如(n=10), 他の理由(n=23)
- 集団特性(Low O2 vs. High O2 ) P/F比 116.8±47.4 vs. 120±53.6,SOFA score 9.3±3.68 vs. 8.9±3.6
- アドヒアランス 7日間のFiO2、pO2、SaO2はConservative群で有意に低い
- 主要評価項目 28日全死亡率: 34/99 (34.3%) vs. 27/102 (26.5%) (difference 7.8%; 95%CI、-4.8 to 20.6)
- 副次評価項目 90日死亡率: 44/99 (44.4%) vs. 31/102 (30.4%) (difference 14.0%; 95%CI、0.7 to 27.2) 年齢、pO2、SAPSIIIで調整→Hazard ratio 1.62(95% CI、1.02-2.56) 有害事象: Conservative群で腸管虚血5件、Liberal群ではなし→試験中断
【Strength・Limitation】
- Limitation 安全性への考慮から計画よりも症例が少ない段階でトライアルは中止されたため、結果の信頼性については疑問が残る。
【論文の結論】
- 飛躍していないか: いない
【批判的吟味】
<内的妥当性> オープンラベルである。 早期終了しており、当初のサンプルサイズに到達していない。 当初の解析計画と検定方法が変更された(片側検定→両側検定)。 P/F比に基づいてPEEPを決定するプロトコルだったため、FiO2の違いが両群のPEEP値に影響した可能性がある。
<外的妥当性> 多施設RCTである。 Moderate~severeのARDS患者が多く登録されている。 広く知られているARDS NetworkのPEEP表とはPEEP設定法が異なる。 SBTがZero-PEEPまたはT-tubeで行われている。
【Implication】
サンプル数の問題はあるが、ARDSの患者においてConservativeな酸素療法は死亡リスクを増やす可能性が示唆された。 ARDSの酸素療法の管理目標はこれまでの研究を踏まえるとPaO260-90mmHg、SpO292-96%程度が至適と考える[3]、[4] 。
【本文サイト】https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1916431
【引用】
- Bellani G, Laffey JG, Pham T, et al. Epidemiology, Patterns of Care, and Mortality for Patients With Acute Respiratory Distress Syndrome in Intensive Care Units in 50 Countries. JAMA. 2016; 315(8):788-800.
- Helmerhorst HJF, Schultz MJ, van der Voort PHJ, et al. Effectiveness and Clinical Outcomes of a Two-Step Implementation of Conservative Oxygenation Targets in Critically Ill Patients: A Before and After Trial. Crit. Care Med. 2016; 44(3):554-563.
- Girardis M, Busani S, Damiani E, et al. Effect of Conservative vs Conventional Oxygen Therapy on Mortality Among Patients in an Intensive Care Unit: The Oxygen-ICU Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016; 316(15):1583-1589.
- Panwar R, Hardie M, Bellomo R, et al. Conservative versus Liberal Oxygenation Targets for Mechanically Ventilated Patients. A Pilot Multicenter Randomized Controlled Trial. Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2016; 193(1):43-51.
このサイトの監修者
亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗
【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学