microbiology round

2023.12.7のmicrobiologyroundは”焼け野原にはステノがやってくる”でお馴染みのStenotrophomonas maltophiliaについて学びを深めました。私個人としてはステノがやってこないように常日頃から各科とコミニケーションをとり抗菌薬の適正使用に努めるのが大事だと考えています。

【概要】
歴史的にPseudomonas属の細菌と考えられてきた。以前はPseudomonas maltophiliaと分類されていたが、1993年に現在のStenotrophomonas属となった。1970年代以前は病原性の低い菌として考えられていたが、近年になって感染症の起因菌として注目されるようになり、分離率は世界的にも増加している。
語源:stenos(狭い) trophos(飼料のひとつ) monas(単位) Maltum(麦芽) philia(好む)
好気性、ブドウ糖非発酵菌でオキシダーゼ陰性グラム陰性桿菌。他のStenotrophomonas属菌と同様に浸潤環境に広く生息するが、S. maltophiliaは唯一ヒトに感染する菌種である。
感染宿主における日和見感染原因菌として知られており、上気道、創部、血液、尿などの臨床検体から分離される。病院環境では水道水、人工呼吸器、透析装置、医療デバイス、精製水、消毒薬、浴槽などに生息している。
S. maltophiliaの病原性因子には、運動性、バイオフィルム形成、鉄獲得機構、外膜成分、タンパク質分泌系、細胞外酵素、抗菌薬耐性機構などがある。

【臨床像】
基本はカテーテル血流感染症と肺炎。心内膜炎、腹膜炎、髄膜炎、 軟部組織感染症、尿路感染症も報告されている。定着菌であることも多く、治療するかどうか慎重に判断する。
<リスク>
集中治療室への長期入院、悪性腫瘍、好中球減少症、人工呼吸器装着、中心静脈カテーテルの使用、手術、広域スペクトルを有する抗菌薬(カルバペネム、第3世代および第4世代セファロスポリン、フルオロキノロン)の投与が挙げられる。S. maltophilia感染症の発生率は上昇していると言われており、悪性腫瘍治療の進歩、医療デバイス使用機会の増加、広域抗菌薬の使用に関連することが指摘されている。
<肺炎>
特に肺は頻繁に感染を起こす部位であり、臨床的に感染が顕在化する前に気道にコロニーが形成されることが多い。免疫不全の患者では、下気道症状が無いのに関わらずコントロール不能の組織壊死と出血を起こし、肺出血がS. maltophiliaによる肺炎の症状となることがある。血液悪性腫瘍患者では、S. maltophilia感染に関連した急速に進行する出血性肺炎が報告されている。

【耐性因子】
S. maltophiliaは、カルバペネムを含むβラクタム系薬、アミノグリコシドおよびフルオロキノロンなどの主要抗菌薬に対する耐性因子の多くが染色体上に存在する。β-ラクタム系薬に対する耐性因子として、L1・L2と呼ばれる2種類のβラクタマーゼが有名である。L1メタロβラクタマーゼはペニシリン、セファロスポリン、カルバペネムを加水分解するが、アズトレオナムは加水分解しない。L2セリンβラクタマーゼはアズトレオナムを加水分解する能力も持つ。さらに、S. maltophiliaは、他の病原細菌と同様に多剤排出ポンプを過剰発現することにより、複数の抗菌薬に耐性を持つ。

【薬剤感受性】
ブレイクポイントが設定されている薬剤が少なく、CLSIでブレイクポイントが設定されているのは6剤のみ(ST合剤、ミノサイクリン、レボフロキサシン、チゲサイクリン、セフィデロコル、セフタジジム、クロラムフェニコール)
ST :世界のどの地域でも概ね90%以上の感受性を示す。
LVFX:各地域で差があるが、8-9割程度で、北米の感受性が少し悪い。
MINO:いずれの地域においても90%台後半の数値を示す。

【治療】
単剤療法と併用療法を比較したデータは相反する結果が存在し、選択バイアス、サンプルサイズの小ささが問題。RCTはなく、最適治療のエビデンスは希薄である。IDSA2023のガイドラインでは中-重症の患者においては併用療法を支持している。
感受性結果判明後の併用両方の意義は明確ではないが、重症例、免疫不全患者では死亡率を改善する可能性がある。

●参考文献
1) Clin Microbiol Rev. 2021 Jun 16;34(3):e0003019. doi: 10.1128/CMR.00030-19. Epub 2021 May 26. PMID: 34043457; PMCID: PMC8262804.
2) Ann Intensive Care. 2023 Jun 6;13(1):47. doi: 10.1186/s13613-023-01144-7. PMID: 37278862; PMCID: PMC10244312.
3) Clin Infect Dis. 2022 Jul 6;74(12):2089-2114. doi: 10.1093/cid/ciab1013. PMID: 34864936.
4) Open Forum Infect Dis. 2019 Mar 15;6(Suppl 1):S34-S46. doi: 10.1093/ofid/ofy293. PMID: 30895213; PMCID: PMC6419908.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育