microbiology round

2024.2.29のMicrobiology RoundではStreptococcus pneumoniaeについて学びを深めました。稀な菌ばかりを取り上げていましたが、今回はStreptococcus pneumoniaeという超重要な細菌ですので、ご一読いただければ幸いです。

【歴史/由来/疫学など1)
・1881年にフランスではパスツールが、米国ではスタンバーグが同定した。
・喀痰 グラム染色の形態から、1926年に Diplococcus pneumoniae と命名された。1974年に液体培地中で増殖する際の連鎖状の形態からStreptococcus pneumoniaeと改名された。

【微生物学的特徴1)
・グラム染色では、莢膜を有するグラム陽性双球菌で尖頭型(先が卵型)をしている1) 2)。ムコイド型肺炎球菌の場合、グラム陽性双球菌の周囲にピンク色の被膜が認められる2)
・α溶血(血液寒天培地やチョコレート寒天培地で増殖するときに、二ューモリシン*を産生し、ヘモグロビンを分解して緑色の色素に変える)。
・肺炎球菌のコロニーの特徴は、自己融解によりムコイド型を除いて中央部が陥没した形態をとる2)
・オプトヒンに感受性があるため増殖が抑制される。またコロニーは胆汁に溶解する。その特徴からオプトヒン試験や胆汁溶解試験が利用される。
・肺炎球菌が有する莢膜は好中球の貪食を妨げる。肺炎球菌の少なくとも97の血清型が、莢膜多糖体の抗原性の違いに基づいているので、異なる莢膜多糖は血清型分類によって識別可能。頻繁にヒトの病気を引き起こす血清型は、最も早く同定されて最初に番号がついているので、番号の低い血清型ほど、一般的にヒトへの感染に関与している可能性が高い。ただし血清型分類は、疫学的・公衆衛生的なサーベイランスやワクチンの標的、また病態を理解する上で重要だが、治療のためには重要ではない。
*以前はα-ヘモリシンと呼ばれていた。細胞膜に孔をあける毒素で上皮細胞や内皮細胞に損傷を与え、補体の活性を阻害する。

【臨床的特徴】
・肺炎球菌による感染症は、鼻咽頭への定着(無症候)から中耳炎、副鼻腔炎、肺炎、侵襲性肺炎球菌感染症(無菌部位への感染:菌血症、髄膜炎、膿胸、感染性心内膜炎、化膿性関節炎)まで多岐にわたる1)
<成人の侵襲性肺炎球菌感染症 IPD:Invasive pneumococcal disease3)
・疫学:菌血症に関しては温帯気候で真冬に明確なピークを示している1)
・リスク因子:保菌(定着してから数週間以内に莢膜多糖に対する抗体を作るので、定着してから抗体が出現するまでの期間に発症する可能性が高くなる)、年齢(下記)、人種や民族(黒人やアメリカ先住民>白人)、密集した環境、免疫不全(リンパ腫、多発性骨髄腫、HIVなど)、併存疾患(慢性肺疾患、糖尿病、低栄養、アルコール依存症、肝硬変、慢性腎臓病、脾摘出後、脾機能低下症など)
・感染源:菌血症を伴う肺炎や膿胸(IPDの最も一般的な原因 65〜85%。膿胸は菌血症を伴う肺炎の約5%に生じる)、原因不明の菌血症、髄膜炎、腹膜炎(1. SBP 2. 穿孔後 3.生殖器を介した女性の腹膜炎)、化膿性関節炎(IPD症例の約1.5%で発生する。膝が全症例の半分以上)、感染性心内膜炎、心膜炎、椎体炎など
・予後:成人における肺炎球菌菌血症の致死率は約20~30%。高齢者または併存疾患の存在など、特定の要因を持つ場合は60%に達する可能性がある。

【治療1)
・β-ラクタム系抗菌薬(特にペニシリン)は肺炎球菌による感染症の治療の中心である。

【参考文献】
1) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 2-Volume Set, 9th Edition.
2) 感染症診断に役立つグラム染色 第3版
3) UpToDate Invasive pneumococcal (Streptococcus pneumoniae) infections and bacteremia in adults This topic last updated: Jun 13, 2023.
4) https://janis.mhlw.go.jp/report/open_report/2022/3/1/ken_Open_Report_202200_Outpatient.pdf

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育