STOP-IT trial

post48.jpg【論文】
R.G. Sawyer, J.A. Claridge, A.B. Natherns, et al. Trial of Short-Course Antimicrobial Therapy for Intraabdominal Infection
N Engl J Med 2015;372:1996-2005. PubMed PMID:25992746

【Reviewer】 Satoru Robert OKAZAKI

【Summary】

  • STOP-IT trialは2008年8月〜2013年8月に行われた成人の適切に感染源のコントロールが行われている腹腔内感染症患者において、従来どおり全身状態を加味して抗菌薬投与期間を決定する治療方法と4日間の固定された抗菌薬投与による治療方法を検証した517人のオープンラベルRCTである。
  • 試験中は中間解析でfutilityのため中止となり、30日死亡率、Surgical Site Infection(SSI)、腹腔内感染症の再発をあわせた複合アウトカムを含めて、主要な項目において両群間で有意差は認めなかった。
  • 腹腔内感染症患者でも適切に感染源のコントロールが行われていれば、術後4日間の抗菌薬治療により治療可能である。

【Research Question】
適切なソースコントロールがされた腹腔内感染症に対して、より短期間の抗菌薬投与は従来の抗菌薬投与期間と比較して死亡率や合併症の発生率が同等であるか?

【わかっていること】

  • 腹腔内感染症罹患率は患者背景により異なり5〜50%にも達する。
  • 腹腔内感染症に対する抗菌薬選択については強固なエビデンスに基づいてガイドラインが設定されている。
  • IDSAやSurgical infection societyのガイドラインでは臨床経過に応じて4−7日間の投与が推奨されているにもかかわらず、実際の臨床現場では10−14日間の抗菌薬投与が行われている。
  • 約2割に臨床的に重大な感染性の合併症が生じるが、不適切なソースコントロールや原病の進行に伴うものであり、おそらく抗菌薬投与のみでは左右されない。

【先行研究】

  • 汎発性腹膜炎の連続23症例のケースシリーズ研究(3−5日間の抗菌薬投与でもhistrical cohortと同等)
  • 90人の軽症−中等症の腹腔内感染患者を3または5日間以上のErtapenem投与の2群にランダム割付した研究(半数以上が虫垂関連疾患で感染性の合併症が10%以下)

【わかっていないこと】
腹腔内感染症に対する適切な治療期間

【仮説/目的】

  • ソースコントロール後、規定期間の抗菌薬投与(4日間)は同等の結果をもたらすか?
  • SIRSに関連した生理学的異常の解消後2日までの抗菌薬投与するこれまでの治療戦略と比較してより短期間の治療は同等の結果をもたらすか?

【PICO】
P:16歳以上の成人で複雑性腹腔内感染症と診断され適切なソースコントロールがされた患者
Inclusion Criteria:

  • 複雑腹腔内感染症
  • 適切なソースコントロールが行われている
  • 以下の項目を一つ以上満たす
    • 体温が38度以上
    • WBC≧11,000/mm3
    • 腹膜炎による消化冠不全のため通常の半分以上の食事摂取が困難

Exclusion Criteria:

  • 本人及び代理人より同意取得ができない
  • 適切なソースコントロールがなされていないと施設の研究者(Local investigator;LI)もしくは研究責任者(Principal investigator;PI)に判断された
  • LIもしくはPIにより術後72時間以内に死亡する可能性が高いと判断された
  • 予定再手術の患者
  • 汎発性腹膜炎の1次閉鎖創(術後の創部開放は不適切なソースコントロールと判断され、除外)
  • 4日以上の治療を必要とする感染症の合併
  • 妊婦
  • 下記の外科的疾患
    • 発症より24時間以内に治療された胃/十二指腸潰瘍穿孔
    • 12時間以内に治療された消化管外傷
    • 非穿孔、非壊死性の虫垂炎または胆嚢炎
    • 培養が提出されなかったまたは、培養で細菌もしくは真菌が検出されなかった壊死性虫垂炎または腹膜炎
    • 穿孔がないまたは培養で細菌が検出されなかった虚血性もしくは壊死性腸炎

I:ソースコントロールの後、4日間の抗菌薬治療
C:ソースコントロールの後、全身状態改善後から2日以内まで抗菌薬投与
O:Surgical Site Infection(SSI), 腹腔内感染症の再発, およびソースコントロール後30日間の死亡の複合アウトカム

【期間】2008年8月〜2013年8月

【場所】アメリカ合衆国とカナダの23施設

【デザイン】多施設オープンラベルRCT

  • 事前プロトコールの有無:あり(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00657566 ,後に変更)
  • ランダム化の方法:Merge Healthcareが管理したWeb-based systemを用いた1:1割付
  • 施設ごとでランダム化。
  • 虫垂に関連した感染症は200人に対して20人までの登録とされた
  • Consealmentの有無:有り(コンピューターによる割付)
  • Maskingの有無と対象者:なし

【N】517人

【介入】

  • 適切なソースコントロールの後、4日間(Calender days)の抗菌薬治療
  • 抗菌薬選択については指示はないが、SISやIDSAのガイドラインに準拠することを求めた。

【対象】
適切なソースコントロールの後、下記の条件をすべて満たした日から2日以内まで抗菌薬投与

  • 体温38度以下が1日以上継続
  • WBCが11,000/mm3以下
  • 通常の半量以上の食事摂取可能

【定義】

  • ソースコントロール:腹腔内へのさらなる汚染物質の流出を止める手技が行われ、さらなる処置を必要としない程度まで腹腔内の汚染物質が大部分除去された状態。
  • SIRSの解消:体温38度以下が1日以上継続、WBCが11000/mm3以下まで正常化、副作用なく通常の食事の半分以上を摂取可能
  • コントロール群のアドヒアランス:SIRSが解消後2±1日以内の抗菌薬終了。最大10日までの抗菌薬投与は容認された。
  • 介入群のアドヒアランス:ソースコントロール後4±1日の適切な抗菌薬投与
  • 耐性菌:MRSAまたは、すべてのVCM耐性菌または、主要な抗菌薬に対する耐性をすべて獲得したグラム陰性菌

【主要評価項目】
ソースコントロール後30日以内のSurgical-Site infection(SSI)もしくは腹腔内感染の再発、全死亡の割合

【副次評価項目】

  • the duration of antimicrobial therapy for the index infection
  • overall exposure to antimicrobial agents
  • rates of subsequent extraabdominal infection
  • adherence to the protocol.

【サブグループ解析】

  • Acute Physiology and Chronic Health Evaluation (APACHE) II scoreが10以下またはそれ以上
  • 院内感染またはそれ以外
  • 虫垂に関連した腹腔内感染かそれ以外か
  • 外科的ドレナージか穿刺ドレナージか

【解析】

  • サンプルサイズ計算:二群間の同等性の検定に基づき計算。
    合併症発生割合がコントロール群で30%、ドロップアウトが10%と仮定。
    各群で合併症発生割合が10%異なると仮定し90%のパワーと5%のα errorと設定し各群505人必要と設定
    最初の中間解析で、各群間でほとんど同一結果であったため、futilityのため中止された。
  • ITTの有無:有り
  • Primary outcome:Yatesのχ2検定、Wilcoxon符号順位検定、Kaplan-Meier曲線とLog-rank testを用いたイベント発生時間
  • 多変量ロジスティック回帰を用いて患者統計と治療割当を含めた複合アウトカムとの関連を解析

【結果】
フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外)

  • 組入人数と除外人数が示されていない。
  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性)
  • 平均年齢52.2±1歳(16-88歳)、主に男性で人種や民族の割合の差は認めず。すべての項目で有意差なし
  • 平均APATCHE II scoreは10.1±0.3 (0-29)
  • 主要な感染源は大腸や直腸。
  • 約1/3の患者は経皮的ドレナージされ25%の患者が切除後吻合され、15%が切除後経路変更術が行われている。

アドヒアランス

  • コントロール群で27.3%がProtocol violation(35人(13%)が10日以上、10人(3.8%)が短縮)
  • 15人が新規感染で抗菌薬治療を延長した。
  • 介入群で18%がProtocol violation(全例5日間以上)
  • 10人が新規感染で抗菌薬治療を延長した

主要評価項目

  • 介入群:コントロール群=56/257人(21.8%) vs 58/260(22.3%)、CI -7.0-8.0, P=0.92
  • Kaplan-Meier曲線による解析でもアウトカム発生までの時間に有意差なし

