ICE-CUB2

post3.jpg【論文名】
Effect of Systematic Intensive Care Unit Triage on Long-term Mortality Among Critically Ill Elderly Patients in France A Randomized Clinical Trial

【RQ】
75歳を超える集中治療患者で系統的にICU入室を推奨することは通常のケアとくらべて6ヶ月後の死亡を減らすか。

【わかっていること】

  • 高齢化に伴って高齢者のICU入室が増加
  • 高齢者は生理的・身体的機能低下や慢性疾患の併存から重症疾患罹患時の死亡リスクが高い
  • 経済的な問題からもICU資源の適正利用が必要
著者(年) デザイン,n 対象 結果
Boumendil A et al.
(2012)
ICE‐CUB1 study
コホート研究
n=2495
フランス
15施設
80歳以上ER患者 ICU入院割合は施設毎に差⇔院内死亡割合や6ヶ月死亡割合に差なし
Sprung et al.
(2012)
コホート研究
n=6796
欧州7カ国
11施設
18歳以上重症患者 高齢者ほど一般入院よりICU入院で28日死亡割合低下
Fuchs et al.
(2014)
後ろ向き調査
n=7265
アメリカ 65歳以上重症患者 ICU入院が増えても1年生存割合に変化なし
Valley et al.
(2015)
後ろ向き調査
n=1112394
アメリカ 65歳以上肺炎患者 ICU入院は一般入院より30日死亡割合が低下
  • 特に同一著者が2012年に報告した、2646名の高齢者のERからICU入院までのトリアージ過程をフランス15施設で調査した多施設前向き研究であるICE-CUB1研究では、ADLや栄養状態、悪性腫瘍の有無が6ヶ月の長期予後と関連していた。
  • 高齢者のICU入院に関するガイドラインもなく、ICU入室は施設ごとに大きく異なる

【わかっていないこと】

  • 高齢者のICU入室の長期のメリット
  • 特にADL、栄養状態、悪性腫瘍の有無でICU入室を促すと予後が変わるか

【仮説】
75歳以上の重症患者に系統的にICUへの入室を促すことで6ヶ月死亡割合を減少する

【PICO】
P:ERを受診した75歳以上の重症患者
組入基準:75歳以上、ER受信患者、設定された重症な病態(eTable1で定義)がある、機能低下なし(Index of ADL≧4 Katz index)、低栄養なし(臨床医の主観)、活動性の悪性腫瘍がない
除外基準:24時間以上のER滞在、ERへの紹介患者、患者からの拒否、社会保障がない
I:系統的にICU入室を推進する
C:ICU入室に特にルールを設けない
O:6ヶ月死亡割合

【期間】2012年1月から2015年11月

【場所】ERとICUを有するフランス24施設(12施設は混合ICU)

【デザイン】多施設オープンラベルクラスターRCT

  • ランダム化の方法:クラスターランダム化(https://www.kameda.com/pr/intensive_care_medicine/post_2.html)、コンピューターによるランダム生成、年間ER患者数、老年科の有無、地域(パリ市内とそれ以外)で層別化
  • 隠蔽化の有無:なし
  • マスキングの有無と対象者


【N】24施設、3037人

【介入】系統的入室促進戦略(プロトコル)

  1. 運営委員が各施設を訪問してプロトコルを説明
  2. ERとICU医師は基準を満たすすべての患者のICU入室をすすめる。ER医はICU上級医に連絡し、ICU医が患者を評価、両者で患者・代理人の意見を考慮しつつICU入室を決定
  3. ICUベッドがない場合は別病院ICUに転送
  4. 毎月ER/ICUスタッフ間でミーティング、ICU入室をすすめる冊子・ポスターを配布

【対照群】標準治療
なお、両群とも臨床医がICU入室を最終決定する

【主要評価項目】6ヶ月死亡割合

【副次評価項目】ICU入室割合、院内死亡割合、6ヶ月後のADL、QOL(SF-12 health survey), Institutionalization, 介護者の6ヶ月後の負担(ZARIT scale)

【解析】

  • サンプルサイズ計算:ICE-CUB1研究から対照群の6ヶ月死亡割合を32%、ICCを0.01と見積もり、α 0.05、β 0.26でARR6%と仮定し、2802例と算出した。
  • 当初20施設の予定であったが24施設に増加し、ICCを考慮し必要サンプル数は3000例に増加。
  • ITT解析の有無:あり

