IDEAL

post40.jpg【論文】
S.D. Barbar, et al; the IDEAL-ICU Trial Investigators and the CRICS TRIGGERSEP Network
Timing of Renal-Replacement Therapy in Patients with Acute Kidney Injury and Sepsis
N Engl J Med 2018;379:1431-42. DOI: 10.1056/NEJMoa1803213

【Reviewer】Satoru Robert Okazaki

【Summary】

  • 敗血症生ショックに伴う重症AKIに対する早期RRTは死亡率を改善しない
  • 無尿・乏尿でも慎重に観察すればRRTを回避できる可能性がある

【Research Question】
敗血症性ショックに合併したAKI患者において早期RRT戦略(診断から12時間以内)と後期RRT戦略(診断から48時間後(60時間後まで) )の90日死亡率を改善するか

【わかっていること】

  • AKIは敗血症性ショックのICU患者でよく生じる合併症で死亡率も高い。
  • 敗血症性ショックのないAKIの場合と比較し、病態生理やRenal Replacement Therapy (RRT)への反応性も異なる
  • AKIによるlife-threatingな合併症が生じている場合はRRTが必要と考えられている。

【わかっていないこと】

  • 重症AKIの管理の上で、RRTを行う最適なタイミングがいつか
  • AKIによるLife-threatingな状態がない場合、RRTを開始するタイミングについて定まった見解はない
  • RRT開始時期に関する先行研究(AKIKI, ELAIN)ではconflicting resultsとなっている

【仮説/目的】
敗血症性ショックに重症AKIを合併した患者において早期RRT戦略(診断から12時間以内)は後期RRT戦略(診断から48時間後(60時間後まで) )を比較し90日死亡を改善する

【PICO】
P:敗血症性ショックに 重症AKIを合併しているICU患者

Inclusion criteria

  • 18歳以上
  • ICUに入室した初期の敗血症性ショック(昇圧薬使用開始してから48時間以内)
    <敗血症性ショックの定義>
    SIRS2点以上を満たす重症敗血症で、十分な輸液負荷にもかかわらず昇圧薬を必要とするもの(SEPSIS-2のseptic shock)
  • RIFLE分類で少なくとも1つ以上のFailure stage基準を満たすAKIを合併している
    <Failure stage in RIFLE criteria>
    ・乏尿(0.3ml/kg/h)が12時間以上
    ・12時間以上の無尿
    ・血清Creがベースラインの3倍もしくは4mg/dLもしくは0.5mg/dL以上の急激な上昇
  • 同意取得が可能
  • 社会保障がある患者

Exclusion criteria

  • もともと透析患者
  • post-renal AKI
  • すでに緊急RRTを施行されている
  • 救命困難と予想される
  • DNRの事前指示書がある
  • 死亡に関連する他の臨床試験に参加中
  • 同意が取得不可

I:RIFLE基準でFailure stageの診断から12時間以内にRRTを開始する早期RRT戦略
C:腎機能が自然回復しない場合やLife-threatingな状況でなければ48時間以上経過してからRRTを開始する後期RRT戦略
O:90日死亡率

【期間】2012/6ー2016/10

【場所】29のICU(フランスの22の大学病院と7つの一般病院)

【デザイン】多施設オープンラベルRCT

  • 事前プロトコル:NCT01682590,Protocol
  • ランダム化
    ・コンピューターを用いたオンラインシステムによるランダム生成
    ・施設、年齢、SOFA score、感染部位や種類で層別化
  • 隠蔽化:あり。中央割付方式
  • マスキング:なし。試験解析者はマスキングされている

【N】488人(2回目の中間解析で早期中止)

【介入】Failure stageの診断から12時間以内にRRTを開始する。

【対象】

  • 慎重に経過観察し緊急RRT基準を満たせば緊急RRTを行う
    <緊急RRT基準>
    ・高K血症(>6.5mEq/L)
    ・代謝性アシドーシス(pH<7.15)
    ・利尿薬に抵抗性かつ肺水腫をきたすような水分過多
    ・Failure stageの診断から48時間後にRRTを施行する

【両群共通】

  • 血清Creがpeak outもしくは尿量が1000ml/day(利尿薬使用時は2000ml/day)以上と腎機能が自然回復したと判断される場合はRRTを行わない
  • RRT方法(間欠/持続)に関しては各施設の判断
  • 施行方法は国際ガイドラインに基づく

