ANDROMEDA-SHOCK

post47.jpg【論文】
Effect of a Resuscitation Strategy Targeting Peripheral Perfusion Status vs Serum Lactate Levels on 28-Day Mortality Among Patients With Septic Shock: The ANDROMEDA-SHOCK Randomized Clinical Trial.
Hernández,Glenn,et al. JAMA 321.7 (2019): 654-664.
PMID: 30772908

【Reviewer】 Tomomi Izawa,Ryohey Yamamoto,Toshiyuki Karumai

【Summary】

  • ANDROMEDA-SHOCKは成人の敗血症性ショック患者において、CRT(capillary refilling time)を指標に蘇生を行った群と乳酸値を指標に蘇生を行った群を比較し28日死亡率を改善するかを検証した424人の多施設オープンラベルRCTである。
  • 28日死亡割合は両群間で有意差はつかなかったものの、CRT群の方が低い傾向にあった。
  • CRT群において72時間後のSOFA scoreは低く、8時間後の輸液量は少なかった。
  • 初期蘇生においてCRTとLacの推移は類似しており、CRTがより迅速なLacの代替指標として使える可能性がある。

【Research Question】
敗血症性ショックの初期蘇生において、CRTを指標とした蘇生は、乳酸値を指標とした蘇生に比べ患者の予後を改善するか。

【わかっていること】

  • 敗血症の死亡率は30〜60% 1) であり、初期蘇生が重要である。2)3)
  • 乳酸値の上昇と死亡率には強い相関がある。4)5)
  • 乳酸値は低酸素や組織低灌流以外の要因でも上昇する。6)7)
  • 乳酸値の反応は遅れて現れる。8)
  • 末梢循環不全が臓器障害や死亡率と関連している。9)10)

【わかっていないこと】

  • 敗血症性ショックの初期蘇生における指標として何が良いか
  • CRTは末梢臓器灌流を知る方法として有用との報告が有る 11)12) が、敗血症の蘇生指標として有効かはわかっていない
  • CRTをはじめとした末梢循環を指標にすると敗血症の予後は改善するかはわかっていない

【仮説/目的】
敗血症性ショック患者において、CRTを指標とした蘇生は、乳酸値を指標とした蘇生に比べ患者の予後を改善する

【PICO】
P 18歳以上の敗血症性ショック患者
Inclusion Criteria:

  • 18歳以上
  • MAP ≧ 65mmHg保つために昇圧剤を要し、かつ1時間以内に20ml/kgの輸液をしてもLac>2mmol/dl
  • 上記を満たしてから4時間以内に組み入れ

Exclusion Criteria:

  • 妊婦
  • sepsisの診断から8時間以内に予定手術や透析を施行
  • DNR
  • Child B,Cの肝不全
  • 活動性出血
  • 急性血液悪性腫瘍
  • 重症ARDS
  • septic shockの診断から4時間以上経過した患者

I  CRTを指標に蘇生
C 乳酸値を指標に蘇生
O 28日死亡割合

【期間】2017年3月〜2018年3月

【場所】5カ国 28 ICU (チリ、エクアドル、ウルグアイ、アルゼンチン、コロンビア )

【デザイン】

  • 事前プロトコルの有無:有り、NCT03078712
  • ランダム化の方法:block randomization (block size 8)
  • 隠蔽化の有無:有り central allocation concealment
  • マスキングの有無と対象者:オープンラベル、評価者のみマスキング

【N】424人

【介入】

  • CRTの正常化を目標に蘇生
  • 右人差し指の腹側末梢をスライドガラスで10秒間おす。 元の状態に戻るまでの時間が3秒以上かかる場合にabnormalとする。
  • 30分ごとに評価。治療介入が開始されれば1時間毎に評価
  • 3秒以内にもと皮膚の状態に戻れば目標達成。

【対象】

  • Lactateを2時間ごとに測定。 正常値化(<2mmol/dl)もしくは2時間ごとに20%以上低下すれば目標達成。

【治療プロトコル】

  • 蘇生時間は8時間。
  • 組み入れ後、いずれの群でも目標を達成しなければSTEP1へ。
  • STEP1:fluid challenge
  • 晶質液500mlを30minごとにボーラス投与。
  • 輸液負荷は目標を達成するか、輸液反応性がなくなるか、CVPが5mmHg以上上昇したら終了する。
  • 目標を達成せずかつ輸液反応性がないと判断された場合、STEP2に進む

<輸液反応性の評価>

  • 鎮静下かつ強制換気の患者で不整脈がなければSVV、PPVで評価。 1回換気量が8ml/kg以上であればそのままSVV≧10%、PPV≧13%で輸液反応性ありと見なす。 1回換気量が6ml/kgで管理中であり、変化がなければ一時的に8ml/kgにして再度SVV、PPVを評価し6ml/kgの時の差がSVVで2.5、PPVで3.5であれば反応性ありとみなす。
  • 不整脈がある場合はいきこらえで脈圧の変化が5%を超える、IVC径の変動が15%で輸液反応性ありと見なす。
  • 無鎮静もしくは自発呼吸が有る場合はPLRによる脈圧の上昇やVTIを合わせて評価し15%より増加した際に輸液反応性ありと見なす。

STEP2:vasopressor test
慢性高血圧がある場合には≧80-85mmHg目標に昇圧剤を増量する。
ない場合には初療でMAP≧65mmHgは達成ずみであるため STEP3に進む

STEP3:inodilator test
ドブタミン 5 mcg/kg/min or milrinone 0.25 mcg/kg/minで投与。 反応がなければ中止。

【主要評価項目】
28日死亡割合

【副次評価項目】

  • 72時間までの臓器不全(SOFA)
  • 28日間での人工呼吸器非装着期間
  • 昇圧剤非使用期間
  • 腎代替療法非使用期間
  • 90日全死亡率
  • ICU滞在日数
  • 入院日数

【探索的評価項目】

  • 人工呼吸器使用率
  • 腎代替療法使用率
  • AKI発生率
  • 蘇生8時間の時点での蘇生に要した輸液量
  • 輸液バランス(at 8h、24h、48h、72h)
  • 腹腔内圧上昇
  • 死亡原因
  • 院内死亡率

【解析】
●サンプルサイズ:420人
 CRT群の死亡率 30% Lac群の死亡率 45% とし絶対リスク減少を15%の死亡率の差が出ると仮定して計算。
 α levelは0.05  検出率は90%(β 0.1)
●中間解析:n=100、n=300で実施
●primary outcome:Cox比例ハザード解析

  • 共変量5項目 (APACHE II、SOFA、乳酸値、CRT、感染源)で調整
  • ITT解析
  • 感度分析:Frailty Cox modelで解析 (施設間差を考慮)

●secondary outcome
 カテゴリー変数:フィッシャー正確検定を使用
 連続変数:一般化線形混合モデルを使用
●サブグループ解析

  • 乳酸値 (> 4.0 vs ≦ 4.0 mmol/L)
  • APACHE II score (< 25 vs ≧ 25)
  • SOFA score (< 10 vs ≧ 10)
  • 感染源 (確認済み vs 不明)
  • 1回目評価時の乳酸値の低下割合 (≧ 10 % vs < 10 %)


【結果】
●フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外)
1327人が組み入れ。 903人が除外(286人4時間以上経過、208手術や透析施行,108人がDNR、55人がその他の理由)
424人をランダム化。 (CRT指標群212人、Lactate指標群が212人)
● 集団特性(CRT群/Lactate群) 
平均年齢62/64歳、女性42/58%、平均APACHE score 22/22、 慢性高血圧患者39/44%
感染源は、腹部感染症(34/36.3 %)、肺炎が(33/27 %)、尿路感染症(20/21 %)
NAd中央値0.24/0.2 mcg/kg/min、平均Lactate 4.6/4.5 mmol/L、CRT中央値 5/4秒
●アドヒアランス
CRT群 86.3%、Lac群 89.2%
●主要評価項目
28日死亡割合:CRT群で74人(34.9%) 、Lactate群92人(43.4%)
HR,0.75 [95% CI,0.55 to 1.02]; p=0.06; risk difference,−8.5% [95% CI,−18.2% to 1.2%]
<感度分析>
施設間ごとで調整:HR,0.75 [95% CI,0.57 to 0.98]; p=0.04
per protocol:HR,0.72 [95% CI,0.52 to 0.09]; p=0.04
●副次評価項目
72時間後のSOFA scoreはCRT群の方が低い (-1.00 [95% CI,-1.97 to -0.02]; p= .045)
28日間での人工呼吸器非装着期間、昇圧剤非使用期間、腎代替療法非使用期間、90日全死亡率、ICU滞在日数、入院日数は両群間で差はなし
● 探索的評価項目

