microbiology round

久しぶりの開催となった2023.9.28のMicrobiology Roundは、Myroides odoratimimusについて取り上げました。この細菌は、その名前が示す通り、非常に良い香りを持っていますが、同時に美しい花には棘があるように、相手にするとその抗菌薬の耐性に驚かされることがあります。

細菌名:Myroides odoratimimus
Myroides:香水に似ている
odoratus:香水  odoratimimus:odoratus の模倣者(imitator)
Bacteroidota門 Flavobacteriia網 Flavobacteriales目 Flavobacteriaceae科 Myroides属
https://lpsn.dsmz.de/search?word=Myroides

歴史
・もともとMyroides odoratimimusはFlavobacteriumに属していたが、遺伝子解析などにより再分類されていいる。
・Flavobacterium odoratum は1923年に初めて分離され、1996年にMyroides属に再分類され、M. odoratusとM.odoratimimusの2種に分類されている。

微生物学
・Myroides属は偏性好気性グラム陰性桿菌で、MacConkey寒天培地を含むほとんどの培地で生育する。コロニーは黄色で、A. faecalisに似たフルーティーな臭いを発する。菌体は非運動性で、オキシダーゼ、カタラーゼ、ウレアーゼ、ゼラチナーゼ陽性である。
・VITEK 2 はMyroides属 まで同定でき、MALDI-TOFではM. odoratus と M. odoratimimus まで区別できる。
→検査室の検査設備の進歩により、報告が増えてきている。

臨床像
・Myroides属は土壌や水中に存在し、多くの場合は病原性があるとはみなされない。
・糖尿病、慢性閉塞性肺疾患、肝硬変、腎不全、長期ステロイド投与を受けている患者などの免疫不全患者において起炎菌となることがある。まれに正常免疫者でも起炎菌となることがある。
・尿路感染症、心内膜炎、脳室炎、皮膚軟部組織感染症、肺炎、菌血症、敗血症性ショックなどを引き起こすことが知られている。
・M. odoratimimusは散発的な症例に加え、院内感染の起炎菌として増加しておりICUで分離される報告が多い。
・2020-2022年にイスタンブールの2700床(うち500床がICU)の病院では、228人の437の培養検体から分離された。214人(93.9%)はM. orodatimimusで、14人(6.1%)がM. odoratusであった。尿からの分離が最も多かった。
・Myroidesによる感染症は、長期間入院、広域抗菌薬の使用、留置カテーテル、侵襲的/外科的処置、糖尿病や慢性腎不全を有する患者でより多く見られる傾向にあった。

治療
カルバペネムを含むβ-ラクタム系抗菌薬に広く耐性を示し、アミノグリコシド系抗菌薬、キノロン系抗菌薬、スルファメトキサゾールに対する感受性は様々である。 in vitro感受性試験の結果に基づいて、キノロン系抗菌薬、カルバペネム系抗菌薬、トリメトプリム-スルファメトキサゾール系抗菌薬による治療の成功例が報告されている。
・Myroides属の抗菌薬耐性機序は明確には分かっていないが、TUS-1 ( M. odoratus ) やMUS-1 ( M. odoratimus ) のような染色体上にコードされるメタロ-β-ラクタマーゼの存在が知られている。tetX(テトラサイクリン耐性)、cat(クロラムフェニコール耐性)、bla-OXA-347、bla-OXA-209(β-ラクタム耐性)領域が染色体上に存在しており、抗菌薬耐性に関与していると考えられている。また、バイオフィルム形成や排出ポンプによる薬剤の排出など複数のメカニズムで耐性を形成すると推定されている。
・M.odoratus はM.odoratimimusよりも耐性傾向があったという報告がある。

文献
1. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases. 9th
2. A. Gülmez, A.N. Ceylan and O. Özalp An increasing threat in intensive care units: evaluation of multi-drug-resistant Myroides spp. infections and risk factors: Journal of Hospital Infection, 2023-07-01, Volume 137, Pages 8-16
https://www.clinicalkey.jp/#!/content/journal/1-s2.0-S0195670123001238

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育