CENSER

post46.jpg【論文】 Permpikul C, Tongyoo S, Viarasilpa T, et al.
Early Use of Norepinephrine in Septic Shock Resuscitation (CENSER) : A Randomized Trial. Am J Respir Crit Care Med. 2019 Feb 1.PMID: 30704260.

【Reviewer】Yoko Takahashi, Ryohei Yamamoto

【Summary】

  • 敗血症性ショックに対して早期に輸液と並行して少量ノルエピネフリン(0.05μg/kg/min)を使用することで、6時間後のショック離脱割合が有意に改善した。
  • 28日死亡率を含むsecondary outcomeに有意差は見られなかった
  • Phase2研究としては成功でありPhase3の研究が待たれる。

【Research Question】
敗血症性ショックの患者に対して、初期からのノルエピネフリンの投与がショック離脱を早めるか?

【わかっていること】

  • 敗血症性ショックでは、早期の外液負荷が初期治療として重要な項目の1つとして推奨されている。1)
  • 一般的には外液負荷に反応しない場合に血管収縮薬を使用する。(Surviving sepsis campaign 2018) 1)
  • ノルエピネフリンの早期使用が、目標血圧達成までの時間を短縮し、死亡率を下げるという後方視的研究がいくつか報告されている。2-4)

【わかっていないこと】

  • surviving sepsis campaignで提唱されているbundleの内容は全体としてエビデンスレベルの高い報告がない
  • ノルエピネフリンの使用のタイミング(初期輸液前・輸液中・輸液後)については大きな前向き研究はない。

【仮説/目的】
敗血症性ショックに初期段階から少量ノルエピネフリンを使用することでショックのコントロールが改善する

【PICO】
P: 救急外来を受診した敗血症性ショック患者

Inclusion Criteria:

  • Surviving sepsis campaign2012に基づくSepsisの診断基準を満たす
  • 感染が原因と思われる低血圧(平均血圧<65mmHg)
  • 18歳以上

Exclusion Criteria:

  • ランダム化までに敗血症性ショックが1時間以上持続している
  • 脳卒中・急性冠症候群・急性肺水腫・不整脈・喘息発作・活動性消化管出血・妊娠・けいれん・薬物加療服薬・熱傷・外傷・緊急手術が必要・進行がん
  • 輸液や昇圧剤、挿管を含む治療を拒否している患者

I:早期エピネフリン使用 (ノルエピネフリン 0.05μg/kg/min 24時間)
C:プラセボ(5% Glu)
O:6時間後のショック離脱割合
離脱割合の定義:MAP>65mmHg +十分な組織還流 (尿量>0.5ml/kg/hを2時間以上 or 10%以上のLac減少)

【期間】2013/10-2017/3

【場所】Siriraj Hospital, Mahidol University Bangkok

【デザイン】single, center, double-blind, RCT (Phase2)

  • 事前プロトコルの有無:  ClinicalTrials.gov
  • ランダム化の方法:computer-generated randomization (www.randomization.com.を使用), Individually-randomization(1:1割付)
  • 隠蔽化の有無: あり。患者の治療、組み入れに関わっていない解析者がcomputer-based randomized tableに沿って施行
  • マスキングの有無と対象者: 介入者、患者、データ解析者
    治験薬とプラセボ薬は見た目が同様の容器に詰められた

【N】320

【介入】

  • ノルエピネフリン4mg+5% Glu 250mlを末梢ラインor CVから0.05μg/kg/minで24時間投与

【対象】

  • 5% Glu 250mlを末梢ラインor CVから24時間投与

【両群共通】
両群で以下のsurviving sepsis campaignに則った標準治療は共通している

  • MAP≧65mmHgを保つよう晶質液を投与。速度、量は臨床医の判断。
  • 適切な抗菌薬投与・ソースコントロール
  • 臓器障害への治療
  • 最適な外液投与(≧30ml/kg)を行ってもMAP≧65mmHgが保てない場合はオープンラベルの昇圧剤を使用してもよい

【主要評価項目】

  • 6時間後のショック離脱割合
    "ショック離脱"は15分以上継続するMAP>65mmHgかつ十分な組織還流 (尿量>0.5ml/kg/hを2時間以上 or 10%以上のLac減少)と定義

【副次評価項目】

  • 28日死亡割合
  • 院内死亡割合
  • 人工呼吸器管理の割合
  • 腎代替療法の割合
  • 28日のorgan support free daysの割合
  • 新規の不整脈
  • 臓器虚血
  • 心原性/非心原性肺水腫

【解析】

  • サンプルサイズ計算:α0.05、検出力80%として、6時間後のショック離脱割合を介入群80%, placebo群60%と推定→両群で300人
  • ITTの有無:あり

