ENCHANTED

post50.jpg【論文】
intensive blood pressure reduction with intravenous thrombolysis therapy for acute ischemic stroke(ENCHANTED): an international, randomized, open-label, blinded-endpoint, phase 3 trial.
Craig S Anderson, et al. Lancet. 2019 Mar 2;393(10174):877-888. doi: 10.1016/S0140-6736(19)30038-8. Epub 2019 Feb 7.
PMID: 30739745

【Reviewer】 Ami Takesawa

【Summary】

  • 脳梗塞急性期において、アルテプラーゼ静注後の積極的な降圧管理(目標収縮期血圧:130-140mmHg)はガイドライン推奨の降圧管理(目標収縮期血圧<180mmHg)と比べて神経学的予後を改善しない。
  • 神経学的予後の改善にはつながらなかったが、積極的な降圧管理は頭蓋内出血の発症率を減少させた。

【Research Question】
脳梗塞急性期において、アルテプラーゼ静注後の積極的な降圧管理(目標収縮期血圧:130-140mmHg)はガイドライン推奨の降圧管理(目標収縮期血圧<180mmHg)と比べ神経学的予後を改善するか。

【わかっていること】

  • 血栓溶解療法後の血圧管理について、収縮期血圧>170mmHgの患者は141-150mmHgの患者と比べて症候性頭蓋内出血の発症は4倍である1)2)
  • 高血圧に伴う脳出血の懸念があるのにも関わらず、2018年AHA/ASAガイドラインではアルテプラーゼ静注前の収縮期血圧<185mmHg, 拡張期血圧<110mmHg、静注後24時間は血圧<180/105mmHgに管理するよう推奨している3)
  • 血圧と死亡率はU字型に相関し、死亡率が最も低い至適血圧は収縮期血圧:140-150mmHgである4)

【わかっていないこと】 

  • 血栓溶解療法後の血圧管理で、積極的な降圧管理が頭蓋内出血のリスクを減らすのか、脳虚血を増悪させるのかわかっていない。

【仮説】
脳血栓溶解療法後の積極的な降圧管理はガイドライン推奨の降圧管理より神経学的予後を改善する。

【PICO】
P:18歳以上で収縮期血圧>150mmHgのt-PA適応ある脳梗塞急性期患者

Inclusion Criteria

  • アルテプラーゼ静注による血栓溶解療法の適応がある。
  • 治療医が血栓溶解療法後に積極的降圧管理を行うことのリスクベネフィットを知らない場合。

Exclusion Criteria

  • 重度の認知症なでで血栓溶解療法のメリットが見込めない。
  • 24時間以内に死亡する可能性が高い。
  • 結果や経過に影響を及ぼす多くの併存疾患がある。
  • アルテプラーゼまたは降圧薬の禁忌がある。
  • 他の試験に参加している。


I: 積極的な降圧管理(収縮期血圧<130-140mmHgを目標)
C:ガイドラインに基づいた降圧管理(収縮期血圧<180mmHg)
O: 
主要評価項目:90日後の神経学的機能評価(mRSで評価)
副次評価項目

  • mRS score 2-6点 vs 2点未満/3-6点 vs 3点未満
  • 24-72時間の死亡 or 神経学的機能低下(NIHSSで4点以上の低下)
  • 死亡の主な原因
  • 入院期間
  • QOL(EuroQoLで評価)

主要安全性評価項目:頭蓋内出血(脳出血、くも膜下出血)の発症

【期間】2012/3-2018/4/30

【場所】中国を中心とした15カ国 110施設
※ただし韓国は降圧管理に関する研究対象から除外

【デザイン】
International, multicenter, prospective, randomized, open-label, blinded-endpoint trial with a 2×2 partial-factorial design
ランダム化1.アルテプラーゼ投与量:少量vs通常量
ランダム化2.降圧管理:積極的な降圧vsガイドライン推奨の降圧管理

  • 事前プロトコールの有無:あり
    積極的降圧群:収縮期血圧を130-140mmHgを目標に降圧
    ガイドライン推奨群:収縮期血圧<180mmHgを目標に降圧
  • ランダム化の方法:1:1割付
    *Minimization
    -施設
    -症状発症からの経過時間(<3時間or ≧3時間)
    -NIHSS score <10 vs ≧10
  • 隠蔽化の有無:有り password-protected, web-based program
  • マスキングの有無と対象者:open-label、評価者のみ盲検化


