MOHZA

post45.jpg【論文】Klein LR, Driver BE, Miner JR, et al. Intramuscular Midazolam, Olanzapine, Ziprasidone, or Haloperidol for Treating Acute Agitation in the Emergency Department. Ann Emerg Med. 2018 Oct;72(4):374-385. PubMed PMID: 29885904.

【Reviewer】Satoru Robert OKAZAKI

【Summary】

  • 救急外来にて興奮患者に対する鎮静薬の筋注では、オランザピン、ジプラシドン、ハロペリドールと比較してミダゾラム5mgが投与15分後に最も適切な鎮静深度に達する可能性がある。

【Research Question】救急外来で興奮状態の患者に対する4種の鎮静薬(オランザピン、ジプラシドン、ハロペリドール、ミダゾラム)の筋注はどれが良いかの

【わかっていること】

  • 興奮した患者が救急外来(Emergency department; ED)に来院することは稀ではない。
  • 興奮の原因は分類が難しいが、アルコール中毒や薬物中毒、精神疾患、全身状態を反映している場合がある。
  • まず言語 (Verbal de-escalation)によるアプローチが取られるが、しばしば成功せず薬物治療が必要になる場合がある。
  • 一般的には抗精神病薬(ハロペリドール、ジプラシドン、オランザピン)やベンゾジアゼピン系(ミダゾラム、ロラゼパム、ジアゼパム)などが用いられる。

【わかっていないこと】

  • 救急外来における急性興奮状態に対する効果や安全面から見た鎮静薬の理想的な選択
  • 先行研究では米国で採用されていない薬剤の使用や筋注での比較の試験が少ないなどの問題があった。


【PECO】
P: 救急外来に来院した治療を必要とする急性興奮状態の成人患者
 Inclusion criteria

  • 救急外来で急性興奮状態となり薬物治療を必要とする状態

 Exclusion criteria

  • 18歳以下
  • 囚人
  • 勾留されている

E/C: 初回鎮静薬としてハロペリドール5/10mg、ジプラシドン20mg、オランザピン10mg、ミダゾラム5mgの筋注
O: 薬剤投与15分後の時点でAltered Mental Status Scale (以下AMSS) score<1で定義される適切に鎮静されている患者の割合

【期間】June 2017 to October 2017

【場所】Hennepin County Medical Center in Minneapolis, MN.(アメリカ)

  • Level 1 トラウマセンター(成人及び小児)
  • 100,000/年以上の患者数、7000/年以上のアルコールあるいは違法薬物中毒患者来院
  • 精神疾患救急は他院で行われている

【デザイン】単施設前向きコホート研究(実質介入研究)
事前プロトコールの有無:あり(もともとdouble-blind RCTとして計画されたがFDAの許可がおりず観察研究になった), NCT03211897

【N】734

【暴露因子とコントロール】
※本文中には観察研究とあるが、実質介入研究である。

  • 救急外来に来院した薬物治療を必要とする急性興奮状態の成人患者に対して、事前に決定された指定薬剤を最初に投与するプロトコール。
  • プロトコールは筋注鎮静薬の初回投与はハロペリドール5mg、ジプラシドン20mg、オランザピン10mg、ミダゾラム5mg、ハロペリドール10mgの順で3週間毎に変更され、全部で15週間試験(5クール)が施行された。
  • 各薬剤の用量については、抗精神病薬に関してはクロルプロマジン換算での等価量に基づき設定。ミダゾラムに関してはいくつかの先行研究でオランザピンやドロペリドールと同等の効果量に基づき設定された。
  • ハロペリドールに関しては、過去の文献や日常診療でよく用いられているため2種類の用量を用いた。
  • 投与薬剤の順序はハロペリドールが連続しないように一部制限下でランダムに設定された。(ランダム化の方法については記載なし)
  • 設定薬品からの変更は、アレルギーが有る場合及び治療担当医が病歴からその他の治療薬が適切と判断された場合のみ。(後者は強く行わないように推奨していた)

