DEXA-ARDS

post61.jpg【論文】
Villar J, Ferrando C, Martínez D, et al. Dexamethasone treatment for the acute respiratory distress syndrome: a multi-centre, randomized controlled trial.
Lancet Respir Med. 2020;8(3):267-276. doi:10.1016/S2213-2600(19)30417-5

【Reviewer】 Motohiro Kurosaki, Eri Kobayashi

【わかっていること】

  • ARDSに対して薬理学的に効果の証明された治療はない。
  • ステロイドには、抗炎症作用と抗線維化作用があり、ARDSの病態に有効と考えられてきた。
  • 発症7日目以降のARDS患者に投与することで、人工呼吸器離脱期間を短くし酸素化の改善をもたらすことが報告された。[1]
  • その後、抗炎症を期待し発症初期から早期投与をすることで同様の結果が示されたが、60日死亡率などのハードアウトカムの改善は示されなかった。 [2]
  • 9つのRCTのメタ解析にて炎症反応の減少、ガス交換の改善、人工呼吸器期間の短縮、ICU滞在期間の短縮が示されたが、生存率には有意な差が認められなかった。 [3]
  • これらの結果を受けてthe Society of Critical Care Medicine と the European Society of Intensive Care Medicine のガイドラインでは、ARDSに対するステロイドの使用は条件的な推奨に留まっていた。 [4]
  • ステロイドの種類に関しても、メチルプレドニゾロン1-2mg/kg/dayが用いられることが多く、先行研究では頻回投与が必要になっていた。デキサメタゾンは、今までのRCTにて用いられてこなかったが、生体内のコルチゾールよりも20-30倍の強力な作用があり、長時間作用型である。1日1回投与で治療に向いている可能性が示唆されていた。

【わかっていないこと】
ARDS患者に対するデキサメタゾンの有効性

【仮説/目的】
中等症から重症のARDS患者にデキサメタゾンを早期投与すると、人工呼吸期間と全死亡率を減らす。

【PICO】
P: the American- European Consensus Conference criteria or Berlin criteria で中等度〜重症を満たすARDS患者

Inclusion criteria

  • 18歳以上
  • 気管挿管+人工呼吸管理中
  • 急性発症(1週間以内に誘引あり)の中等度〜重症ARDS
    (the American- European Consensus Conference criteria or Berlin criteriaのmoderate〜severeARDSを満たす )

Exclusion criteria

  • 妊婦
  • 授乳中
  • 脳死
  • 癌などで末期状態
  • DNARの意思がある
  • すでにステロイドや免疫抑制剤使用中
  • 他の治験に参加している
  • 重症なCOPD
  • 慢性心不全


I: 従来の治療に加えデキサメタゾンを投与した群
C: 従来の治療群
O: 人工呼吸器離脱期間

Method
【期間】2013/3/28-2018/12/31
【場所】スペインの17ある、teaching hospitalのICU
【デザイン】 

  • オープンラベル ランダム化比較試験
  • 事前プロトコル:有り
  • ランダム化の方法:封筒法(コンピューターによる作成、センター毎に層別化)
  • 割付隠蔽化:有り
  • マスキング:無し(現場の臨床医・看護師はマスキングなしだが、データ統計の解析者はマスキングあり)

【介入】標準治療+デキサメタゾン(DEX)投与

  • 1-5日目までは1日1回 DEX 20mg、6-10日までは1日1回 DEX 10mgを投与
  • 10日目より前に抜管された場合、抜管直前までDEX投与しその後は終了とした


【対照】標準治療
Lung-protective therapy

  • TV 4-8ml/kg、予想体重
  • Pplateu<30cmH20
  • PaCO2 35-50mmHgのpermissive hypercapnia
  • ARDS networkのPEEP-FiO2 表に従い、PaO2>60mmHg、SpO2>90%を保った

筋弛緩薬、鎮静、腹臥位、リクルートメント手技は担当医の判断で施行

常に抜管できないかARDS net protocolのSBTに基づいて評価し、満たしたら特に理由がない限りすぐに抜管を試みた。

  • SBTはFiO2<0.6を下回り、担当医が適していると判断したら施行。
  • SBTはTピースかPS 8cmH2Oで30-120分試みた。
  • NIV、再挿管、抜管、人工呼吸器設定については両群とも臨床医の判断で施行した。

【主要評価項目】
ランダム化後28日経過した時点での人工呼吸器離脱日数

  • 抜管後48時間再挿管とならないことを成功と定義した
  • 抜管した日から離脱日数を計算した
  • 28日間以上挿管されていた症例や抜管前に死亡した場合は日数を0とした

