KINDセミナー開催のご報告と質疑応答のご返答

先日、KINDセミナー(亀田感染症セミナー)を開催いたしました。今回は、現地+オンラインのハイブリッド形式で実施し、全国から多くの方にご参加いただきました。ご多忙の中ご参加くださった皆様、心より御礼申し上げます。
セミナーを通じて、日々の診療に活かせる学びや新たな視点を一つでも多くお持ち帰りいただけていれば幸いです。
当日、会場およびオンラインでお寄せいただいたご質問については、以下にまとめて回答を掲載いたします。どれも鋭く実践的な内容ばかりで、皆様の感染症診療への高い関心と熱意が強く感じられました。
また、当科では現在、短期研修および3年間の感染症フェローシップを随時募集しています。感染症診療にご興味のある方、より深く実地で学びたい方は、ぜひ病院見学もご検討ください。
https://www.kameda.com/pr/infectious_disease/fellowship.html
以下、質疑応答です。

講義1 感染症診療の原則

Q1. 血液培養検査を行う閾値について質問したいです。
教科書的には、血液培養検査=菌血症を疑う際に提出する。と記載があります。具体的には悪寒戦慄やよくわからない意識障害やショック、菌血症になりやすい尿路、胆管感染症、そのほかにも、当院では、場合によって免疫抑制患者の発熱day1、高齢者の発熱day1でも外観やバイタルサインに問題なくても血液培養を検討したりします。
当院は他院から来た医師に血液培養の閾値が低いと言われますが、亀田ではどの様な患者に血液培養を提出しておりますか?高齢者の発熱day1に、問診、身体診察はもちろんとして、いわゆるfever work upとして血液培養を提出しておりますか?
A) ご質問ありがとうございます。ご紹介いただいたような事例での血液培養採取は適切だと思います。当院でもほぼ同様の閾値で血液培養を採取しています。血液培養は取っておかないとあとから取りたいと思っても抗菌薬が入ってしまってからでは菌が検出できなくなってしまいます。抗菌薬投与を考えた時には取っておくことがポイントだと思います。血液培養採取の閾値を下げて採取していると、「血液培養をとっておいてよかった」と思う事例を経験すると思います。感染症の確定診断は微生物の同定です。微生物が同定できて初めて de-escalation, 最適治療ができますので、起炎菌を捕まえるためのfever work upの一環として血液培養を採取するのは重要な診察手技の一つだと思います。日本の血液培養採取件数は諸外国に比べて少ないことがわかっています。国際的な標準と比較して、今の日本の状況で血液培養採取の閾値が低すぎる、ということはないと思います。

講義2 院内の発熱へのアプローチ

Q1. (会場) 長期投与している薬剤での薬剤熱は?
A) 薬剤熱を起こすまでの原因薬剤の投与期間の中央値は2-8日間です。ただし発熱までの時間は薬剤や発熱の機序によって大きく異なり、実際には、長期間投与していた薬剤が原因であった症例も経験します。例えば、ミノサイクリンを2年間内服して薬剤熱を発症した報告などもあります。基本的には被疑薬をやめてみて解熱するかを確認しますが、多くは2週間以内に開始した薬剤ですので、まずは頻度の高い1-2 週間以内に開始された薬剤から疑います。

Q2.(会場) CRBSIを疑う時、カテ先培養は基本的には出しますか?
>費用対効果のために近年米国では出さない傾向もありますが、当院では提出しています。
A) カテ先培養は歴史的に出されてきましたが、費用対効果を考えるとカテ先培養提出の意義は下がるとも近年考えられてきています。ただし、鑑別診断を考える上や、CRBSIの診断をより確かなものにするのには、提出する方が良いと当院では考えており、基本的にCRBSIを疑う症例は全例提出しています。

講義3 感染性心内膜炎へのアプローチ

Q1. (会場)人工弁で黄色ブドウ球菌が原因になっているときには、GMを使うことになっていますが、腎機能が悪いときにはどこまでGMを追加しますか?
A) ゲンタマイシンの腎障害は短期間であれば可逆性であり、耐用性がある場合は投与を行っている。予後が改善するという根拠は提示されていないが、菌血症の期間はやや短くなる。手術した瞬間に菌血症は無くなっていてほしいという思いもあるので、エビデンスではないが、直近で手術をするのであれば投与する。

