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先日のmicrobiology roundではMoraxella lacunata を取り上げました。

【分類・命名】
Pseudomonadota門 Gammaproteobacteria綱 Moraxellales目 Moraxellaceae科 Moraxella属に属する。1900年にEyreが Bacillus lacunatus を報告し、1939年にLwoffが Moraxella lacunata として再報告した。属名はスイスの眼科医 Victor Morax に由来し、種小名 lacunata はラテン語で「穴」または「窪み」を意味する lacuna に由来する[1]。

【微生物学的特徴】
Moraxella lacunata は偏性好気性のグラム陰性球桿菌で、非運動性。0.8–1.2 µmのやや大型桿菌で、双桿菌または短連鎖で観察されることが多い。血液寒天・チョコレート寒天培地で35–37℃、CO₂ 5–10%条件下で24–48時間培養すると小さなコロニーが発育し、培地にくぼみ(pitting)を形成する。ブドウ糖非発酵菌で MacConkey 培地では増殖せず、ゼラチナーゼ活性および Tween80 エステラーゼ活性を持つ。オキシダーゼ陽性、カタラーゼ陽性で、βラクタマーゼ産生例も報告されている[2][3][4]。
血液培養では好気・嫌気条件下で陽性化し、グラム陰性桿菌を確認した。血液寒天・BTB寒天培地で24時間培養後にコロニーを観察し、MALDI Biotyperでは M. lacunata と同定(スコア1.86、カテゴリーB)、IDテスト HN-20 ラピッドでは M. lacunata / M. nonliquefaciens と判定された。16S rRNA 遺伝子解析では M. lacunata と100%相同性を示し、M. equi とは99.4%の高相同性であったが、ヒト由来報告がないため M. lacunata と判断された。正確な確認にはゼラチン液化試験の実施が推奨される[2][3][5]。

【臨床的特徴】
上気道常在菌として存在するが、結膜炎の原因菌となることが多い[6][7]。まれに菌血症、感染性心内膜炎(IE)、化膿性関節炎などの侵襲性疾患を引き起こすこともある。骨髄炎については小児の膝蓋骨骨髄炎の報告があるが、下顎骨骨髄炎の症例は報告されていない[6][7]。

【治療】
CLSIでのブレイクポイントは設定されていないが、β-ラクタム(ペニシリン含む)、フルオロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、アミノグリコシド、トリメトプリム/スルファメトキサゾールに感受性を示す報告が多い[8]。IEの場合は、非HACEKグラム陰性桿菌IEに準じて、β-ラクタムとアミノグリコシド系またはフルオロキノロン系の併用を6週間行うレジメンが推奨されている[9]。

【疫学・考察】
Moraxella spp.菌血症の頻度は低い。2000年から2019年にかけてクイーンズランド州で行われた観察研究では、8,600万人年の期間中に375件の Moraxella spp.菌血症が報告され、年間発生率は住民100万人あたり4.3人であった。年齢別では乳児で最も高く、加齢に伴い減少した。Moraxella lacunata は3件(2%)にとどまった[10]。
Moraxella lacunata 菌血症と口腔由来感染症との関連では、IE症例の診察で歯肉からの出血が確認され、口腔がエントリーサイトである可能性が示唆されている[11]。IEに関しては、Moraxella spp.によるシステマティックレビューで31症例中12症例を Moraxella lacunata が占めていた[12]。

【参考文献(番号順)】
[1] LPSN: Moraxella lacunata
[2] MANUAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY, 13th Edition.
[3] 小栗豊子. 臨床微生物検査ハンドブック, 第5版.
[4] Nagano N, Sato J, Cordevant C, et al. Presumed endocarditis caused by BRO β-lactamase-producing Moraxella lacunata in an infant with Fallot's tetrad. J Clin Microbiol 2003;41:5310-5312.
[5] Hughes DE, Pugh GW Jr. Isolation and Description of a Moraxella from Horses with Conjunctivitis.
[6] Acta Ophthalmol (Copenh). 1985 Aug;63(4):427-31.
[7] Jpn J Ophthalmol. 2019 Jul;63(4):328-336.
[8] Infect Dis Clin Pract 2017;25:131–133.
[9] Eur Heart J. 2023 Oct 14;44(39):3948-4042.
[10] Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2023 Feb;42(2):209-216.
[11] J Infect Chemother 2014;20:61–64.
[12] J Clin Med. 2022 Mar 27;11(7):1854.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
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