microbiology round

2023.8.31のMicrobiology RoundはStreptococcus salivariusについて取り上げました。微生物の名前は、人の名前だったり、動物の名前だったり、何かが由来していることが多いです。今回のStreptococcus salivariusのsalivaは唾液を意味し、口腔内の微生物というのが連想できます。以下まとめです。

【由来】
・細菌名:Streptococcus salivarius
・分類:Bacillota門、Bacilli網、Lactobacillales目、Streptococcaceae科、Streptococcus属
・菌名由来:唾液に関連する連鎖球菌
 Streptococcus→strepto=連鎖状 coccus=球菌 salivarius→唾液に関連する
・Streptococcus salivariusはAndrewes and Horderによって1906年に報告された。

【微生物学的特徴1)
・S. salivarius groupに属する連鎖球菌は、S. salivarius subsp. salivarius、S. salivarius subsp themophilus(乳製品からのみ分離され、臨床検体からほとんど分離されない)、S. salivarius subsp. vestibularis である。
・S. salivarius subsp. vestibularisはα溶血を示し、スクロース含有培地上で多糖粘液を産生しない点がS. salivarius subsp. salivariusと異なる。
・血液寒天培地ではコロニーは小さく、白色、α溶血またはγ溶血(非溶血)、カタラーゼ陰性である。大きな粘液状または硬いコロニーを形成する。

【臨床的特徴2)
・S. salivariusはヒトの口腔内細菌叢に存在しており、口腔内や血液から分離される1)。
・ただし報告されている菌血症のシリーズでは、S. salivariusの血液培養分離株の77-100%が汚染菌とされており、S. salivariusが血液から分離されることはほとんどない(Streptococcus viridansの血液培養分離株の約5-15%)。
・S. salivariusの感染源として中枢神経系(髄膜炎など)、眼、骨、腹部(膵膿瘍)、感染性心内膜炎、好中球減少患者における敗血症が、過去20年間に報告されている。
・S. salivarius菌血症をまとめたスペイン16年間の後ろ向き研究によれば、血液培養から分離されたS. salivarius(17/52 32%)が真の菌血症で、ほとんどの患者は基礎疾患を有しており、悪性腫瘍が最も多かった(9/17 53%)。悪性腫瘍の患者9人のうち6人は、重篤な粘膜炎を伴う好中球減少症を有していた。また感染性心内膜炎は3/17 18%で認めた。
・非β溶血性連鎖球菌による感染性心内膜炎201例のうち、anginosus群18例、bovis群19例、mitis群140例,mutans群17例、salivarius群7例であった3)

【薬剤感受性】
Viridans streptococci(S. salivarius groupを含む)が無菌検体(髄液、血液など)から分離される場合、MIC法を用いてPCG感受性を測定する。微量液体希釈法による検査では、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、エリスロマイシン、リネゾリド、テトラサイクリンでtrailing growthが見られることがあり、この場合にはtrailing growthが始まる最低濃度でMICを読み取る。

【感染性心内膜炎の治療4)5)
※これは文献4)AHA2015のガイドラインと文献5)踏まえた個人的見解です。特に文献5)ESC2023ではゲンタマイシンの位置づけが一段階格下げになった印象を受けます。ガイドライン上も幅がある状況なので、実際の患者さんの状況に合わせて最適な治療を決定します。
・自然弁NVEの場合
1. MIC≦0.12 μg/ml   PCG1200-1800万単位/日を4週間
2. MIC 0.12< ≦0.5  CG1200-1800万単位/日を4週間+GM3mg/kg/日を2週間
3. MIC>0.5       PCG2400万単位/日を4週間+GM3mg/kg/日を2-4週間 もしくはVCM
・人工弁PVEの場合
1. MIC≦0.12 μg/ml   PCG2400万単位/日を6週間(+GM3mg/kg/日を0-2週間)
2. MIC>0.12      PCG2400万単位/日を6週間+GM3mg/kg/日を2-6週間

【参考文献】
1)Manual of Clinical Microbiology, Eleventh Edition
2)Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2005 Apr;24(4):250-5.
3)Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2016 Feb;35(2):215-8.
4)Circulation. 2015;132:1435-1486.
5)Eur Heart J . 2023 Aug 25;ehad193.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育