Q2.TEEについて質問させてください。例えば MSSA一過性菌血症の際に、SABバンドルとしてTTEを実施したが疣贅は無く、経過も良好で2週間の抗菌薬治療を想定している様な場合はTEEまでしますか?また、おそらく口腔内を侵入門戸としたViridansの一過性菌血症の際に、IEを疑ってルーチンでTTE、TEEは施行しますか?
A)MSSA菌血症の場合、基本的には4週間の治療を行っています。またDuke criteriaを用いてIEの評価を行います。市中発症であり、人工物がなく、CVカテーテル挿入がなく、抗菌薬持続がなく、速やかに解熱しており、播種性病変がなく、IEが完全に否定されている場合など、いくつかの条件を満たす場合にはMSSA菌血症に対して2週間の治療も可能とされています(PMID:40193249)。CRBSI疑いで抗菌薬を2週間で終了する場合、TTE陰性が陰性であったとしても、IEがないことを確認するためにはTEEまで行う必要があります。
Viridans Streptococciが2セット以上で陽性になった場合は、IEが鑑別となるため、TTEは必ず行っています。TTEが陰性の場合は、Duke criteriaを確認のうえ、持続菌血症になっていないか、明らかな歯性感染症などの代替診断ないかなど、臨床的にどれほどIEを疑うかによってTEEまで行うかどうか判断します。
Q3. GMは3mg/kg q24hか1mg/kg q8hのどちらにされていますか?
A) 2015年のAHAのScientific Statementと、2023年のESCのガイドラインには、いずれも3mg/kg/dayで単回投与が推奨されています。AHAの文章には代替案として1日3回の分割投与も可能であると記載されています。投与の簡便性も考慮し1日1回投与とすることが多いです。

Q4. 脳梗塞合併例についてご相談させてください。MRI等で脳病変の合併が疑われる場合、抗菌薬の投与量について検討されることはありますでしょうか?
A) 脳梗塞を合併したIEに対して、抗菌薬の「量」を増量するなどして投与することはありません。MSSAのIEで脳梗塞を合併している場合、中枢神経感染症のリスクも考慮し*、髄液移行性のある抗菌薬を使用をしています。セファゾリンは髄液移行性がないとされており**、黄色ブドウ球菌用のペニシリン系薬(nafcillin, oxacillinなど)が選択肢となりますが、これらは日本にないため使用できません。どのような抗菌薬を選択するかは感染症内科医、施設毎に異なります。亀田総病院においては、第4世代セファロスポリンのセフェピムを使用したり、黄色ブドウ球菌用のペニシリン系薬であるクロキサシリンとアンピシリンの合剤であるビクシリンS®を使用したりしています。将来的には日本において黄色ブドウ球菌用ペニシリン系薬の単剤製品が使用できるようになることが望ましいですが、現状は上記の抗菌薬を用いて治療を行う必要があります。*脳梗塞の場合、厳密には血管内であるため、髄液移行性が本当に必要かどうかの判断は難しいところです。ただ、脳梗塞から脳膿瘍や出血性脳梗塞を発症する可能性もあり、脳梗塞を合併したIEに対しては基本的に髄液移行性のある抗菌薬への変更を行っています。
**セファゾリンの髄液移行性を示唆する研究も近年でてきており (PMID:40391958, 40393279, 30420481, 32437956)、セファゾリンでもMSSAの中枢性病変を治療可能であれば、脳梗塞を合併したIEをセファゾリンで治療するようになるのかもしれません。しかしながら現状ではまだセファゾリンの髄液移行性についてはコンセンサスが得られておらず、MSSAの中枢性病変についてはセファゾリン以外で治療を行っています。

Q5. 都立墨東病院の山室と申します。貴重なご講演をありがとうございます。IEと診断した際、明らかな理学所見を認めない場合も全身の画像スクリーニングを行っていますでしょうか。
A) IEの症例全てに対して膿瘍の検索目的で造影CTを撮像しているわけではありません。基本的には身体所見で腫脹や疼痛などの所見がある場合に膿瘍の検索目的で造影CTを撮像しています。黄色ブドウ球菌の場合は播種性病変を作りやすいため、身体所見で異常ないかどうかを日々診察し、異常が出現した場合は積極的に画像検索を行たほうがよいと考えます。

