microbiology round

嫌気性菌っていっぱいいるんです。歯垢をグラム染色するとわかるのですが、謎の嫌気性菌の豊富さに驚きます。これらは分離培養同定が難しく、嫌気性菌たちは決して名前を教えてくれません。2023.12.21のmicrobiologyroundでは嫌気性菌の一つであるDialister pneumosintesについて学びを深めました。

【歴史・微生物学的特徴】
偏性嫌気性、グラム陰性球桿菌、従来の生化学検査で反応が乏しく、しばしば16S r-RNA遺伝子の塩基配列解析が必要になる。
pneuma: 風、呼吸した空気、sintes: spoiler(妨害する人)、泥棒という意味。
Dialister pneumosintes はOlitskyらに1921年に初めて報告され、最初はBacterium pneumosintesと名付けられた。その後Bacteroides pneumosintesを経て1994年にMoore らに現在の名称に変更された。
2023年12月20日時点でD. hominis、D. invisus、D. massiliensis、D. micraerophilus、D. propionicifaciens、D. succinatiphilusを含めて合計7菌種報告されている3)

【臨床的特徴】
D. invisus とD. pneumosintesは口腔内から、D. micraerophilusとD. propionicifaciensは様々の臨床検体から、D. succinatiphilusは糞便から分離される。
D. invisus とD. pneumosintesは歯肉炎や歯周炎、急性歯周膿瘍(acute dental abscesses)の原因となる。これまで菌血症、脳膿瘍、肺膿瘍、UTI、膣炎、ヒト咬傷、嚢胞性線維症患者の人工呼吸器関連肺炎のBAL(気管支肺胞洗浄液)検体で報告されている。2019年に肝膿瘍4)、2022年にLemierre症候群5)、2023年に人工血管感染6)も報告された。
臨床像として最も多いのは皮膚軟部組織感染症。歯の衛生状態不良があると菌血症や脳膿瘍など口腔外感染の原因となる。RAは歯周炎を罹患し易いとされており、Filifactor alocis D. pneumosintesなどいくつかの微生物が歯周炎の進行に関与しているとされる。メキシコからの健常人など60人ずつ集めた研究では、RA患者が歯周炎を罹患した際は、重篤化しやすい可能性が示唆されている7)
フランスの2002年3月から2004年6月にかけて分離されたDialister属74株2)の内訳:
D. pneumosintesが最も多く62.1%を占める。66%は男性で、平均年齢は47歳。52.7%は皮膚軟部組織感染症。菌血症は2株(2.2%)のみで、すべてD. pneumosintesだった。

【治療】
アモキシシリン、アモキシシリン・クラブラン酸、テリスロマイシン、シプロフロキサシンが最も感性が高い。イミペネムとモキシフロキサシンも比較的有効である。
メトロニダゾール、エリスロマイシン、リファンピシン、ピペラシリンでは耐性が多い。

●参考文献
1)Manual of Clinical Microbiology 11TH EDITION
2)ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY, Dec. 2007, p. 4498–4501
3)LPSN - List of Prokaryotic names with Standing in Nomenclature
4)Anaerobe. 2019 Oct:59:35-37.
5)Infect Drug Resist. 2022 May 31:15:2763-2771.
6)BMC Infect Dis. 2023 Sep 19;23(1):617.
7)Microbiol Immunol2019 Sep;63(9):392-395.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育