microbiology round
先日のMicrobiology roundではCardiobacterium hominisを取り上げました。
※培地は発育がなくGram染色の写真のみ掲載しております。
【歴史】
・1962年にTuckerらによってPasteurella様の菌による感染性心内膜炎として初めて報告された1)。
・語源2)→ギリシャ語で心臓を意味するKardiaとラテン語で桿菌を意味するbacteriumから名付けられている。hominisはラテン語で『人間』を意味する。
【微生物学】
分類: Pseudomonadati門、Pseudomonadota網、Gammaproteobacteria目、Cardiobacteriaceae科、Cardiobacterium属
・Cardiobacterium属には、C. hominisとC. valvarumの2菌種のみが存在する。
・グラム陰性桿菌。しばしば2連鎖、短鎖状、涙滴状、ロゼット状(花が咲いているような形)、または集塊状に配列する3)。
・通常、血液培養において1~7日後に検出可能。3%以上の炭酸ガス存在下で発育する。
・標準的な栄養培地(血液寒天培地、チョコレート寒天培地)では良好に発育し、5〜7%炭酸ガス存在下で35℃、48~72時間培養で直径1mm程度の小さく光沢のあるスムース型の丸いコロニーを形成する。
・腸内細菌用選択培地(マッコンキー寒天培地、エオシンメチレンブルー寒天培地)では発育しない3)。
・本菌はオキシダーゼ陽性、カタラーゼ陰性、亜硝酸塩陰性、ウレアーゼ陰性、インドール弱陽性である。また、グルコース、フルクトース、スクロース、マンノース、ソルビトールから酸を産生する。
・鼻、口、咽頭の常在菌で、他の粘膜や消化管にも稀に存在する4)。
・微生物の発育が遅く、感受性試験は微量液体希釈法が良いと思われる5)。
【臨床像】
・Cardiobacterium hominisは 、HACEK群に属するグラム陰性桿菌であり、ヒトにおける感染性心内膜炎の原因菌として知られている。
HACEK:
Haemophilus spp. (H. parainfluenzae, H. influenzae), Aggregatibacter spp. ( A. actinomycetemcomitans, A. aphrophilus, A. paraphrophilus, A. segnis), Cardiobacterium spp. (C. hominis, C. valvarum), Eikenella corrodens, Kingella spp. (K. kingae, K. denitrificans)
・細菌性心内膜炎症例のうち、HACEKによるものはわずか2~6%で、HACEKによる心内膜炎患者の27%はC. hominis によるもの6)。
・他のHACEKと異なり、感染性心内膜炎以外の疾患を引き起こすことがほとんどない4)。
・ほとんどの患者は、基礎疾患として解剖学的異常(例:リウマチ性心疾患、心室中隔欠損症、先天性二尖弁)または人工弁を有している7, 8)。
・感染性心内膜炎の患者の多くは、重度の歯周炎がある場合や、抗菌薬の予防内服なしに歯科治療を受けた経験がある。 上部消化管内視鏡検査後のC. hominis感染性心内膜炎の報告もある9)。
・亜急性症状として、徐々に発症し(診断前平均2-5か月前)、診断時には発熱がないことが多い6)。
・疣贅のサイズは大きく、他のHACEKよりも大動脈弁に疣贅を認めることが多い。死亡率は約10%で、約30%の症例で弁置換が必要となる10)。
・弁の疣贅がないC. hominisによるペースメーカーリード感染症の症例報告もある11)。
・C. hominis は 毒性が低いと考えられており、既に損傷した心臓弁や人工弁に感染する傾向がある1)。
【治療】
・通常、β-ラクタム系の抗菌薬、フルオロキノロン、クロラムフェニコール、リファンピシン、テトラサイクリンに広く感受性がある。 アミノグリコシド、エリスロマイシン、クリンダマイシンに対する感受性は様々。β-ラクタマーゼ産生株が報告されている5, 6)。
・AZM(15員環)はCAM(14員環)より分子量が大きく、マクロライド感受性に関わるリボソームの結合部位への親和性の違いでマクロライド系抗菌薬の感受性が異なると思われる。
・American Heart Associationによる感染性心内膜炎のガイドラインでは、in vitroで十分な発育が得られない限り、HACEKはアンピシリン耐性と考えるべきであり、これらの症例ではペニシリンやアンピシリンを感染性心内膜炎の治療に使用すべきではないと記載されている。HACEK群のほぼすべての株はセフトリアキソンに感性であり、使用することは合理的である。12)
・自然弁感染性心内膜炎の治療期間は4週間が妥当であり、人工弁心内膜炎では6週間の治療期間が妥当である。ゲンタマイシンは腎毒性リスクのため、推奨されない12)。
・微生物学的な治癒は通常達成されるが、治療中に合併症が頻繁に発生する。全身塞栓症、感染性動脈瘤、または心不全により、弁置換術が必要となる症例も数多くある4)。
1. Tucker D.N., Slotnick I.J. et al.: Endocarditis caused by a Pasteurella -like organism: report of four cases. N Engl J Med 1962; 267: pp. 913-916.
2. CHARACTERIZATION OF AN UNCLASSIFIED GROUP OF BACTERIA CAUSING ENDOCARDITIS IN MAN: CARDIOBACTERIUM HOMINIS GEN. ET SP. N. Antonie Van Leeuwenhoek. 1964;30:261-272.
3. Malani A.N., Aronoff D.M.,et al..: Cardiobacterium hominis endocarditis: two cases and a review of the literature. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2006; 25: pp. 587-595.
4. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases. 10th
5. Kugler K.C., Biedenbach D.J., Jones R.N.: Determination of the antimicrobial activity of 29 clinically important compounds tested against fastidious HACEK group organisms . Diagn Microbiol Infect Dis 1999; 34 (1): pp. 73-76.
6. Chentanez T, Khawcharoenporn T, Chokrungvaranon N, Joyner J. Cardiobacterium hominis endocarditis presenting as acute embolic stroke: a case report and review of the literature. Heart Lung. 2011;40(3):262-269.
7. Pousios D., Gao F., Tsang G.M.: Cardiobacterium hominis prosthetic valve endocarditis: an infrequent infection . Asian Cardiovasc Thorac Ann 2012; 20 (3): pp. 327-329.
8. Revest M., Egmann G., Cattoir V., Tattevin P.: HACEK endocarditis: state-of-the-art . Expert Rev Anti Infect Ther 2016; 14 (5): pp. 523-530
9. Pritchard T.M., Foust R.T., Cantely J.R., Leman R.B.: Prosthetic valve endocarditis due to Cardiobacterium hominis occurring after upper gastrointestinal endoscopy . Am J Med 1991; 90 (4): pp. 516-518.
10. Brouqui P., Raoult D.: Endocarditis due to rare and fastidious bacteria . Clin Microbiol Rev 2001; 14 (1): pp. 177-207.
11. Nurnberger M., Treadwell T., Lin B., Weintraub A.: Pacemaker lead infection and vertebral osteomyelitis presumed due to Cardiobacterium hominis . Clin Infect Dis 1998; 27 (4): pp. 890-891.
12. Baddour LM, Wilson WR, Bayer AS, et al. Infective Endocarditis in Adults: Diagnosis, Antimicrobial Therapy, and Management of Complications: A Scientific Statement for Healthcare Professionals From the American Heart Association. Circulation. 2015;132(15):1435-1486.
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育