microbiology round

2023.12.14のMicrobiology RoundではMycobacterium abscessus complexについて学びを深めました。休日帯に1人で仕事しているときに聞きたくない言葉、個人的No.1は「血液培養から抗酸菌が生えました!」です。感染症科フェロー中にそれなりに経験していますが、未だに自分の知識の整理が終わりません。抗酸菌の世界は本当に奥が深いです。

【歴史と微生物に関して】
語源 Myco:きのこ abscessus:膿瘍を形成する
・Nontuberculous mycobacteria(NTM)は固形培地で発育に7日以上かかるSlowly growing nontuberculous mycobacteriaと7日以内に発育するrapidly growing nontuberculous mycobacteria(RGM)に分類される。RGMとして頻度の多いものとしてMycobacterium abscessus、Mycobacterium fortuitum、Mycobacterium chelonaeが知られている。Mycobacterium abscessusは1952年にNTMの新種として初めて分離されその後何度も命名法が変更されてきた。1972 年にM. chelonae subspecies abscessus と命名されたが1992年にはDNAハイブリダイゼーションにより独立した種として認識された。その後2つの新種のM. massilienseとM. bolletiiが遺伝子配列に基づいてM. abcessusと関連していると報告された。これらの3種はDNSハイブリダイゼーションで近縁種と判明しM. abscessus subsp. massiliense、M. abscessus subsp. bolletii、M. abscessus subsp. abscessusを亜種とし、3亜種がMycobacterium abscessus complexと分類された。RGMは水槽、温水管、プール、内視鏡等の医療機器、海水、ハウスダスト、家畜等から分離されており、容易に暴露しうる。人から人への感染または動物からの直接感染については報告されていない。
臨床症状
・M. abscessus complexは、土壌や水中に存在するNTMの1種であり、呼吸器感染症、皮膚軟部組織感染、カテーテル関連血流感染、播種性感染症、眼感染症をきたす。M. abscessus subsp. abscessusはRGMの中で最も病原性が高く、肺感染症を起こす頻度が最も高い。特に嚢胞性線維症と非嚢胞性線維症関連の気管支拡張症などの患者で見られる。緩徐進行性の経過をたどり、持続的な呼吸器症状、肺機能の低下をきたす。画像所見では細気管支病変、気管支拡張症、小結節、頻度は低いが空洞形成をする。治療後の喀痰の陰転化率はM. abscessus subsp. massilienseでは88%に対してM. abscessus subsp. abscessusでは25%と低かったことが報告されている。M. abscessus complexの皮膚軟部組織感染は深部の軟部組織感染から局所の表層の感染まで多岐にわたる。外傷や汚染物質や水への暴露による直接の感染もしくは播種性感染症による血流からの感染のメカニズムで感染が成立する。美容手術、入れ墨、鍼治療、温泉での暴露後の感染、手術部位感染等が報告されている。皮膚所見としては圧痛のある皮膚結節、紅色丘疹、膿疱等が見られる。HIV感染患者においてMACがNTMの中では中枢感染の主な原因であるがM. abscessus complexはHIV陰性患者の稀な中枢神経感染症の原因微生物として報告されている。特に神経外科手術を受けた患者、頭蓋内カテーテルを挿入されていた患者、耳疾患のある患者で報告されている。M. abscessus complexの菌血症はカテーテル関連のものが最も多いがM. abscessus subsp. massilienseは創傷感染から菌血症をきたしやすいことが報告されている。播種性M. abscessus complex感染症はHIV感染症等の免疫不全患者で発生することが多いとされていたが、HIV陰性患者でも起こりうる。近年、中和型抗INF-γ抗体がHIV陰性の播種性NTM患者の81%に見られることが報告された。M. abscessus complexとM. chelonaeとM. fortuitumによる角膜炎、眼内炎等の眼感染が報告されているが大部分が手術や異物に関連したものである。

【治療に関して】
・治療上の影響から、臨床分離菌であるM. abscessus complexを亜種レベルまで区別することが重要である。M. abscessus subspecies abscessusとM. abscessus subspecies bolletiiはactive inducible macrolide resistance (erm) gene(誘導型のマクロライド耐性遺伝子)を有するがM. abscessus subspecies massilienseは非機能性のerm41遺伝子を持つためマクロライドに感性である。M. abscessus complexでは、in vitro 感受性が臨床転帰と関連している薬剤は、クラリスロマイシン (マクロライド系) とアミカシンの2つだけであり、その他の抗菌薬のin virtoの活性と治療効果との相関は明らかではない。活性型erm遺伝子によるマクロライド耐性の誘導は、長期間(例:14日間以上) のインキュベーションでの感受性試験が必要である。臨床試験はなく専門家の意見やケースシリーズに基づいて行われている。治療は下図に記載、治療期間は肺外感染症では6-12ヶ月が目安とされる。

【M. abscessus complexの感受性に関して】
①Usually “susceptible” アミカシン(90%)、クロファジミン(90%)、セフォキシチン (70%)、チゲサイクリン (ほとんどのMICは1 mcg/mL未満)
②Sometimes “susceptible” イミペネム (50%)、リネゾリド (23%)
③in vitro 活性があると思われる追加使用する可能性のある薬剤 オマダサイクリン、エラバサイクリン、テジゾリド、ベダキリン(※クラリスロマイシン(マクロライド)感受性は、erm遺伝子の存在に依存する。)

●参考文献
1)Up To Date ~Rapidly growing mycobacterial infections: Mycobacteria abscessus, chelonae, and fortuitum~
2)Nature Reviews Microbiology volume 18, pages392–407 (2020)
3)Emerg Infect Dis. 2015 Sep; 21(9): 1638–1646.
4)Am J Ophthalmol Case Rep. 2020 Dec; 20:
5) Clin Infect Dis. 2020 Aug 14;71(4):e1-e36.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育