Q6. 他のフォーカスが明らかな場合の菌血症の場合にIEの精査をするか質問させてください.例として胆管炎で血液培養からS. anginosusが検出された場合胆管炎によるものとして培養フォローもせず治療をするか.IEの可能性考慮してフォロー血液培養+TTEも検討されますでしょうか?
A) IEを起こす典型的な微生物が血液培養で陽性となった場合は、他に代替診断があったとしても、持続菌血症がないかどうかを確認するために血液培養を再検することはリーズナブルであると考えます。Streptococcus anginosusが血液培養陽性の場合、臨床的に急性胆管炎が確かなのであれば、IEの精査は行わないこともありえます。代替診断がないかはっきりとしない場合は、Duke criteriaを用いてIEに合致する所見がないかどうかを確認していくことが必要です。

Q7. 脳塞栓症を伴うIE症例において、抗生剤の中枢移行性はどこまで考慮されますでしょうか。(例えばMSSAのIEでもCTRXやCFPMなどを使用されますでしょうか)
A) Q4の回答

Q8. 当院では黄色ブドウ球菌菌血症を診る機会が多く、化膿性椎体炎や腸腰筋膿瘍、膿胸を合併しているケースもよくみます。TEEまでやっても疣贅を発見できず、Duke criteriaでpossible IEに留まることも多々あります。このような病態は実質的にIEと認識した方がいいでしょうか?黄色ブドウ球菌菌血症という診断名にすべきか、Clinical IEとすべきか毎回悩んでいます。
A) 黄色ブドウ球菌が2セット以上で血培陽性の場合、TEEまで行って疣贅がない場合でも、Duke criteriaの小項目を3つ満たせばIEの確定診断となります。黄色ブドウ球菌菌血症であり、椎体炎や腸腰筋膿瘍、膿胸を合併している場合、Duke criteriaで確定診断とならなければpossible IEに分類されると思います。ただ、確定ではなくてもIEに近い病態であることが推察されます。診療に関しては、化膿性椎体炎であれば最低6週間(かつ赤沈が陰性かプラトーになるまで)、腸腰筋膿瘍であれば最低4週間(かつ画像的に膿瘍消失か縮小してプラトーになるまで)、膿胸であれば最低6週間は治療を行うことになり、治療期間はIEの場合とほとんど変わらなくなります。

Q9. (アンケート) 感染性心内膜炎で塞栓症がある場合、抗菌薬の投与期間の延長はせず、ガイドラインに記載されている治療期間でよいのでしょうか?(血栓に菌が付着しているなど、そういったことは考慮する必要はあるのでしょうか?) 何度でも聞きたい大切な内容ばかりで、大変勉強になりました。ありがとうございました。
A) 塞栓症状がある場合でも、必ずしも抗菌薬投与期間を延長する必要はありません。ただ膿瘍形成がある場合は、治療終了前に画像フォローを行うことはリーズナブルであると考えます。

講義4 渡航歴のある発熱患者へのアプローチ

Q1. マラリアを疑った場合について質問です。マラリア蔓延地区への渡航歴のある人の発熱患者さんが来院し、マラリアを少しでも疑った場合にはすぐに専門機関をご紹介した方がいいでしょうか。院内で血液ギムザ染色をやって疑わしければ紹介、のほうがいいでしょうか。
A) 対応する病院のリソース、患者さんの重症度、発熱を説明する他の疾患の有無などにもよるので、一概には言えませんが、ご自身の施設でギムザ染色によるマラリア原虫の確認が行えるようであれば、まずは確認をしてみても良いと思います。専門機関に紹介した場合でも、まず確認するのはギムザ染色です。検査技師さんがギムザ染色でマラリア原虫のようなものを見つけてくれたので相談しましたというケースもしばしば経験します。既にギムザ染色の標本がある場合には、紹介状と一緒に末梢血のギムザ染色のスライドを持ってきてもらっています。一方で、診断、治療が遅れるとアウトカムに大きく影響する疾患ですので、マラリアの蔓延地域への渡航歴があり、潜伏期間的にも熱帯熱マラリアを想定するような症例で、自施設での評価が難しければすぐに専門機関に紹介しても良いと思います。近隣のクリニックや小さな病院などには、マラリアが考えられる国への渡航歴がある帰国後1ヶ月以内くらいの発熱症例については、すぐに相談して下さいと伝えています。

