microbiology round

microbiology roundでListeria monocytogenesについて取り上げました。
Listeriaは2年ぶり3回目の登場です。

【歴史・微生物学的特徴】
Firmicutes門 Bacilli綱 Bacillales目 Listeriaceae科 Listeria属
L. monocytogenesは、1926年にケンブリッジ大学で実験動物に発生した突然死の原因として初めて同定され報告された。感染した動物の血液では、大型の単核球増多が顕著に認められたことからBacterium monocytogenesと名付けられ、その後、イギリスの外科医Joseph Listerの姓にちなんでL. monocytogenesに改名された。1929年に初めてヒトの病原体として認識された。L. monocytogenesは自然界に幅広く存在して、土壌や腐朽した植物および多数の哺乳動物の糞便細菌叢の一部である。ナチュラルチーズ※、肉や魚のパテ、生ハム、スムークサーモン、カンタロープ(メロン)などがL. monocytogenesの媒介食品となる。
※ナチュラルチーズとは、乳、クリーム、バターミルクまたはこれらを混合して凝固させた後、ホエーを除去して製造されたもの(カマンベールチーズなど)。製造過程に加熱処理が含まれない。加熱処理を含めるものはプロセスチーズとよばれる(スライスチーズなど)
リステリア属菌は、2013年以降平均的に2種類/年のペースで増加しているが、基本的にヒトに感染症を起こす菌はL. monocytogenesだけである。もともと菌体由来のO抗原と鞭毛由来のH抗原による血清型が用いられていたが、14の血清型のほとんどすべての感染症が血清型1/2a,1/2b,4bによって起こるため、疫学的調査で血清型の有用性は限られている。近年は、全ゲノムシーケンシングを用いた菌株解析と、疫学情報を組み合わせたサーベイランスが実施されている。
L. monocytogenesの至適発育温度は30-37℃だが、他の多くの細菌と異なり、冷蔵庫内の温度(4-10℃)環境でも発育可能である。L. monocytogenesは低温、酸性、高食塩濃度などの厳しい環境でも適応して発育する。そのためL. monocytogenesのアウトブレイクに関連する食品は、汚染のリスクがある食品、L. monocytogenesが増殖しやすい食品、長期間保存できる食品(摂取時に細菌の菌量が多くなる)、冷蔵保存される食品に多い。
L. monocytogenesは、小型、通性嫌気性、非芽胞形成性、カタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性、不完全なβ溶血を形成するGram陽性桿菌である。Gram染色ではGram不定性で、時にGram陰性に見えることがある。ジフテリア、腸球菌、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、腸内細菌目細菌と誤認されることもある。発育培地次第で短い桿菌、長い桿菌または楕円形の球菌が生成される場合があるある。Group B Streptococcus(GBS)との鑑別は、BTB培地で発育があればL. monocytogenesで、発育がなければGBSである。また、Corynebacterium属菌との鑑別は、運動性があればL. monocytogenesで、運動性がなければCorynebacterium属菌である。L. monocytogenesは極鞭毛を持っていおり、室温(25℃)で、タンブリングと呼ばれる特徴的な鞭毛による回転運動を示す。

