microbiology round

2024.1.18のMicrobiology round では非結核性抗酸菌の一種であるMycobacterium mageritenseについて学びを深めました。Microbiology roundの際には毎回文献レビューを行っていますが、本菌は本当に参考文献の程度の数しか見つかりませんでした。比較的稀な微生物のようですが、当院の微生物検査室では非常に高い信頼性で培養同定していただけます。感染症科の医師としてはこれほど学びの多い職場はないと思います。

【微生物学的特徴】
Mycobacterium mageritense は、1997年にDomenechらによりM. smegmatis group から独立し、新菌種として報告された Runyon の分類 IV 群のRGMの一種である。菌の名前は最初に菌が分離されたスペインのマドリードの古いアラビア語であるマゲリットに由来する。系統発生学的に Mycobacterium smegmatis groupに近縁の菌種である。普段は土壌や水中などの環境中に常在している。

【臨床的特徴】
2002年に最初に成人におけるM. mageritense の症例が報告された。それ以降は稀であるが、主に耳下腺炎、皮下膿瘍、手術部位感染症、などのM. mageritenseによる皮膚軟部組織感染症が報告されている。また、副鼻腔炎、肺炎、カテーテル関連血流感染、植え込み型除細動器関連感染、人工弁心内膜炎、intrathecal catheter関連の髄膜炎などの院内感染を含む症例報告がある。

【治療】
M. mageritense は非結核性抗酸菌(NTM)の治療に通常用いられる抗結核薬やマクロライド系抗菌薬に対し耐性を示すため、正確な菌種同定が必要となる。特にNTM感染症の初期治療で経験的に使用されるマクロライド系抗菌薬に対しては高いMIC値を示す。これは、M. mageritense がマクロライド耐性に関与するerm40遺伝子(誘導エリスロマイシンメチラーゼ遺伝子)を保有していることが理由と考えられている。また、フルオロキノロン系抗菌薬単剤での治療失敗例が報告されている。

【参考文献】
Domenech, P., M.S. Jimenez, M.C. Menendez, et al. 1997. Mycobacterium mageritense sp. nov. Int. J. Syst. Bacteriol. 47: 535-540.
Wallace RJ Jr, Brown-Elliott BA, et al. Clinical and laboratory features of Mycobacterium mageritense. J Clin Microbiol. 2002;40:2930–5.
米谷正太, 鹿住裕子, 他. Mycobacterium mageritense による胃がん術後創部感染の一例. 日本臨床微生物学雑誌 Vol. 23 No. 2 2013.
鈴木まりな, 武藤沙起里, 他. Mycobacterium mageritense による腹膜透析関連腹膜炎の一症例. 医学検査 Vol.71 No.3 (2022) pp. 587–593.
Esteban J et al. Prevalence of erm methylase genes in clinical isolates of non-pigmented, rapidly growing mycobacteria. Clin Microbiol Infect, 2009; 15: 919–923.
Gordon Huth R, Brown-Elliott BA, et, al. Mycobacterium mageritense pulmonary disease in patient with compromised immune system. Emerg Infect Dis 17: 556-558, 2011.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育