Q2. 腸チフスを疑った場合、骨髄培養まで提出されますでしょうか?
A) いきなり骨髄培養を提出することはまずありません。多くの場合は血液培養で診断が付きますし、渡航歴や経過から腸チフスを強く疑う症例では血液培養を提出した後に抗菌薬治療を開始してしまうからです。血液培養が陽性にならない不明熱のような経過をたどる症例の場合には、より感度の高い骨髄培養の提出を検討することはあります。

Q3. マラリアの罹患歴のある地域の方では症状が軽く出ることもあるというお話がありましたが、血液検査上の所見や傾向も同様に派手に出にくいものでしょうか。
A) 症状だけではなく、アウトカム、寄生率、貧血、血小板低下、AKI発症率などについても、差があるという報告はあるようです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32161068/
実際の診療においても、同様の印象を受けます。

Q4. CTRXから抗菌薬変更する際に最初からAZMではなくMEPMを選択した理由を教えていただけますでしょうか。
A) 講義で紹介した症例は、比較的重症の入院症例でしたので、セフトリアキソンからアジスロマイシンではなく、メロぺネムに変更しました。 CDCのYellow Bookには以下のように記載されています。
For patients with suspected typhoid fever who traveled to Iraq or Pakistan, or who did not travel internationally before their illness began, empirically treat uncomplicated illness with azithromycin and treat complicated illness with a carbapenem.
XDR Typhoid症例では、メロぺネムとアジスロマイシンの併用も選択肢とされています。
Case reports have suggested that patients with XDR Typhi infection who do not improve on a carbapenem alone might benefit from the addition of a second antibiotic (e.g., azithromycin).
今回の症例でも、アジスロマイシンの併用については検討しましたが、メロぺネム単剤治療で徐々に解熱し、状態も改善したので併用は行わずに、退院をみこしてアジスロマイシンに変更しました。
詳しい経過は以下の症例報告をご参照ください。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39613102/

Q5. マラリアの薬剤耐性の疫学データについて参照可能なデータベースなどありますでしょうか。
A. WHOが提供しているMalaria THREATS MAPというサイトに、情報がよくまとまっていました。
https://apps.who.int/malaria/maps/threats/

講義5 結核へのアプローチ

Q1. (会場) 痰培養、胃液培養の違い
A) 喀痰が採取できない小児や高齢者においては、胃液で抗酸菌検査を実施することがあります。米国感染症学会のガイドライン(1)には、胃液の抗酸菌塗抹検査や培養検査は感度が低いために、陽性の時のみ有用である(陰性であっても、活動性結核を否定する材料にはならない)、と記載されています。一方で、3回連続の抗酸菌検査を行う場合に、3連痰の中に胃液の検査を含める(3回のうち、1-2回を胃液にする)ことで結核の診断率が上昇したという日本からの報告もあり(2)、胃液は喀痰が採取できない時の選択肢になります。尚、胃液中には環境由来の非結核性抗酸菌(NTM)が混入し、培養検査結果が病態を反映していない可能性があるため(3)、胃液からNTMが検出された際には、臨床像と併せて、検出された菌の病態への関与を慎重に判断する必要があります。
(1)Clin Infect Dis. 2017;64:111-115.
(2)J Infect Chemother. 2022;28:1041-1044.
(3)Pediatr Infect Dis J. 2015;34:91-3.

