microbiology round

2023.10.5に行われたMicrobiology Roundは、Bacillus cereusについて取り上げました。食中毒を始め、様々な感染症を起こし度々ニュースで報道される細菌です。血液培養のグラム染色所見、血液培養ボトルの溶血性から、早い段階である程度の見当がつきます。

【名前の由来】
Bacillus:小さな杖、 棒
cereus: 蝋のような、蝋のような色。
https://lpsn.dsmz.de/genus/bacillus

【微生物学的特長】
土壌などの自然界に広く分布する、カタラーゼ陽性、好気性(あるいは通性嫌気性)、有芽胞グラム陽性桿菌。芽胞に対しては消毒液が無効であるため採血時のコンタミネーションの原因となる。さまざまな培地で迅速に発育するためコンタミネーションを起こす。

【グラム染色 培養】
大型で直線的な竹の節状の連鎖を示すグラム陽性桿菌で、主に好気ボトル(嫌気ボトルにも)に発育する。菌体のほぼ中央に楕円形の芽胞を認めるが、菌体の膨隆は認めない。溶血性が強く、血液培養ボトルや血液寒天培地に溶血が認められることが多い。B. cereusは卵黄反応(レチシナーゼ反応)陽性であり、集落周囲の培地が白濁する。血液寒天培地における1日培養菌では芽胞は観察されないが、B. cereusの選択培地であるNGKG寒天培地では芽胞が形成されやすい。

【疫学】
芽胞形成能力により環境中で長期間生存し、極端な温度にも耐えられる。また高濃度のエタノール中でも生存可能である。このような性質のため臨床検体から検出された場合、Contaminationの可能性があるが、人工物が留置されている患者、新生児、免疫抑制患者、静注薬物使用患者の場合、感染の原因となることがあるため判断は慎重に行う必要がある。
臨床検体の汚染率の急激な増加はpseudo epidemicsとして知られている。エタノール溶液の汚染、病院リネンの汚染、血液培養培地の汚染、手袋の汚染、建築物としての病院自体の汚染が関連しているとされる。真の院内アウトブレイクとして、人工呼吸器や透析回路などの汚染された医療機器に関連して感染を起こした報告がある。アルコールベースの手指消毒は、B. cereusの芽胞を除去するためには十分な効果がなく、石鹸と水による手洗により、物理的に芽胞を洗い流す事が有効であると判明している。

【臨床的特長】
食中毒
B.cereusによる食中毒には下痢型と嘔吐型の2つのタイプがあり、下痢型はB. cereusにより汚染された食品内を喫食することで、腸管内で増殖し毒素を産生することで発症する。嘔吐型は食品内で産生された毒素によって発症する。どちらの毒素も摂取後24時間以内に病気を引き起こす。チャーハンはセレウス菌に関連した嘔吐型食中毒の重要な原因となっている。治療は支持療法。
菌血症
真の菌血症は、単一セットの血液培養の両方のボトルから分離された場合、または複数の血液培養から繰り返し分離された場合に存在する可能性がある。血管内カテーテル留置、特に外科的に埋め込まれたカテーテルの存在が真の菌血症と関連する。新生児における菌血症、および侵襲性感染症について多くの報告がある。治療はカテーテル抜去後7-14日間の抗菌薬投与。
中枢神経感染
外傷、脳神経外科手術、CSFシャントによって神経系に侵入する。腰椎穿刺も感染に繋がる可能性がある。
軟部組織、皮膚、筋肉の感染
局所感染;特に熱傷、外傷、術後創部、眼 ・皮膚軟部組織感染、骨感染が、外傷や創部と関連して報告されており、特に交通外傷後 ・C. perfringens に類似した壊死性筋膜炎、ガス壊疽を生じる報告がある。
眼の感染症
眼の外傷、治療用の注射や手術、または血行性播種に起因して、急速に破壊的な眼内炎を引き起こす可能性がある。角膜炎は外傷性角膜擦過傷の状況で発生するが、コンタクトレンズの装着や白内障手術の合併症として発生することもある。

【治療】
Βラクタマーゼを産生し、ペニシリン及びセファロスポリンに対して耐性がある。バンコマイシンが治療の第一選択となる。in vitroで活性を持つ薬剤にはアミノグリコシド、カルバペネム、フルオロキノロンなどがある。クリンダマイシンは耐性株が報告されており感受性検査の結果がでるまでは使用すべきでない。

【参考文献】
1. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 9th edition.
2. UptoDate® Bacillus cereus and other non-anthracis Bacillus species. This topic last updated: Aug 22, 2022.
3. 第2版 感染症診断に役立つグラム染色
4. Am J Clin Pathol. 1970 Apr;53(4):506-15. (PMID:5424451)

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育