【臨床的特徴】
1.感染経路
典型的には、リステリアに汚染された食品の摂取により感染する。他に、経胎盤あるいは感染した産道を通じての母子感染、および新生児室内の交差感染がある。L. monocytogenesは、腸管内で内皮細胞による能動的なエンドサイトーシスによって粘膜バリアを突破し、血行性の播種が起こる。L. monocytogenesは中枢神経系と胎盤への特異的な指向性を有している。
2.潜伏期間
1985から2015年までにCDCに報告された侵襲性リステリア症例のアウトブレイク事例の解析では、リステリア曝露から発症までの中央値は11日(範囲:0〜70日)で、症例の90%が曝露から28日以内に発症していたと推定された4)。 ※胃腸炎の場合は1日と非常に短い。
3.危険因子
年齢(高齢または新生児)、妊婦、グルココルチコイド含めた免疫抑制剤治療中、血液悪性腫瘍・固形臓器腫瘍、臓器移植後、糖尿病、肝硬変、腎不全、ネフローゼ症候群、アルコール依存症、HIV感染症、鉄過剰状態、PPI使用など。
4.臨床像
無症候性感染や自然治癒する胃腸炎から菌血症や髄膜脳炎などの侵襲性感染症まで広範囲にわたる.侵襲性感染症は a)周産期感染症、b)菌血症、c)中枢神経感染症の3病型が主。他に感染性心内膜炎、血管内感染、関節炎、骨髄炎、腹膜炎、尿路感染症、肺炎なども起こる.
a)周産期感染症
妊娠中は軽度の細胞性免疫低下が生じるため、妊婦はリステリアの感染リスクが一般人口(0.7人/10万人)と比較して17倍高い(妊婦0.7人/10万人)。母体自体は軽症で、予後は良好であることが多い。症状は非特異的でインフルエンザ様症状を呈することもある。妊婦のリステリアによる中枢神経感染症は稀である。細胞性免疫が落ちる妊娠後期に母体が感染しやすいとされている。一方、胎児への垂直感染は経胎盤的に生じるが、胎児死亡、早産、新生児リステリア症を引き起こすことがあり、高い罹患率と死亡率を伴う。フランスで行われたリステリア症の大規模な前向き研究では、胎児または新生児における重大な合併症が妊娠症例の最大83%で発生していた5)
b)菌血症
侵襲性リステリア症で最も多く、感染性心内膜炎や化膿性関節炎などと同様に神経リステリア症へ進展することがある。非妊婦患者で、L. monocytogenes菌血症を発症した患者のうち、97%に何らかの免疫不全(医学的疾患または免疫抑制剤使用など)がある。菌血症の症状は、発熱や筋肉痛など他の菌による菌血症の症状と同じで非特異的である。下痢や嘔気などの前駆症状を認めることがある。3か月死亡率は45%程度と報告されている。
c)中枢神経感染症
リステリアの中枢神経感染症は、侵襲性リステリア症で菌血症に次いで2番目に多い症状である。L. monocytogenesは、細菌性髄膜炎をきたす他の一般的な細菌(肺炎球菌・髄膜炎菌・インフルエンザ菌)と対照的に、髄膜のみならず脳そのもの(特に脳幹)への指向性がある。そのため、リステリア髄膜炎は13%程度であるのに対して、リステリア髄膜脳炎が84%で生じる。L. monocytogenesは、小脳症状や脳幹症状を伴う脳炎(rhombencephalitis)を引き起こすこともある。中枢神経リステリア症の776例のレビューでは、症例の約3割がリスク因子がなかったと報告されている6)。患者の約90%で発熱症状を呈するが、他の症状の感度は低くく、また42%は受診時に髄膜刺激徴候がなかったとも報告されている6)。また、先に述べたフランスの前向き研究では5)、項部硬直の所見は65%程度に認め、検査の感度は、髄液グラム染色は32%、髄液培養は84%、髄液PCRは63%程度であった。

【診断】
以下のいずれかの臨床状況においては、リステリア症を鑑別疾患の1つとして強く疑う必要がある。

  • 新生児における呼吸困難・敗血症・髄膜炎
  • 次の患者に生じた髄膜炎または脳実質の感染症
  • 血液悪性腫瘍患者、固形腫瘍患者、臓器移植後患者、AIDS患者、免疫抑制療法(がんに対する化学療法、副腎皮質ステロイド、抗TNF阻害薬)を受けている患者
      亜急性経過
      50歳以上の成人
      髄液でGram陽性桿菌が認められる患者
  • 髄膜と脳実質が同時に侵される感染症
  • 皮質下脳膿瘍
  • 妊娠中(特に妊娠第3期)の発熱
  • 食品媒介性の発熱性胃腸炎のアウトブレイクにおいて、通常の培養で病原体を同定できなかった場合
侵襲性リステリア症は、通常は無菌である血液、髄液、羊水、胎盤組織、房水、または硝子体液などの検体の培養からL. monocytogenesを検出することで診断される。先に述べたフランスの前向き研究では5)、周術期リステリア症の診断において、胎盤の培養や胎児の胃液培養の感度が高かったと報告されている。画像検査では、MRIはCTよりも脳実質病変、特に脳幹部の病変を描出するのに優れている。