【副次評価項目】
ランダム化後60日経過した時点での全死亡率

  • 60日前で退院した場合は家庭医や外来の電子カルテで追跡
  • 家庭医や外来フォローがない場合は、患者や親族に電話で追跡した

その他
生存者の人工呼吸器期間、ICU死亡率、病院死亡率、最初の10日間の高血糖、Barotrauma、ICU入室中の新規感染

【解析計画】

  • 目標N;314
  • サンプルサイズ計算
    デキサメタゾンが人工呼吸器離脱日数を2日以上延長 or 60 日死亡率を15%以上減少させると推測。
    先行研究から人工呼吸器離脱日数を9日、60日死亡率を48%と見積もった。
    Power : 80% 、type I error : 5%とした。R softwareを用いた.
  • ITT解析:有り


【結果】

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ率、除外理由)
    1006人中630人がExclusion criteriaに伴いまず除外され、24時間以内の再評価で更に99人を除外。
    結果的には277人が割り付けられた(当初のサンプルサイズより少ない88%で終了)

  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性)
    患者のベースラインで差はない。
    男性70%、平均年齢55、ARDS原因(肺炎50%、敗血症25%、誤嚥10%)、中等症が8割、重症が2割

  • 治療のアドヒアランス
    スクリーニング違反とプロトコール違反、転院による脱落は両群で3-4人。

  • 主要評価項目
    28日間の人工呼吸器離脱日数は介入群で有意に長い
    DEX群 12.3 vs介入群 7.5 days (集団差95%CI 2.57-7.03 days、P<0.0001)

  • 副次評価項目
    60日死亡率は介入群で有意に改善 (DEX群 vs 介入群 21% vs 36%)
    合併する有害事象(感染・高血糖・Barotrauma)で有意差なし

Discussion

  • 結果の総括
    本研究では、moderateからsevereなARDSの患者に対してデキサメタゾンを投与することで、人工呼吸器離脱期間を4日以上短くし、60日生存率を15%増やすことが示された。

  • 著者による結果の解釈(過去の研究との比較etc.)
    実際の全死亡率 (36%) が予想された48%よりも低かったのは、Lung-protective therapyや腹臥位療法の普及が一因かもしれない。

  • Limitation
    本研究の強み
    ・moderate〜severe ARDS の患者を対照するRCTでは最大規模の277人をenrollしている。厳格なinclusion criteriaを設け、24時間後にも再評価したことで、真に重症な患者群をenrollできた。
    ・半減期の長いデキサメタゾンを使用したことで、10日間の治療レジメンよりも長期に効果が持続した可能性がある。

    本研究の弱み
    ・プラセボを使用しておらず、現場で治療に携わった医療者はマスキングされていなかった。


【著者の結論】
中等度から重症のARDS 患者に対して、早期にデキサメタゾンを投与することで、人工呼吸器の離脱期間を早め、全死亡率を減らす可能性がある。

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論文の解釈
【論文の結論】

  • 飛躍していないか:していない

【批判的吟味】
<内的妥当性>
Strength

  • 大規模RCT

Limitation

  • DEX投与をMaskingできたはずだが、本研究はオープンラベル試験であり情報バイアスが入っている。
  • 本研究で使用したステロイドの量、種類、タイミングが適切か不明。
  • 両群で標準治療のばらつきもある。
  • 6年と長期間研究されているが、予定の88%しか患者群を組み込まずに早期に中止されている。

<外的妥当性>
Strength

  • Lung-protective therapyや腹臥位療法を取り入れ、現在のARDSの治療の標準治療を行っている。
  • 多施設研究である。

Limitation

  • 厳格な除外基準を設けたことで、実際に組み込まれた被験者数は27%ととても低かったため、適応となる症例は限定される。

【Implication】
本研究では中等症〜重症のARDSに対してデキサメタゾンの有効性が示された。
大規模RCTで、最新のARDS治療を取り入れデキサメタゾンを初めて用いたことは評価できるが、研究デザインを考慮すると効果の期待できる適応症例は限られる。また死亡率はSecondary outcomeであり、今後の追試での評価が期待される。
当院ICUではさらなる追試を待って導入を検討する。

【引用】

[1] Steinberg KP, Hudson LD, Goodman RB, et al. Efficacy and safety of corticosteroids for persistent acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med. 2006;354(16):1671-1684. doi:10.1056/NEJMoa051693
[2] Meduri GU, Golden E, Freire AX, et al. Methylprednisolone infusion in early severe ARDS: results of a randomized controlled trial. Chest. 2007;131(4):954-963. doi:10.1378/chest.06-2100
[3] Peter JV, John P, Graham PL, Moran JL, George IA, Bersten A. Corticosteroids in the prevention and treatment of acute respiratory distress syndrome (ARDS) in adults: meta-analysis. BMJ. 2008;336(7651):1006-1009. doi:10.1136/bmj.39537.939039.BE
[4] Annane D, Pastores SM, Rochwerg B, et al. Guidelines for the Diagnosis and Management of Critical Illness-Related Corticosteroid Insufficiency (CIRCI) in Critically Ill Patients (Part I): Society of Critical Care Medicine (SCCM) and European Society of Intensive Care Medicine (ESICM) 2017. Crit Care Med. 2017;45(12):2078-2088. doi:10.1097/CCM.0000000000002737


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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学