Q2. 血液疾患に対して同種移植後、免疫抑制剤使用している症例で潜在性結核の治療期間は延長されてますでしょうか?
A) 日本結核病学会の指針(1-2)や、CDCのガイドライン(3)では、 潜在性結核の治療期間を延長すべき基準等に関して、特に記載はございません。一方でWHOのガイドライン(4)は、高蔓延国のHIV感染者のおいては、感染・発症リスクが高いことから、36ヶ月以上のイソニアジドによる治療を推奨しています。
(1)結核 2019;94:515-518.
(2)結核 2013;88:497-512.
(3)MMWR Recomm Rep 2020;69:1-11.
(4)World Health Organization. Latent tuberculosis infection: updated and consolidated guidelines for programmatic management. Geneva: WHO; 2018. Available from: https://www.who.int/publications/i/item/9789241550239

Q3. (会場)つば痰は検査しますか?
A) 質の悪い喀痰は、感度が低いため、検査する意義は下がります。可能な限り、高張食塩水の吸入により喀痰を誘発するなど、良質な検体採取に務めます。どうしても喀痰採取が困難な場合は、胃液検査や、気管支鏡による検体採取を検討します。

Q4. 結核症を疑い、骨髄液の培養取る際に何か手技的に注意点があれば教えてください。
A) 粟粒結核を疑った際に、骨髄の検査を検討することがあるかと思います。抗酸菌の塗抹・培養・遺伝子検査に加え、病理検査も提出いただくと、結核の組織診断(乾酪性肉芽腫の確認など)において有用です。手技的な注意点としては、骨髄穿刺の手技で空気感染をきたす可能性は低いと考えますので、標準予防策に留意いただければ良いと思います。

Q5.(アンケート)昨年11月に結核の接触者になってしまった方(男性)が今月一般内科外来に受診されました。その際、妊活は一時中断した方が良いのか質問されました。おそらく今後の結核発症リスクを考慮されたのだと思います(もしその方の妻が妊娠した後に、その方が結核を発症したら妻に感染させてしまうことを懸念されているようでした。)まだ保健所から連絡は来ていないとのことですが、このようなケースではどのようなアドバイスをされますでしょうか?
A) 仮に結核の感染が成立したとしても(潜在性結核の状態)、活動性結核を発症していない限り、他者への感染性はありません。そのため、結核の接触者になったことを理由として、妊娠活動を控える必要は無いと考えます。

講義6 血液培養からアプローチする感染症診療

Q1. 質量分析器の利用によりこれまで臨床での分離報告が少ない細菌が報告されることも増えてきたかと思われます。その都度Mandellを参照したりCase series/narrative reviewなどを検索しているのですが感受性検査や病原性の情報に乏しくempiricalな治療薬選択に悩むことがあります。稀な細菌が検出されたときに先生方が参照されるデータベースなどありますでしょうか。またこのような場合に推奨される治療戦略などありますでしょうか。
A) ご質問ありがとうございます。
会場でお話させていただいたとおり、私達も個別に調べております。ただ、自分これまでたまたま遭遇しなかっただけで微生物学領域では知られた微生物であることもあるので、私は以下のように検索しております。
まず教科書を調べる
Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases
Manual of Clinical Microbiology
次に総説を調べます。
Clinical Microbiology Reviewsなど
あとは会場で紹介した私達のMicrobiology Round (https://www.kameda.com/pr/infectious_disease/microbiology/index.html)で議論したことがないか履歴を調べます。
ここまでで引っかかって来なければ文献検索をしてCase seriesや他にNarrative reviewがないか検索を行います。
参考になりましたら幸いです。

Q2. 血液培養からコンタミの可能性の高い菌を含め複数菌種類でた場合、コンタミの可能性のある菌は治療対象としなくて良いのでしょうか?状況にもよるかと思いますが教えて頂けると嬉しいです。
A) 複数菌が血液培養から発育してくるということもコンタミネーションの特徴ではありますが、コンタミネーションを起こす菌であったとしても患者の状況によっては真の菌血症である可能性があります。例えば人工関節が入っている患者で、血液培養2セット中1セットからStaphylococcus epidermidisとCutibacterium acnesが発育してきた場合などがこれにあたります。このような状況でもし患者が発熱して何ら感の感染があるという場合は治療を開始することもあります。その際は抗菌薬を開始する前に2回目の血液培養2セットを採取してから2菌種をカバーするように抗菌薬を開始します。人工関節が留置されている部分に感染兆候がなければ、抗菌薬を開始する前に採取した2回目の血液培養でこれらの菌が発育しなければその時点でS. epidermidisとC. acnesの治療の中止を検討することができます。仮に患者に発熱がなく状態が落ち着いており、尚且つ人工物が挿入されている部位に感染兆候がなければ抗菌薬は始めずに血液培養2セットのフォローアップのみで経過観察を行うこともあります。このように患者の状況に応じて対応を考えていきます。