【主要評価項目】
薬剤投与15分後の時点でAMSS score<1で定義される適切に鎮静されている患者の割合

  • AMSS score:興奮状態のスコア;−4(最も鎮静されている)〜+4(最も興奮している)
  • 先行研究でも用いられており、Validatedされている。
  • 調査員は試験前にスケールの解釈と使用方法について訓練を受けている。

【副次評価項目】

  • 薬剤投与15分後時点でのAMSS scoreの変化値の中央値
  • 薬剤投与15分後時点でのAMSS scoreの変化値の平均値
  • 追加薬剤投与を必要とした患者数
  • 適切な鎮静までの時間
  • 有害事象

【解析】
サンプルサイズ計算:あり

  • 同施設での先行研究:ミダゾラム投与15分後に適切に鎮静されている割合68%、抗精神病薬(ジプラシドン、ドロペリドール)投与15分後に適切に鎮静されている割合50%。以上から、80%のパワーと18%の差を検出するために各群127人、総計635人と試算。
  • 記述統計の予定であったため、多重比較については考慮しなかった。

事前プロトコール:あり(Primary analysisに変更あり)

  • もともとは先行研究と同様に、薬剤投与15分後時点でのAMSS scoreの変化の平均値を予定していたが、方法論的不適切が判明し(AMSS scoreは順序変数であるにもかかわらず、連続した正規分布変数として差の平均値を用いて解析)試験開始前に上記へ変更。

主解析: Hodges-Lehmann中央値推定値及び両側95%信頼区間を用いて各群間の適切に鎮静された患者割合とAMSS scoreの変化量を記述

副次の評価の解析:各群間で適切な鎮静深度までの時間を未調整のCox比例ハザード回帰モデルを用いて評価し、95%信頼区間のハザード比を計算した。

【収集項目】

  • 薬剤投与前:Baseline characteristic(年齢、性別、来院方法、院外での薬剤投与の有無)、薬剤投与前のAMSS score、投与薬剤の用量及び投与時間。
  • 薬剤投与後:15,30,45,60,90,120分時点でのAMSS score、追加鎮静薬の総投与量、AMSS score<1で定義される適切な鎮静までの到達時間。
  • 各診察の終了時点で、訓練された担当医もしくはPhysician assistantが前向きに以下のイベントの発生につき記録した。
    ・低血圧(sBP<90mmHg)
    ・徐脈(HR<60bpm)
    ・全ての不整脈
    ・錐体外路症状(アカシジア、ディストニア)
    ・アレルギー反応(紅斑、Wheeze、アナフィラキシー)
    ・低酸素血症(SpO2 <93%)
    ・気管内挿管
  • 担当患者の興奮状態の原因も評価し記録された(アルコール中毒、薬物中毒、精神発作、内因性、複合要因)
  • 試験期間中は、同時並行で試験が行われることもあり記録できなかった場合もある。
  • 3週間の各ブロックの最後に、電子カルテ上で指定薬剤の投与患者数を調べることで、急性興奮状態で薬剤投与を必要とした患者総数を調査し、スクリーニングおよび組入られなかった人数を計算した。

【結果】

  • フローダイアグラムの評価:3443人をスクリーニングし734人が解析対象となった。組入ミスやスクリーニングミスは記録されたが稀であった。

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  • 集団特性の評価:中央値は40歳(18-77歳)。527人(72%)が男性。せん妄の原因はアルコールが最多(650人;88%)

post45_3.png<主要評価項目>:薬剤投与15分後時点の適切な鎮静深度患者割合
ミダゾラム:89人(71%)、オランザピン:99人(61%)、ジプラシドン:76人(52%)、ハロペリドール5mg:61人(40%)、ハロペリドール10mg:64人(42%)
ジプラシドン20mg、ハロペリドール5/10mgと比較してミダゾラム5mgで有意に割合が高かった。オランザピンに関してはミダゾラムと有意差は認めなかった。

