microbiology round
2023.8.17のMicrobiology roundではSalmonella (non-typhoidal)について学びました。今回は確認培地を用いて、生化学的性状についても学びました。感染症検査部の皆様には当たり前の知識なのですが、丁寧に教えて頂き、いつも学びと驚きの連続です。
【歴史】1884年にアメリカの病理学者 Salmonによりブタの腸から分離され、 Salmonの名にちなみSalmonellaと名付けられた。
【微生物学的な特徴】腸内細菌科、グラム陰性、非芽胞形成、通性嫌気性桿菌。大きさは0.4-0.6μmであり S. Gallinarum-Pullorum以外はすべて運動性をもつ。大きく2つの種類に分けられ、Salmonella enterica(内6つの亜種 ;I:S. enterica subsp. enterica Ