microbiology round

第35回日本臨床微生物学会総会・学術集会が始まりましたね。チームメンバー達は日常業務に加えて学会準備で忙しそうでしたが、晴れやかな顔で横浜に旅立ちました。それでは、2024.1.25のMicrobiology roundではClostridioides difficileについて学びを深めましたので、ご一読いただけますと幸いです。

【歴史】
・偽膜性腸炎は1893年にヒトで報告された。当初はC. difficileと偽膜性腸炎(pseudomembranous colitis)は関連が分かっていなかった。
・1974年に⽶国セントルイス州で、クリンダマイシンを投与されている患者の21%が下痢を呈し、その内の約半数が偽膜性腸炎であったと報告がなされた。 1977年にC. difficileとその毒素が関連していることが判明した。
Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases. 9th
・2016年に再分類され、新たな属として、Clostridium difficileからClostridioides difficileに改名された。Environ Microbiol. 2013;15(10):2631-2641.

【微生物学】
・偏性嫌気性の芽胞形成性のグラム陽性桿菌。
・周鞭毛を持ち液体培地では運動性を有する。 周囲の環境に応じて、増殖可能な栄養型の細胞と厳しい環境に抵抗性の芽胞に形態を変化させる。 芽胞形成状態では、アルコールに対して強い抵抗性を示す。
・病原性を示すC. difficileはトキシンを産生する。 トキシンAとトキシンB、binary toxinが存在する。
Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases. 9th
・1991-2003年にケベック州(カナダ)におけるCDIの発症率、死亡率が上昇し、その84.1%がbinary toxin産生遺伝子を保有、tcdC遺伝子が部分欠損していた(BI/NAP1/027株と判明)。 tcdC欠損によりtoxinA、Bの過剰産生が生じる。 N Engl J Med. 2006 May 18;354(20):2200
・強毒株であるBI/NAP1/027株(binary/North American pulsed-field type 1[NAP1]/ribotype 027)は徐々に世界的に広がっている。北米で最多。 欧州でも増加傾向。
Nat Genet. 2013;45(1):109-113.
・BI/NAP1/027株はメトロニダゾールで治療した場合、再発が多かったことが報告されている。
Diagn Microbiol Infect Dis. 2018;91(2):105-111.
・日本では027株の分離頻度は低く、単発の症例報告や、まとまった症例数の研究において数例の検出が報告されているのみである。Pubmedや医中誌での検索では日本国内の公式なアウトブレイク報告は認めなかった。日本においては、2005年に海外渡航歴のない潰瘍性大腸炎治療中の30歳女性が発症した偽膜性腸炎の培養から027株が検出されており、これが日本から学術的に最初に報告された027株の臨床症例である。
Euro Surveill. 2007;12(1):E070111.3.
日本においてフィダキソマイシンの有効性を検討した第3相試験では、バンコマイシンに対する非劣性を証明できなかったが、この研究では027株はわずか1株のみだった.
J Infect Chemother. 2018;24(9):744-752.

【C.difficile による腸管感染症】
・C. difficileによる腸管感染症は、医療関連の感染性下痢症を起こす代表的な菌。 C. difficile による感染症のほとんどは腸炎であり、下痢を症状とする他、ときに腹痛や発熱を伴う。
診断: 24時間以内に3回以上の水様便、軟便、または形のない便)の存在とCDトキシンの証明。 もしくは下部消化管内視鏡や大腸病理組織にて偽膜性腸炎を呈するもの。 下痢を認めずにイレウスや中毒性巨大結腸症を来すことがある。 ・CDIの発症には腸管へのC. difficileの侵入が第一段階で、一般的にはCDI患者との接触、医療機関の利用、無症候性キャリアとの接触が主な伝播経路である。 C. difficile は河川、海水、土壌などの環境中にも存在する以外に、愛玩動物や家畜の腸管にも定着が確認されている。 C. difficile は、手指等を介してこれらの環境から経口的に摂取される。 CDIの発症には、トキシン産生株であることが前提で、さらに腸内細菌叢を攪乱するような抗菌薬や医療行為への曝露が関係する。 Clostridioides difficile 感染症診療ガイドライン2022 <CDIのリスク>Clin Infect Dis. 2018;66(7):e1-e48. ・高齢、長期入院、抗菌薬曝露歴、抗がん剤使用歴、経管栄養、胃酸分泌抑制薬(PPI)

【C.difficile による腸管外感染症】
・非常に稀。 菌血症、腹部術後、創部感染が多い。
Clinical Infectious Diseases 2013;57(6):e148-53

【検査】
Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases. 9th
CDトキシン検査
トキシンA/Bを検出 感度 60-89%、特異度 93-99%⇨感度が不十分で偽陰性の可能性
GDH (glutamate dehydrogenase) 検査
全てのCDに発現している酵素を検出 感度 71-100%、特異度 67-99%⇨非毒素産生株も検出してしまう
核酸増幅検査
毒素遺伝子を検出 感度 88-100%、特異度 88-97% ⇨ 毒素遺伝子をもつ株は判別できるが、実際に毒素を産生しているかどうかは判別できない、検査可能な施設に限りがある
toxigenic culture
便検体をCD 選択培地で培養し発育したコロニーに対してCD トキシン検査キットを用いる検査⇨感度は高いが、時間(48時間)と手間がかかる

【治療】
・まずは抗菌薬の中止。
・制酸薬が不必要に使用されていないか確認。
・ガイドラインごとの推奨 (添付画像参照)

【CDIは臭いで分かるのか】
・便は「馬小屋の匂い」「酸味と苦みが混ざった匂い」などと言われる。
・138人の看護師で検討した報告では、感度55%/特異度83%。 看護師の経験の長さはCDIの診断能力の高さに寄与しなかった。
Clin Infect Dis. 2007;44(8):1142.
・イヌで検討した報告もある。 CDIのにおいで訓練した2歳のビーグル犬を300人の患者で検討した。 便検体自体を用いた検討では、感度/特異度ともに100%であった。 病棟のラウンドで患者を発見する感度は83%/特異度98%であったと報告されている。
BMJ. 2012;345:e7396. J Infect. 2014;69(5):456-461.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育