【治療】
リステリア感染症に対する、第一選択薬や治療期間に関する質の高いエビデンスはない。第一選択薬として、アンピシリンおよびペニシリンGが、単独もしくはアミノグリコシドと併用で使用されている。慣習的にアンピシリンが使用されているが、ペニシリン系抗菌薬が使用できない患者では、代替薬としてST合剤やメロぺネムが使用される。セファロスポリンは使用するべきではないとされている。In vitroで、βラクタム系抗菌薬は L. monocytogenesに対して静菌的であり、アミノグリコシド系抗菌薬を追加すると相乗的に殺菌効果が強化されることが示されている、しかし、動物実験・臨床研究いずれにおいても、アミノグリコシドの有効性に関するデータはまちまちである。またアミノグリコシド系抗菌薬併用によるアウトカムの改善は示されていない。併用によって死亡率が増加した報告もあれば、死亡率の改善を示すものもある。そのため、米国および欧州のリステリア髄膜炎の治療ガイドラインでは、アミノグリコシド併用療法は正式な推奨ではなく、検討することを推奨するにとどまっている。ペニシリン系抗菌薬もST合剤も使用できない場合には、メロぺネムやイミペネムの使用が検討される。ただし、両者ともけいれん発作の閾値を下げ、さらに治療失敗も報告されてる。動物実験ではイミペネムはアンピシリンよりも有効性が劣っていることが報告されている。
侵襲性リステリア症の最適な併用期間は不明である。周産期リステリア感染症や菌血症では、最低2週間が推奨されている。リステリア髄膜炎/ 髄膜脳炎では、最低3週間、脳膿瘍では6~8週間の治療が推奨されている。
細菌性髄膜炎の治療でデキサメタゾンが使用されることがあるが、デキサメタゾンは中枢神経リステリア症の死亡率を増加させる報告があり5)、細菌性髄膜炎の治療開始後にリステリア症と診断された場合は投与を中止する。

【予防】
食品媒介性のリステリア症の予防では、生野菜は調理前や食べる前によく流水で洗うこと、肉類は十分に加熱調理すること、生乳(低温殺菌されていないもの)や生乳を含む食品を食べないこと、が推奨されている。また、キッチンを清潔に保つこと、例えば調理後にはてや調理器具はよく洗うことが大切である。リステリアは低音であるほど繁殖しにくいため、食品を保存する場合には、冷凍庫やチルド室を活用する。
臓器移植患者やHIV/AIDS患者で、ニューモシスチス肺炎の予防薬としてST合剤が使用されている場合があり、この場合には理論上リステリア症も予防されているが、リステリア症の発生率が低すぎるため、予防における有効性を評価することはできない。高リスク群における予防は、上記の対策に加え、さらなる食品の消費と取り扱い方法を実践することによる予防がより重要である(例:惣菜売り場の店頭に並べられている食品は購入しない、など)。

【参考文献】
1) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 9th edition, 206, 2543-2549.e2
2) シュロスバーグの臨床感染症学 第2版, Section 18 微生物各論.142.Listeria.
3) 厚生労働省 リステリアによる食中毒 消費者のみなさまへ
4) Clin Infect Dis. 2016 Dec 1;63(11):1487-1489.
5) Lancet Infect Dis. 2017 May;17(5):510-519.
6) Medicine (Baltimore). 1998 Sep;77(5):313-36.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育