【主要評価項目】

  • 90日の全死亡数

【副次評価項目】

  • death at 28 days and at 180 days
  • the number of days free of renal-replacement therapy, mechanical ventilation, and vasopressors at 28 days after randomization
  • the length of stay in the ICU and in the hospital
  • adverse events during the entire ICU stay, with a focus on the complications potentially related to acute kidney injury or renal-replacement therapy during the first 7 days after enrollment
  • fluid balance in the first 7 days after enrollment
  • the need for emergency renal-replacement therapy in the delayed-strategy group
  • death of patients in the delayed-strategy group in whom at least one criterion for emergency renal-replacement therapy was met
  • Dependence on renal-replacement therapy at hospital discharge.

【解析】

  • サンプルサイズ計算:
    ・検出力0.8、両側検定でαエラーを0.05と設定
    ・2群間の90日死亡率の差を10%(45% vs 55%)と仮定
    ・5%の脱落を加味して864人
  • ITTの有無:あり
  • 中間解析:2回計画。独立委員会が安全性と結果を中間解析。chi-square testでalpha level は0.0001とした。
  • 主要評価項目
    ・90日死亡率に関してはχ二乗検定
    ・更に、施設因子で層別化しベースライン予後因子(慢性/急性腎不全の有無、24時間以内のHESの暴露)の調整を行いロジスティック回帰分析
  • 副次評価項目
    ・Kaplan-Meier法を用いて28日死亡率と180日死亡率を検定。
    ・AKI発症からRRT開始時間、ICU/病院滞在日数、MV free days、血管収縮薬 free days、RRT free daysはMann-Whitney検定
    ・安全性(緊急RRT基準に該当した割合、重症代謝性障害、肺うっ血、血管作動薬を必要とする低血圧、症候性不整脈、重症出血イベント)に関しても検定

【結果】
2回目の中間解析の結果、モニタリング委員会より、目標サンプルサイズの登録が完了しても試験の結果は大きく変わらないと見なされ、早期試験中止が推奨された。試験中止時の検出力は51.4%であった。

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外):2回目の中間解析で早期試験中となった。1728人が組入基準を満たしたが1240人が除外基準を満たし最終的に488人がランダム化された。追跡率は98%
  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性)
    ・Baseline Characteristicsほぼ同等。
    ・CKDの罹患率はControl群で高かった(13 VS 18%)
    ・腎毒性物質の暴露はIntervention群で高かった(52 VS 44%)
    ・平均年齢は69歳、ICU入室時の平均SAPS II 65点程度、人工呼吸使用率は9割程度、全員がノルアドレナリンまたはアドレナリンの使用、組入時の平均SOFAは12点、平均血清Cre値は3.3mg/dL、HCO3 17.7程度、水分バランスは3200ml/day程度。Failure stageの診断はCre3倍上昇での診断が62-3%
  • アドヒアランス
    Intervention群ではRRT施行しなかったものが7人(3%)で2人がRRT前に死亡、4人で腎機能が自然回復、Control群では93人(38%)がRRTを施行せず、70人が腎機能自然回復し、21人はRRT開始前に死亡した。
    ・Control群で緊急RRT基準に合致したのは41人(17%)
    ・組入からRRT開始までの時間の中央値7.6hr vs 51.5hr(P<0.001)
  • 主要評価項目:90日死亡 Intervention群58% VS Control群54%、ARR4%, (p=0.38)
    ・腎毒性物質暴露や施設、CKDの有無を補正後も結果は変わらず。
  • 副次評価項目
    ・28、180日死亡:45% vs 42%(p=0.38), 61% vs 57%(p=0.37)
    ・非RRT日数:12日 vs 16日(p=0.006)
    ・非人工呼吸管理日数:2日 vs 3日(p=0.19)
    ・昇圧剤非使用日数:16日 vs 17日(p=0.87)
    ・ICU滞在日数:11日 vs 10日(p=0.91)
    ・入院日数:23日 vs 23日(p=0.34)
    ・ICU入室中のAKI/RRTに関連した有害事象:高K血症のみ有意差あり(0% vs 4%, p=0.03)
    ・7日間の総計水分バランス:5570±8761mL vs 5878±7472mL(p=0.75)
    ・Control群での緊急RRT施行数:41人(17%)
    ・Control群での死亡時に緊急RRT基準に合致していた患者数:28人(12%)
    ・退院時の透析依存:記載なし(90日依存率は2人 vs 3人(p=1.00))

