microbiology round

2024.2.1のMicrobiology roundではMoraxella catarrhalisについて学びを深めました。

【歴史】
ウィリアム・オスラーにより彼の終末期の肺炎の起炎菌として最初に記載された。その後Micrococcus catarrhalisと命名され、Neisseriaとの類似性からNeisseria catarrhalisに変更され、1970年に分子生物学的な研究からBranhamellaという新たな属に分類され、現在ではMoraxella catarrhalisという命名が定着している。
Moraxella: Victor Moraxにちなんで名付けられた。
catarrhalis:カタルに関する catarrhus 流れ落ちる -alis ~に関する

【微生物学的特徴】
Gram陰性双球菌。好気性、非運動性。血液寒天培地、チョコレート寒天培地、その他様々な培地で発育する。Gram染色でNeisseriaと見分けるのは困難である。培地でのコロニーの性状でもNeisseriaとの判別は困難だが、48時間以上の培養でNeisseriaより大きく、色調がピンク色になる。Hockey puck singを呈する (https://www.youtube.com/watch?v=K5qtMr1NR2w)。

【疫学】
ヒトのみを宿主とする。一般的に幼児期の鼻咽頭に定着している(50-100%、地域差あり)。健康な成人の1-5%の上気道に定着している。冬季での定着が多い (ウィルス性上気道炎と関連しているかもしれない) 。肺炎球菌ワクチンの使用によりM. catarrhalisの定着が増加している。小児の中耳炎 (10-20%)、成人のCOPD増悪 (10-20%)、急性副鼻腔炎 (細菌性は0.5-2%程度であり、その内の5-15%)の起炎菌になる。鼻咽頭への定着は中耳炎と関連している。中耳炎を起こしやすい子供はM. catarrhalisの定着率が高い。

【病因】
M. catarrhalisは10種類以上のアドへシンを発現しており、宿主に対して異なる結合特異性を有している。気道粘膜への生着、侵入により炎症性の免疫反応が惹起され、結果的に宿主の構造が破壊され細菌の増殖が起こる。COPD患者の場合は新規感染が発症の原因となる。中耳炎に関しては、鼻咽頭への定着だけでは発症の原因にはならない。ウィルス感染などを契機に細菌が耳管から中耳に移行し、発症すると考えられている。

【臨床的特徴】
よく見られるのは急性中耳炎、COPDの増悪、細菌性副鼻腔炎である。
中耳炎
およそ80%の小児は3歳までに少なくとも1回は中耳炎を発症する。肺炎球菌、H. influenzae、M. catarrhalisが頻度の高い起炎菌である。中耳の耳汁培養を調べた研究では、5-20%はM. catarrhalisが起炎菌であった。PCR検査を使った研究では30-50%の中耳炎においてM. catarrhalisが検出された。M. catarrhalisは2歳未満の小児において中耳炎の原因となるが、成人ではまれである。肺炎球菌やH. influenzaeと比べて病原性は低いと考えられている。
COPD患者の下気道感染症
COPD患者の肺炎の起炎菌としてH. influenzaeに次いで2番目に多い (およそ10%)。症状は他の微生物による肺炎と同様である。COPD患者のおよそ50%はM. catarrhalisが定着しているが、新種が感染すると増悪の原因となる。秋から春にかけてが多い。
急性細菌性副鼻腔炎
H. influenzae、肺炎球菌に次いで3番目に多い起炎菌である。症状は他の微生物と比べて大きな差はない。
菌血症4)
菌血症となることは稀である。新生児から高齢者まで報告されている。M. catarrhalis菌血症58人のレビューでは、約半分の患者は呼吸器感染症を発症しており(48%)、成人においては心疾患、悪性腫瘍、免疫不全、衰弱などの基礎疾患が関連していた。死亡率は21%であった。

【治療】
ほとんど全ての種でβ-ラクタマーゼを産生し、ペニシリン、アンピシリン、アモキシシリンには耐性である。感受性検査でアンピシリンが感性であっても使用すべきではない。クリンダマイシン、バンコマイシンに対しては耐性がある。
M. catarrhalisによる感染の多くは内服抗菌薬で治療可能である。アモキシシリン/クラブラン酸、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、テトラサクリン、マクロライド、フルオロキノロンはM. catarrhalisに対して感性である。点滴ではピペラシリン、第2-3世代のセファロスポリン、アミノグリコシドが感性である。中国、アジア太平洋地域ではマクロライドやテトラサイクリンへの耐性が出現しており注意を要する。

【参考文献】
1)Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 9th edition
2)Manual of clinical microbiology 11th edition
3)UpToDate®︎ Moraxella catarrhalis infections (2024/01/30access)
4)Ioannidis JP, Worthington M, Griffiths JK, Snydman DR. Spectrum and significance of bacteremia due to Moraxella catarrhalis. Clin Infect Dis. 1995 Aug;21(2):390-7.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育