<副次評価項目>:
追加投与を必要とした患者は、ミダゾラム群で52人(40%)、オランザピン群で34人(21%)、ジプラシドン群で35人(24%)、ハロペリドール5mg群で50人(33%)、ハロペリドール10mg群で30人(20%)とミダゾラム群で多い傾向があった(検定なし)。それぞれ、初回追加投与までの時間は70min(IQR 32-143), 43min(23-103), 41min(29-91), 26min(20-50), 49min(22-99)であった。
ER滞在時間はミダゾラム群で423min(IQR 364-554)、オランザピン群で429min(351-598)、ジプラシドン群で454min(374-581)、ハロペリドール5mg群で405min(299-504)、ハロペリドール10mg群で443min(335-554)と大きな差は認めなかった(検定なし)。
有害事象は少数の報告例のみかつ各薬物間で明らかな差は認めなかった。(検定なし)

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【Strength・Limitation】
・Strength

  • ミダゾラムの優位性については先行研究と一致している。
  • 世界初のドロペリドールの筋注について検討した試験。

・Limitation

  • 観察研究である。
  • 興奮状態の原因の多くが急性アルコール中毒であり外的妥当性に問題がある。
  • 心電図検査を行っていないため、薬剤性QTc延長に関しては評価不十分
  • 実質多重検定を行っており、著者の主張はType I errorの可能性がある

【論文の結論】

  • ハロペリドールやZiprasidone、オランザピンと比較して興奮患者へのミダゾラムの筋注治療は投与15分後時点でより高い割合で適切な鎮静を達成し、AMSS scoreの中央値をより減少させる。
  • オランザピンはハロペリドールよりもより効果的であった。
  • 各々の治療薬剤で同程度の有害事象が観察された。


・飛躍していないか:飛躍している。

【批判的吟味】
<内的妥当性>

  • 実質的なCluster RCTであるため観察研究としては交絡因子の少ない研究デザイン
  • とはいえ、群間の交絡因子が排除できていない可能性がある
  • パフォーマンスバイアスやセレクションバイアスの可能性がある。
  • アドヒアランスが良好である。
  • 多重検定の懸念がある。
  • 追加鎮静薬の総投与量についての記載がなく、適切に比較できていない可能性がある。

<外的妥当性>

  • Ziprasidoneの採用がない(その他は日本で採用あり)
  • 違法薬物中毒割合が他の研究と比較して少なく、日本でも適応出来る可能性
  • 副作用を検出するにはサンプルサイズが小さい
  • 単施設研究
  • 亀田ERと年齢や興奮状態の原因の疫学が異なる

【Implication】
救急外来での興奮状態の患者に対する鎮静薬について調べた"観察研究"であるが、スタディデザインとしては実質的にCluster RCTであり交絡因子は比較的少ないと考えられる。著者らはもともと記述することを目的としていたはずだが、結果の項で"significant margin"という表現をしており、実質検定を行っている。検定をするのであれば交絡因子の調整がなされておらず、本当にこの著者らの結論でよいか大いに疑問が残る。
バイアスの観点からは、本研究が実質的な介入研究であるとすると、マスキングや隠蔽化がされていないためパフォーマンスバイアスや選択バイアスの問題がある。
また、著者らは検定を行わず、95%信頼区間を用いることで多重検定の問題を回避していると記述しているが、各群間の差の信頼区間が0をまたいでいることを根拠に"significant"と判断しており、実質的に検定を行っている。そのため、少なくとも主要評価項目だけでも10の検定を行っており、重大なLimitationと考える。
その他に、単施設研究であること、副作用については症例数が少なく評価不十分であることが問題点として挙げられる。
上記の様に吟味したが、今回の結果であるミダゾラムの優位性は過去の研究 とも一致しており、他に代替的介入がないことを考えると、副作用に十分注意しながらミダゾラムの筋注の使用は考慮に値すると考える。
また、臨床研究の方法として上記のように実質的介入研究を観察研究として行う事例としても、倫理的な問題点を内包してはいるものの大変興味深かった。

【本文サイト】
https://annemergmed.com/retrieve/pii/S0196064418303731

【もっとひといき】
なし

【引用】
1) Taylor DM, Yap CYL, Knott JC, et al. Midazolam-droperidol, droperidol, or olanzapine for acute agitation: a randomized clinical trial. Ann Emerg Med. 2017;69:318-326.e1. Pubmed PMID 27745766


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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学