【N】 2227人

【介入/対象】
脳梗塞急性期のアルテプラーゼ静注後の降圧管理
介入(積極的降圧群):収縮期血圧を130-140mmHgを目標に割付から1時間以内に静注薬で降圧し、静注薬または経口薬で少なくとも72時間は目標血圧を維持
対象(ガイドライン推奨群):収縮期血圧<180mmHgを目標に降圧

  • 降圧薬は各施設の治療プロトコールに準じて
  • 適切なモニタリング、急性期ケアの対応可能な環境
  • 適応があれば血栓除去術は許可


【血圧測定方法】

  • NIBP
  • 非麻痺側(意識障害または四肢麻痺の場合は右上腕)
  • 少なくとも仰臥位で3分安静後
  • 測定のタイミング
    血栓溶解療法終了後から1時間以内:15分毎、1-6時間:1時間毎、6-24時間:6時間毎、以降1週間(または退院、死亡した場合はその時点で終了):1日2回


【神経学的評価】

  • 評価方法:NIHSS GCS
  • 評価のタイミング:1 治療開始前 2 アルテプラーゼ投与24時間後 3 アルテプラーゼ投与72時間後


【合併症の評価】

  • 評価方法:頭部CT±MRI
  • 評価のタイミング:1 治療開始前 2 アルテプラーゼ投与24時間後(適宜臨床的に疑わしい所見があれば追加で評価)
  • 画像評価:
    脳虚血または脳梗塞早期、hyperdense artery signを各施設で記録。頭蓋内出血の診断は専門家によって本部で分析。


【主要評価項目】
90日後の神経学的機能をmRSで評価

【副次評価項目】

  • mRS score 1.2-6点vs2点未満 2.3-6点vs 3点未満
  • 24-72時間の死亡または神経学的機能低下(NIHSSで4点以上の低下)
  • 死亡の主な原因
  • 入院期間
  • QOL:EuroQoLで評価


【主要安全評価項目】
頭蓋内出血(脳出血、くも膜下出血)

【解析】

  • サンプルサイズ:2304人
    二項ロジスティック回帰分析で積極的降圧群のpoor outcome(mRS score:3-6点):43%、ガイドライン推奨群のpoor outcome:50%とし絶対リスク減少を14%の差が出ると仮定して計算。
    α=0.05 検出力90%(β=0.1)
    ※5%のドロップアウト、アルテプラーゼ少量投与と積極的な降圧管理の交絡因子を考慮
  • ITT解析
    Primary outcomeは順序ロジスティック回帰分析、他のoutcomeは二項ロジスティック回帰分析
  • 感度分析:
    調整分析:Minimizationに交絡因子を加えた項目で調整
    per protocol解析


【プロトコールの改正】
改正1.(2013/11/12)

  • 収縮期血圧の目標値の引き下げ:140-150mmHg→130-140mmHg
  • 血圧コントロール割付までの時間の延長:4.5時間以内→6時間以内
  • 目標血圧までの到達時間の延長:アルテプラーゼ開始から60分以内→割付から60分以内
  • 副次評価項目の変更:積極的な降圧管理が症候性頭蓋内出血を減らすかどうか→無症候性を含めたすべての頭蓋内出血を減らすかどうか
  • サンプルサイズの削減:3300→2304


改正2.(2017/02/16)

  • 主要評価項目の解析方法を変更:二項ロジスティック解析→順序ロジスティック解析
    結果としてサンプルサイズ削減(2304→2100)


【結果】

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外)
    2227人が条件を満たし、31人が除外(同意なし、割付間違い)
    2196人のアルテプラ-ゼ適応患者を2群に割付(積極的降圧群:1081人(49.2%)、ガイドライン推奨群:1115人(50.8%))
  • 集団特性(積極的降圧群/ガイドライン推奨群)
    発症から割付までの時間3.4/3.3h、女性37.1/38.9%、≧80歳13.8/15.2%、アジア人73.6/73.9%、収縮期血圧165.4/165.2mmHg、拡張期血圧91.2/90.7mmHg、脈拍79.4/79.2回/分、NIHSS score7/8、GCS15/15、mRS 0点85.7/85.6% mRS 1点14.3/14.4%