【結果】

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外):介入群施設に3702人がスクリーニングされ、1519人が組入基準を満たした。対照群では5690人がスクリーニングされ1519人が組入基準を満たし、合計3036人が対象となり、主要解析は3036人で行われた。追跡率は99%。
  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性)
    ・登録期間が22.5 vs 28.5ヶ月と対照群で延長しているため、ER受信患者数が多い
    ・年齢の中央値は85歳 vs 85歳で、介入群ではSAPS3が有意に高く(64 vs 59)でより重症な集団である。
    ・呼吸不全が32%、ショックが16-21%程度の集団。
    ・重症度と登録期間以外は大きな違いはない。
  • 主要評価項目
    ・介入群では対照群より6ヶ月死亡割合が増加(45% vs 39%; 差6%[95%CI, 3%-10%]; P < .001; RR, 1.16 [95%CI, 1.07-1.26])、重症度で調整すると有意差なし (RR, 1.05; 95%CI,0.96-1.14).
  • 副次評価項目
    ・生存分析でも調整前は有意差あるが、調整後は有意差なし
    ・院内死亡割合は介入群で増加(31% vs 21% 調整前RR, 1.39[95%CI, 1.23-1.57], 調整後RR, 1.18[95% CI, 1.03-1.33])
    ・ICU入室割合は介入群で増加(61% vs 34%)調整前RR, 1.80 [95% CI, 1.66-1.95]、調整後RR, 1.68 [95%CI, 1.54-1.82]
    ・6ヶ月後のADLに有意差なし RR, 1.02; 95% CI, 0.99-1.05
    ・6ヶ月後のQOLに有意差なし 平均スコア, 36.7 vs 36.2; 差, 0.5 [95%CI, -0.6 to 1.5]

【Strength・Limitation】
Strength

  • 高齢者の長期死亡割合に及ぼす影響について評価した初のRCT
  • 多施設、大規模
  • クラスターランダム化で倫理的な困難さを回避し、実践的
  • トリアージでERとICU双方の意思が関与しER医単独トリアージの選択バイアスを回避
  • 長期予後不良因子を除外した対象集団
  • ADL・QOLといったTrue Outcomeを評価
  • プロトコル違反や脱落がほぼない
  • ITT解析


Limitation

  • 対照群で登録期間が約6ヶ月延長され選択バイアスが生じる
  • 介入の性質上、割当の隠蔽化が不可能
  • 延命治療の中止に関するデータがない
  • 介入群の患者より重症であり、何らかの交絡が生じている可能性
  • 通常なら病棟入院だった患者にICU入院のメリットが生じた可能性があるが評価していない
  • ICU入室しなかった患者の理由が明らかではない
  • ICU仕様が少ない病院では病棟ケアの質が高いことでICU利用を代用している可能性

【論文の結論】

  • 重症高齢患者ではICU入院を促すプロトコルは、通常ケアとくらべて、ICU利用を増加させるが、6ヶ月死亡割合は減らさない。ただし「高齢者=ICU入院させるべきではない」と解釈してはならない
  • 結論は飛躍していないか

【Implication】
 すべての高齢者にICUを利用するのは適切ではないことは直感的に皆が思うことだろう。"生きのいい高齢者"をうまくICUに入室し、長期予後改善するというのが高齢社会のICUの役割となる。
 本研究では高齢の重症患者に積極的にICU入室を促しても予後・QOL・ADLの改善がなかった。サンプルサイズは足りており、βエラーとは考えにくい。著者らも考察で述べているように、対照群でPerformanceバイアスが働いた可能性は考慮すべきであろう。またクラスターRCTの欠点としてベースラインの重症度が揃えられておらず、ランダム化がうまく行かず未測定交絡因子の影響を受けているかもしれない。
 もう一つはADL≧4のInclusionが良くないのかもしれない。高齢者研究ではどのADL指標が予後に強く相関するかに関しては解決しておらず、単純なADL指標では予後を反映しないのかもしれない。他に考えられることとしては、中央値85歳の超高齢者集団に対して介入効果は乏しいのかもしれないということである。

 実臨床でも重症患者の予後は疾患毎に異なることが想定され(例えば尿路感染症の敗血症性ショックと肺炎の敗血症性ショックでは高齢者では死亡割合はおおきく異なるだろう)、かつ"活きが良い"="このひとは助けられるぞ!"と臨床医が思う感覚をより言語化した指標やツールの開発がRCTの前に行うべき研究のように思う。

【本文】
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2654893?resultClick=1

【もっとひといき】
クラスター化について知る: https://www.kameda.com/pr/intensive_care_medicine/post_2.html
AngusのEditorial: https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2654892?redirect=true

【引用】

  • Boumendil A, Latouche A, Guidet B; ICE-CUB Study Group.On the benefit of intensive care for very old patients. Arch Intern Med. 2011;171(12): 1116-1117.
  • Sprung CL, Artigas A, Kesecioglu J, et al. The Eldicus prospective, observational study of triage decision making in European intensive care units, II: intensive care benefit for the elderly. Crit Care Med. 2012;40(1):132-138. 9.
  • Fuchs L, Novack V, McLennan S, et al. Trends in severity of illness on ICU admission and mortality among the elderly. PLoS One. 2014;9(4):e93234.
  • Valley TS, SjodingMW, Ryan AM, Iwashyna TJ, Cooke CR. Association of intensive care unit admission with mortality among older patients with pneumonia. JAMA. 2015;314(12):1272-1279.

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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学