副次評価項目

  • 複合アウトカム各々の項目についても有意差なし
  • 死亡を除くSSIの診断や腹腔内感染の再発に関しては、コントロール群で診断までの時間が長かった。
  • 両群合わせて死亡までの時間は平均POD18.7±0.4日ですべて併存疾患に関連して発生したと結論された。
  • 抗菌薬治療期間の中央値は介入群で4.0日、コントロール群で8.0日(AD −4.0, 95%CI −4.7〜−3.3; p<0.001)
  • 術後30日での全抗菌薬無使用日数の中央値はコントロール群で有意に少なかった。
  • 腹腔外感染、C.difficile infection(CDI)、耐性菌の感染の発生率はすべて2群間で有意差を認めなかった。

サブグループ解析

  • 事前設定されたサブグループ全てにおいて主要複合アウトカムの発生は同等であった。
  • Per-protcol(PP)解析でも有意差は認めなかった。

【Strength・Limitation】
Strength

  • 23施設が参加したRCT
  • 事前設定されていたサブグループ解析においても両群間で同等の効果量が一致していた。
  • 重症度の偏りが無い

Limitation

  • 適切なソースコントロールがされていない患者は除外されている
  • 免疫抑制されている患者がごく少数しか組み込まれていない
  • Protocol violationが中等度発生(差がないとする帰無仮説を肯定する方向へのバイアス)
  • PP解析でも二群間で有意差を認めなかった
  • 事前設定されていたサンプルサイズが達成できなかったために二群間の同等性を証明できない。
  • 95%信頼区間が−7.0〜8.0であるため群間差が10%以内であるという有望な証拠である
  • APACHE II scoreから予測される死亡率よりも低い。

【論文の結論】
敗血症の兆候が消失するまで抗菌薬の全身投与された患者とソースコントロールが適切に行われた患者に対する4日間の固定された抗菌薬治療が行われた腹腔内感染患者では概ね同様のアウトカムであるように思われる。

  • 飛躍していないか:飛躍している

敗血症の症状の消失(resolution of signs and symptoms of sepsis)した患者との比較となっている。

【批判的吟味】
<内的妥当性>

  • 予定されていた患者数の半分で中断されており、アンダーパワーの可能性がある。
  • 二群間でProtocol violationの割合が異なる
  • 適切なソースコントロールの判断がLI/PIによってなされており、除外された人数や割合が明示されていない。Selection biasの可能性
  • すべての患者で培養が提出されているわけではない。

<外的妥当性>

  • コントロール群での抗菌薬中断の基準として食事摂取量やWBCが含まれているが、実臨床ではそれらの絶対値では抗菌薬の継続は判断しない。
  • 血液培養陽性となる患者では適応できない。
  • 抗菌薬関連有害事象に関しては評価されていない
  • より死亡率の高い重症患者への適応できないかもしれない。

【結果の解釈】
以前より適切なソースコントロールがなされている限り、腹腔内感染症に対しては短期間の抗菌薬投与は妥当と考えられていたが、多施設大規模RCTとして検証した重要な研究。適切なソースコントロールの定義が曖昧であるため、Selection biasには懸念が残るものの、よく練られたStudy designであり、得られた結果としても妥当であろう。
また、抗菌薬治療期間の短縮に伴う有害事象は評価されているが、抗菌薬を長期間投与することによる重大な有害事象は試験途中で中止されてしまったため過小評価となっている可能性がある。

【Implication】
血液培養陰性かつ適切にソースコントロールが行われており、死亡率が1%前後の重症度の低い限られた患者に対しては、本研究の結果は適応可能であると考えられる。しかし、臨床において抗菌薬投与期間に関して議論の分かれるよりドレナージ不十分の患者群や免疫抑制状態の患者に関しては、本試験の適応は限られる。
また、血液培養陽性が判明した患者は本試験では除外されているが、腹腔内感染症の中でも重症度の高い患者は除外されている可能性は高い。一方で、腹腔内感染症のため術後にICUに入室した患者の後ろ向き観察研究(N=343, 54% male, median=62y.o)では、死亡の危険因子は、緊急の初期手術(OR 2.71 95%CI 1.53-4.81, P=0.0006)、SAPS II score(OR 4.87 95%CI 2.71-8.45, P<0.0001)、抗真菌薬治療の有無(OR 2.91 95%CI 1.62-5.22, P=0.0003)と同定されたが、菌血症の有無は関連がない(OR 1.62 95%CI 0.81-3.24, P=0.169)と報告された。
いずれにせよ、適切に選択された患者では4日間の抗菌薬投与については妥当と考える。

【本文サイト】https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1411162

【もっとひといき】DURAPOP study

【引用】

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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学