  • アドヒアランス
    収縮期血圧の両群間の差は平均5.5mmHg[95% CI, 4.5-6.4]
  • 使用された降圧薬
    ウラジピル、フェントラミンなど各施設のプロトコールに準じた降圧薬を使用
  • 主要評価項目:
    90日後の神経学的機能評価:(積極的降圧群/ガイドライン推奨群)
    0点:28.6/28.2%、1点:24.9/23.8%、2点:12.9/14.4%、3点:10.3/10.8%、4点:9.1/9.4%、5点:4.7/5.4%、6点:9.5/7.9%
    1.01[95% CI, 0.87 to 1.17];p=0.87 調整後0.97[95% CI, 0.83 to1.13];p=0.72
  • 副次評価項目:
    90日後の死亡または神経障害(mRS score2-6点)、24-72時間の死亡または神経学的機能低下(NIHSSで4点以上の低下)、死亡の主な原因、入院期間、QOLでITT解析に加え調整解析、per protocol解析でも有意差はなかった。

  • 主要安全性評価項目
    頭蓋内出血発症率はガイドライン推奨群209人(18.7%)に対して積極的降圧群160人(14.8%)で0.75[95% CI, 0.60 to 0.94];p=0.01

【Strength・Limitation】
<Strength>

  • 多施設大規模ランダム化試験
  • 結果の評価者が盲検化されている。
  • subgroupで交互作用のある項目はなかった。

<Limitation>

  • 研究期間中にプロトコールを改正している。
  • open-labelであるため治療介入者が盲検化されていない。
  • アジア人が7割を占める。
  • 降圧管理によって両群間で血圧差がつかなかった。
  • NIHSSでmild-to-moderateの脳梗塞が多かった。

【論文の結論】
t-PA適応のある脳梗塞急性期に対して、ガイドラインに基づいた降圧管理(収縮期血圧<180mmHg)と比較して積極的な降圧管理(収縮期血圧130-140mmHg)は90日後の神経学的予後を改善しなかった。

【批判的吟味】
<内的妥当性>

  • ランダム化比較試験である。
  • 結果の評価者は盲検化されている。
  • プロトコール改正後も神経学的予後の改善に有意差が出なかったことから、恣意的な変更ではなかったと考える。
  • 治療介入する医師の潜在的なselection biasによって両群間で降圧後の血圧に差がつかなかった。
  • 治療介入前の平均NIHSS score:7点のmild-to-moderateの脳梗塞が多かったため、治療介入効果の説得力に欠ける。
  • 収縮期血圧>185mmHgの患者にはアルテプラーゼ投与禁忌であることから、重度高血圧患者の頭蓋内出血リスクについては評価できていない。

<外的妥当性>

  • 参加者の7割がアジア人、かつそのほとんどは中国人である。使用されていた降圧薬は日本では使われてないウラジピル、フェントラミンが多かったため日本で同様の結果が得られるとは限らない。
  • アジア人は動脈硬化の有病率が高く症候性頭蓋内出血のリスクが高いが、人種間で治療効果に差はなかった。

【Implication】

  • 血圧は様々な要因で上下するため厳密な管理が困難であり、至適血圧は個人によって異なる。神経学的予後の改善に寄与しないことから、積極的な降圧管理を導入するには至らない。
  • 使用した降圧薬の大半は日本で使われていないものであり、日本で頻用されているニカルジピンで同じ結果が得られるとは限らないため本研究の結果はpracticeを変える根拠とはならない。

【本文サイト】
www.thelancet.com Published online February 7, 2019 http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(19)30038-8

【もっとひといき】

【引用】

  1. Wahlgren N, Ahmed N, Eriksson N, et al. safe implementation of thrombolysis in stroke¬monitoring study (SITS¬MOST). Stroke 2008; 39: 3316-22.
  2. Ahmed N, Wahlgren N, Brainin M, et al. Relationship of blood pressure, antihypertensive therapy, and outcome in ischemic stroke treated with intravenous thrombolysis. Stroke 2009; 40: 2442-49.

  3. 2018 Guidelines for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke
    A Guideline for Healthcare Professionals From the American Herat Association/American Stroke Association
  4. Relationship of Blood Pressure, Antihypertensive Therapy, and Outcome in Ischemic Stroke Treated With Intravenous Thrombolysis

Tag:, , , ,

このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学