  • 蘇生8時間での総輸液量はCRT群で少ない (-408 [95% CI,-705 to -110] p=0.01)
  • Lactate群でvasopressor test施行群が多い (CRT28.8% vs Lactate40.1% p=0.02)
  • Lactate群でアドレナリン使用率が高い (CRT9.9% vs Lactate16.5% P=0.01)
  • 腹腔内圧上昇、腎代替療法施行率、院内死亡率は両群で差なし。

●サブグループ解析
SOFA score <10と >10で交互作用が見られた。 p for interaction=0.03

【Strength・Limitation】
<Strength>

  • 多施設大規模ランダム化試験
  • primary outcomeがhard outcome
  • 評価者が盲検化されている
  • アドヒアランスが高い
  • 介入以外は標準的治療が行われている


<Limitation>

  • オープンラベル
  • 検出力不足の可能性あり
  • 施設ごとに層別化されていない
  • プロトコルが複雑
  • ICU以外のセッティングで効果があるかは不明

【論文の結論】

  • 飛躍していないか:いない
    敗血症性ショック患者の初期蘇生において、CRTを指標とした蘇生は、乳酸値を指標とした蘇生に比べ28日死亡割合を減らさない。


【批判的吟味】
<内的妥当性>

  • 医療者が盲検化されていない。
  • CRTの測定は主観的で、検出バイアスが生じている可能性あり。
  • CRT群の方が、評価がこまめであり、介入機会が多いことが予後良好につながった可能性がある。
  • どちらの群でも両方のパラメーターを測定しており、CRTだけを指標としていない可能性がある。


<外的妥当性>

  • 高血圧患者の血圧目標を高く設定している。
  • プロトコルが複雑であり、Fluid responsivenessの評価が現実的ではない。
  • 発展途上国で施行された研究であり死亡率のbaseが高いため、先進国においては差がつきにくくなる可能性がある。
  • 肌の黒い人では適切に評価できない可能性あり。

【結果の解釈】

  • ARRは8.5%。 βエラーの可能性がある。
  • CRTを指標に蘇生すると補液や昇圧剤の量を減らせる。
  • CRTは臓器障害が少ない群(SOFA<10)で特に有効。
  • CRTとLacの推移が類似しており、CRTがLacの代替指標として使える可能性がある。


【Implication】
CRTは合併症もなく、ベッドサイドで簡便に行える方法であり、無駄な輸液を減らせる可能性が示された。 この研究はLactateの測定も困難なresourceが限られている発展途上国からの発信であり、乳酸の代用指標を探す、意味では非劣性試験のデザインが妥当であったかもしれない。 また、客観性を保った一方でプロトコルが複雑になり、結局いろいろなデバイスを要しており、外的妥当性を維持できなくなってしまっている点は残念である。
日本を始めLactateが測定できる環境でLactateを見ないということは現実的にはないと思われるが、臨床現場において、Lactateが高いだけでCRTが正常な患者は経過観察といった使い方はできるかもしれない。
またlactateやCRTにかかわらず、MAPを蘇生目標にしている人にとっては、この研究をうけて、プラクティスは大きくは変わらないだろう。 MAPではなくLactateやCRTを追いかけて介入することで、むしろ昇圧剤が増え、無駄な輸液をしている可能性もあり、蘇生指標として平均血圧のみとするかその他の指標を追加するとではどちらが良いかに関しては、また別の研究が必要である。

【本文サイト】 https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2724361

【引用】

  1. Vincent JL,De Backer D. NEJM 2013;369:1726-34
  2. Rhodes A et al: Crit Care Med. 2017;45(3):486-552.
  3. Cecconi M et al: Intensive Care Med. 2014;40(12):1795-1815.
  4. Vincent JL et al: Crit Care. 2016;20(1):257
  5. Nichol et al. Critical Care 15.5 (2011): R242.
  6. Garcia-Alvarez M,et al. Crit Care. 2014; 18(5):503.
  7. Marik,Paul E. Crit care med 46.10 (2018): 1689-1690.
  8. Hernandez G et al: Ann Intensive Care. 2014;4:30.
  9. Lima A et al: Crit Care Med. 2009;37(3):934-938.
  10. Lara B et al: PLoS One. 2017; 12(11)
  11. Ait-Oufella H et al: Intensive Care Med. 2014;40(7):958-964.
  12. van Genderen ME et al: Crit Care. 2014;18(3): R114.

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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学