亀田感染症ガイドライン:ピペラシリン・タゾバクタムの使い方
AMR(薬剤耐性)対策は感染症科の重要な役割のひとつです。現在、当院でもいろいろな取り組みをしています。取り組みのひとつに、院内ガイドラインの作成があります。広域抗菌薬の使い方シリーズのひとつ、ピペラシリン・タゾバクタムの使い方、を共有させていただきます。
亀田感染症ガイドライン
「ピペラシリン・タゾバクタムの使い方」
1. 作成にあたっての背景
当院ではメロペネムの使用量は比較的少なく、適正に使用されていると考えられるが、ピペラシリン・タゾバクタムに関しては、使用量が非常に多い状況である。そのため、近年ピペラシリン・タゾバクタム耐性の腸内細菌科細菌(大腸菌など)が大きな問題となってきている。
ピペラシリン・タゾバクタム耐性株を増やさないため、ピペラシリン・タゾバクタムの適正使用を支援する目的で、当ガイドラインを作成した。
2. ピペラシリン・タゾバクタムのスペクトラム
グラム陽性球菌とグラム陰性桿菌に非常に広域なスペクトラムを有するが、特徴的なのは「緑膿菌」と「嫌気性菌」に対して活性を有する点である。従って、最も適した使用状況は、「緑膿菌」と「嫌気性菌」を両方カバーしたい場合である。アンピシリン・スルバクタム耐性の腸内細菌科細菌と嫌気性菌をカバーする必要がある場合も、治療薬の選択肢のひとつとなる。MRSA、Enterococcus faeciumには活性を持たない。
3. 緑膿菌が感染を起こす代表的な臓器と状況
(1)緑膿菌感染のリスクとなる患者背景
- 長期入院中
- 直近の濃厚な医療曝露(抗菌薬曝露も含む)
- 直近の培養検査で緑膿菌の検出がある
- 好中球減少
(2)緑膿菌が関与する可能性がある代表的な感染症(臓器・状況)
- 院内肺炎、人工呼吸器関連肺炎
- 嚢胞線維症、気管支拡張症のある人の肺炎
- 発熱性好中球減少症
- カテーテル関連血流感染症
- 膀胱留置カテーテル関連腎盂腎炎
- 熱傷後感染症、糖尿病性足壊疽(複雑症例)
- 手術部位感染症
4. 使用すべきでない状況
- ピペラシリン・タゾバクタムが必要ない状況
- 市中発症の尿路感染症・市中肺炎・重症ではない市中発症の胆管炎
- 重症でピペラシリン・タゾバクタムの使用を考慮する場合は、感染症科コンサルトを検討 - ピペラシリン・タゾバクタムの効果が期待できない状況
- AmpC過剰産生グラム陰性桿菌、ESBLs産生グラム陰性桿菌、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌が関与すると予想される重症感染症(特にショック状態)。
- 尿路感染症・腹腔内感染症・肺炎において、MRSA、E. faeciumの関与想定される場合(バンコマイシンの併用が必要)。
- 上記の菌による感染症は、医療曝露のある患者で一定数みられるため、医療関連感染症では必ずしもピペラシリン・タゾバクタムで治療可能ではない事に注意する。
5. 代替薬
- 代替薬の選択は、症例ごとに患者背景や耐性菌検出歴などを検討する必要があり、個別性が高いため、選択に迷う場合は、感染症科コンサルトをご検討ください。
《院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎》
- セフェピム
- 比較的状態が落ち着いている院内肺炎の場合、緑膿菌カバーを外しても良いことがある(セフトリアキソンやアンピシリン・スルバクタム)
《院内発症の腎盂腎炎》
- 尿のグラム染色で緑膿菌を疑う中型でやや細めのグラム陰性桿菌がみえる場合:セフタジジム
- 尿のグラム染色で腸内細菌科細菌を疑うグラム陰性桿菌が見える場合:セフトリアキソン
- AmpC過剰産生菌を疑う場合:セフェピム
- ESBLs産生菌を疑う場合:メロペネム使用の検討が必要であれば、感染症科コンサルト
《胆道系感染症と腹腔内感染症》
- 重症度、発症場所(市中・院内)、抗菌薬暴露歴などを検討する
- 比較的軽症で市中発症の場合:
アンピシリン・スルバクタム
セフトリアキソンまたはセフォタキシム+メトロニダゾール - 院内発症や最近の抗菌薬暴露歴がある場合:セフェピム+メトロニダゾール(この状況では、ピペラシリン・タゾバクタムはよい適応となる)
《発熱性好中球減少症》
- セフェピム
- 好中球減少性腸炎や肛門周囲膿瘍が疑われる場合の初期治療は、嫌気性菌のカバーが必要であり、ピペラシリン・タゾバクタムのよい適応である。
《耐性菌》
- AmpC過剰産生菌:セフェピム
- EBSLs産生菌:メロペネム、セフメタゾール
- 耐性菌を検出した際は、感染症科へのコンサルトをご検討ください
6. 副作用
- 頭痛(8%)、悪夢(7%)、皮疹(4%)、蕁麻疹(3%)、下痢(11%)、便秘(8%)、悪心嘔吐(3%)、血球減少(頻度不明)、凝固異常(頻度不明)、1型アレルギー(1%以下)、血清Cre上昇(頻度不明)
- バンコマイシンとの併用で急性腎障害が増加する可能性が指摘されているため、併用時は注意が必要である1)。
7. 腎機能に合わせた投与量・投与間隔2)
Ccr:クレアチニンクリアランス(mL/min)
Ccr >50 4.5g 6時間毎
Ccr 20〜50 2.25g 6時間毎
Ccr <20 2.25g 8時間毎
血液透析 2.25g 8時間毎(透析日は透析後に投与時間を調整)
8. 参考文献
1) Clin Infect Dis 2017;64(2):116-23
2) Piperacillin and tazobactam: Drug information. UpToDate2018.
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育