【結果】

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外)
    456人が評価され、136人が除外基準を満たして除外。除外理由は適切。320人がランダム化され、162人が早期ノルエピネフリン使用群、158人がプラセボ群。脱落は10人で97%フォロー。
  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性)
    集団は同等。年齢の中央値は65-68歳、男性45-49%, APACHE II score 20-21. 感染巣は両群ともにUTIが約30%, 肺炎が約25%で病原体はGNRが最多(47-56%). 初めのMAPの中央値は56-57 mmHg, Lac 2.7-3.0 mmol/L.
  • アドヒアランス:介入群で162人中7人、プラセボ群で158人中3人が割付後に、治験参加を取り消し除外。割り付けられた全症例が介入をうけた。オープンラベルのノルエピネフリンの使用割合は同等。介入群で早期のノルエピネフリン投与が達成されていた。(93 min [IQR:72-114] vs 192 min [IQR:150-298]; P<0.001)
  • 主要評価項目
    6時間後のショック離脱割合:
    早期エピネフリン使用群 vs プラセボ群:76.1% vs 48.4% (OR 3.4, 95% CI 2.09-5.53, p<0.001)
  • 副次評価項目
    早期エピネフリン群 vs プラセボ群
    28日死亡率: 15.5% vs 21.9% (p=0.15)
    ショック離脱率までの時間: 4:45hrs vs 6:02hrs (p=<0.001)
    オープンラベルのノルエピネフリン使用までの輸液量:2080ml vs 1900ml (p=0.32)
    いずれかのノルエピネフリン使用までの時間 (median hours): 1:10 vs 2:47 (p<0.001)
    ICU入室率: 54.8% vs 51.6% (p=0.57)
    人工呼吸器管理の割合:37.4% vs 38.1% (p=0.91)
    腎代替療法の割合: 12.3% vs 14.8% (p = 0.51)
    肺水腫の割合: 14.4% vs 27.7% (p=0.004)
    新規の不整脈の割合: 11% vs 20% (p=0.03)
    皮膚の壊死: 0.6% vs 0.6%

【Strength/Limitation】

  • Strength
    ・敗血症に起因する低血圧に対する蘇生において、6時間後のショック離脱割合という早期アウトカムを指標に、早期からノルエピネフリンを使用した初めてのphase2, RCT.
    ・ミクロとマクロの循環動態の両方をアウトカムとして検討している。特に乳酸値は以前、敗血症性ショックの死亡率との関係が証明されている 
  • Limitation
    ・リソースの限られたSingle center studyである。ICUの病床が限られているため、人工呼吸管理や透析が必要ない患者など47%が一般病床で管理された
    ・死亡率をoutcomeにした研究デザインではない
    ・NE投与で血圧上昇が起こることが、臨床家にとって完全なるマスキングになっていない可能性がある。
    ・輸液の速度を規定していない

【論文の結論】
敗血症性ショックの患者に対して早期のノルアドレナリン使用が6時間後のショック離脱割合を有意に改善する

  • 飛躍していないか:いない

【批判的吟味】
<内的妥当性>

  • double-blindされているが、治験薬 (ノルエピネフリン)使用に伴う血圧上昇があり、完全にブラインドできていなかった可能性がある
  • ランダム化は適切
  • ITT解析、サンプルサイズが計算されている
  • 主要評価項目が6時間後のショック離脱割合であり、臨床的に最も重大な項目である死亡率に関してはパワー不足

<外的妥当性>

  • single center
  • プロトコルが簡便で、どこの施設でも実施可能
  • 敗血症に伴う低血圧患者を対象としており、対象患者が明確
  • 使用されているノルエピネフリンはごく少量

【Implication】
敗血症性ショックの患者に対して早期に少量ノルエピネフリンを使用した初めてのRCTであり、6時間後のショック離脱割合を有意に改善した。一方で、phase 2の単施設研究であり、パワー不足から副次的項目の1つであった28日死亡率については結論付けられない。また、早期の昇圧剤を使用することで、輸液過剰の害を減らすことも期待されているが、本研究では両群に輸液使用量の差はなかった。

敗血症の病態は血管拡張と血管外漏出であり、輸液と血管収縮薬を同時に使用する仮説は理に適っていると思われる。本研究で使用されたノルエピネフリンは約半数が末梢ラインで投与されており、投与量も0.05μg/kg/minと少量であったことは実行可能性が高い。
ノルエピネフリンの使用で懸念される臓器虚血、末梢血管の壊死などの有害性は、本研究ではプラセボと比較して有意差は見られず、早期の少量ノルエピネフリンの使用はPhase3に進む程度の安全性はありそうだ。

phase2 trialであること、死亡に対してはパワー不足であること、ブラインドの問題があり、早期エピネフリンがハードアウトカムに対して有効かは結論づけられないが、輸液開始と並行した早期のノルエピネフリン使用による効果は期待でき、多施設RCTに進む価値がある。ハードアウトカムまで改善できるかはわからないが、循環管理として早期エピネフリン投与は選択肢として考慮に値すると思われる。The 2018 SSCG's Treatment Bundleでも
Start vasopressors if the patient is hypotensive during or after fluid resuscitation to maintain mean arterial pressure level greater than or equal to 65 mm Hg
とかかれており、早期のノルエピネフリン投与を行っている人も多いと思われる。
また、ノルエピネフリンが半分程度の人で末梢ルートから投与されており、末梢ルートからの希釈ノルエピネフリン投与の実行可能性が示唆されたものと思われる。
当施設ではCVC挿入までの期間に末梢ルートから希釈ノルエピネフリン投与をしており、このプラクティスの妥当性をあげる根拠の一つとなりそうだ。

【本文サイト】 https://www.atsjournals.org/doi/abs/10.1164/rccm.201806-1034OC

【もっとひといき】The 2018 Surviving Sepsis Campaign's Treatment Bundle: When Guidelines Outpace the Evidence Supporting Their Use.

【引用】

  1. Mitchell M. Levy et al., The Surviving Sepsis Campaign Bundle: 2018 update. Intensive Care Med (2018) 44:925-928
  2. Morimatsu H et al., Early and exclusive use of norepinephrine in septic shock. Resuscitation. 2004;62(2):249-254.
  3. Hamzaoui O et al., Early administration of norepinephrine increases cardiac preload and cardiac output in septic patients with life-threatening hypotension. Critical Care. 2010;14
  4. Bai X et al., Early versus delayed administration of norepinephrine in patients with septic shock. Critical Care. 2014;18:R532.

Tag:

このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学