【Strength・Limitation】

  • Strength
    ・多施設RCT研究
    ・ITT解析
  • Limitation
    ・RIFLE分類の使用:KDIGO分類と比較しAKIに対する感度が低い。Failure stageがそもそもRRTのindicationとして考案されていない
    ・Control群においてAKI発症からRRT施行まで48時間と設定している:腎機能回復のための十分な時間を確保できなかった可能性や治療効果を検出できなかった可能性。

【論文の結論】
敗血症性ショックに伴う重症AKI患者において早期RRT施行した場合(早期RRT戦略)と、緊急RRTの適応がない限り待機的にRRT施行した場合(後期RRT戦略)で死亡率に差はなかった。

  • 飛躍していないか:していない

【批判的吟味】
<内的妥当性>

  • Open-labelのためPerformance biasの可能性
  • 中間解析で早期中止されており、検出力不足かつ、安全性評価が不十分
  • Failure stageをRRT基準とすることの妥当性が少ない
  • 主要評価項目が全死亡数(Hard outcome)を用いている
  • 死亡率は想定していたものに近かった

<外的妥当性>

  • Failureとなってから48時間後にRRT施行するというプロトコル自体の外的妥当性が低い
  • 敗血症性ショックの診断基準がSepsis-2 criteriaである。(試験開始時期的には仕方ないが)
  • RRTの方法は、臨床医の判断に任されており実臨床に沿っている
  • HES使用が約50-60%ある

【Implication】
単純腎前性のAKIや腎後性のAKIと比較し、敗血症に合併したAKIでは腎障害の病態生理が異なると言われている。動物実験段階ではあるが、敗血症に合併したAKIでは腎血流はむしろ増加するとされており、腎障害の本体としては感染により放出されたサイトカインやエンドトキシン、PAMPs/DAMPsが腎尿細管上皮に障害を与えている可能性が考えられている。また、実臨床でも経験するように過剰輸液による腎うっ血で組織内圧が上昇し腎機能を維持できなくなるなど様々な理論が提唱されている。
これまで、AKI全体(AKIKI)や術後患者のAKI(ELAIN)に対してRRT開始時期を検証するRCTが行われたが、結果は一致しなかった。結果の違いとして試験自体のバイアス(random errorの可能性はELAINの方が高い)、患者背景の違い(AKIKIではKDIGOのAKI stgae3が組み入れ基準に採用されており、ELAINではstage2が組み入れ基準, AKIKIでは内科患者を中心としたMixed ICUの患者でカテコラミン、人工呼吸が必要な重症患者でELAINでは術後、特にCPB中心とした患者群)、RRT方法(AKIKIではIRRTが多く、ELAINではCRRTが多い)の違いが考えられている。
今回は研究では敗血症ショックが対象となっており、より限定された対象で試験が行われた。
結果としてはどの時点でも死亡率に差がないばかりか、Delay群では一定の患者群でRRTを回避できた。倫理的な側面から、48時間後にはRRTを施行されるprotocolであったため、実際には更に多くの患者がRRT回避できた可能性がある。試験自体が無益性のため早期中止されており、Delay群での安全性については評価不十分である点、また、緊急RRTの適応基準の妥当性の評価は不十分であり、どのくらい遅くRRTをやっても大丈夫かはまだ明確にわかってはいない。
当科ではもともと慎重にモニタリングし緊急RRTの適応がない限りRRTはしないpracticeを取っており、本研究以降も同様に緊急RRT適応 がない限りRRTを施行しないpracticeを続けるつもりだ。
なお、RRTのタイミングに関してはAKIKI, ELAIN, IDEARL-ICUと発表されたが、最大規模のSTART-AKI試験が進行中であり、この研究結果も楽しみである。

【本文サイト】
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1803213

【もっとひといき】
AKIKI trial
ELAIN trial
AKIKI Post Hoc Analysis

【引用】
Bellomo, R. et al., 2017. Acute kidney injury in sepsis. Intensive Care Medicine, 43(6), pp.816-828.
Schrier, R.W. & Wang, W., 2004. Acute Renal Failure and Sepsis. New England Journal of Medicine, 351(2), pp.159-169.


Tag:, , , , ,

このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学