成田赤十字病病院でのレクチャー

7月2日に成田赤十字病病院で、血液内科の先生方向けに、「造血幹細胞移植後のワクチン接種」についてお話させていただきました。

成田赤十字病院血液内科では、年間約25例の同種移植と約15例の自家移植が行われており、千葉県の血液内科診療、造血幹細胞移植診療を支える重要な役割を担っています。

感染症科医では、あまり疑問に思わないような、ご質問を頂き、とても勉強になりました。その分野の専門の先生方の視点から頂く指摘は、こちらの視野を拡げてくれます。以下、印象に残っている2つの頂いた質問です。その場では、クリアに説明できなかったため、家に持ち帰って、調べなおしてみました。

Q1:HBV既感染者に、特にHBVワクチン接種の推奨度が高いのはなぜか?de novo肝炎が減るのか?同種移植後は、高率にreverse seroconversionを起こすので、とても気になる。

→Ans:retrospective studyですが、同種移植後患者、かつ、HBc抗体陽性またはHBs抗体陽性(既感染)を対象とした、HBVワクチン接種群と非接種群を比較した研究があります。結果は、ワクチン接種によりB型肝炎の再活性化(reverse seroconversion)が減少しました。再活性化の定義:HBs抗体が消失し、HBs抗原またはHBV-DNAが出現(肝炎の存在は問わない)。(Biol Blood Marrow Transplant 2008;14:1226-1230)。再活性化が減ると、当然de novo肝炎も減ると思われるため、その予防に有用な可能性が高いと解釈できる。

特に疑問に思わず、ガイドラインを読んでいましたが、今回ご指摘いただいて、その根拠を調べるよいきっかけとなりました。また、移植を担当している先生方の「実感」というものを知ることができてよかったです。

Q2:帯状疱疹ワクチンは実際は接種できるのか?

→Ans:米国のガイドラインでは、水痘ワクチンは接種可能、帯状疱疹ワクチンは力価が高いため、推奨されていない。日本の水痘帯状疱疹ワクチンは、米国の帯状疱疹ワクチンと同等の力価があると想定されているため、その観点からは接種は控えた方がよい。しかし、日本の造血細胞移植学会は、接種を推奨、安全性もあるとしている。また、同種造血幹細胞移植後の小児のretrospective研究では、日本の水痘帯状疱疹ワクチンの安全性と有効性を確認した報告がある(Biol Blood Marrow Transplant 2016;22:771-775)。おそらく安全に施行可能と思われるので、各症例毎に検討していただくのがよいと思われる。
また、不活化ワクチンが認可された。まだ販売はされていない。現在発表されているevidenceは、健常人における効果であるが、(直接の比較試験はないが)生ワクチンより効果が高いと報告されている。自家移植患者への研究も、そのうち発表されるはずである。

この質問をされた背景には、同種移植後のVZV予防を1年間行ったとしても、その後予防内服をやめたあとに、VZVを発症する症例を多く経験されているため、予防するための手段があれば、それを行いたい、という臨床的な必要性を感じられているからとのことでした。そのような「臨床的な実感」を教えていただくことは、大変勉強になります。

このように、他科の先生方と協力して、よりよい医療を提供できるような病院の診療体制の構築に貢献できればと考えています。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育