Q3. 血液培養のフォローアップにつきまして、黄色ブドウ球菌やカンジダの場合は陰性化確認が推奨されていると思いますが、CNSなどが出てきてカテーテル血流感染症などを疑う場合に、血培再検は積極的にされていますでしょうか。
A) カテーテルが留置された患者でCNSがでた場合もフォローアップの血液培養を採取するようにしています。その理由は以下の二つになります。
 コンタミネーションの評価
血液培養の2セット中1セットで陽性になった場合はコンタミネーションの可能性があります。もし、フォローアップの血液培養からもCNSが発育するようであれば真の菌血症の可能性が高くなりますので、これを評価するためにフォローアップの血液培養を採取します。
 持続菌血症の有無(菌血症のクリアランスの確認)
フォローアップの血液培養でまたCNSが発育し持続的菌血症をきたしている場合、もし抗菌薬治療を開始後にCNSが発育してきたのであれば原因となるカテーテルの抜去(ソースコントロール)を考える必要があります。また、頻度は高くありませんが、化膿性血栓性静脈炎や感染性心内膜炎など他の感染巣の可能性も検討する必要があります。

講義7 免疫抑制患者の感染症のアプローチ

Q1.  薬剤による細胞性免疫低下を定量的に比較することはできますでしょうか?
Q2. 化学療法による免疫抑制の程度についてNCCN guidelineを参照することがあるのですが、薬剤によっては記載がないものもあります。そういった場合、免疫抑制の程度を比較、評価する方法は何かありますでしょうか。
Q1とQ2をまとめて回答させていただきます。基本的にはNCCNのガイドラインなどを参照したり、その薬剤と感染症のリスクを論じたreview articleや、その薬剤と感染症についての多施設のコホート研究などをpubmedで探し、読み込んでいくという方法をとっています。発売直後などで情報が少ない場合は、その薬剤が承認された根拠となったRCTの論文の副作用の表やappendixに、多くの場合はどのような感染症がみられたかということが報告されていますので(nが小さいので稀な感染症までは報告はされていないことには注意が必要ですが)、それに目を通しておくと良いと思います。

その他(アンケートで頂いた質問)

Q1. 91歳の高齢の方で(おそらく神経因性膀胱のためでしょうか?)腎盂腎炎を繰り返すという理由で尿道カテーテルを留置され、ST合剤を週3回定期的にPCP予防のような形で投与され、私のクリニックの訪問診療に来られた方がいました。尿道カテーテルを数ヶ月留置されているようで、まずは抜去できないか検討しようと思うのですが、このような予防的STの使い方はあるのでしょうか?少し検索した限りでは、当たり前ですが、耐性菌の問題もあり慎重に考えた方がいいといった感じの見解しかない様なのですが・・・なお、前医からの紹介状では、STを継続するかどうかはお任せしますとのことでした。講義と直接関係ない症例の相談で申し訳ありませんが、ご意見をいただければ幸いです。
A) 何をしても同一菌による腎盂腎炎(高齢者の腎盂腎炎は症状に乏しいことが多いので、尿培養で生えた菌が腎盂腎炎の起因菌なのか無症候性の細菌尿をみているだけなのか判断するのは難しいことが多いですが)を繰り返すような方では、エビデンスは乏しくてもexpert opinionとして、予防投与をすることはあるかもしれませんが、原則は予防投与はしないと思います。まずは、尿カテの抜去を試みたり、他に腎盂腎炎を繰り返す原因(結石など)がないかの評価を行うのをおすすめします。

Q2. 膿胸の対応に関して、通常、ドレーン留置や手術など、膿瘍に対する治療が必要かと思います。しかし、高齢で耐術能がなく、認知症などでドレーン留置が困難と考えられる場合、どのように対応されていますでしょうか? 教えていただけますと幸いです。
A) 「膿瘍」に関しては、可能な限りドレナージするのが原則です。ドレーン留置が難しい場合は、単回の穿刺でのドレナージを試みるのが良いと思います。それも難しい場合は、抗菌薬のみで治療することもありますが、通常は4週間以上の抗菌薬投与が必要になります

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育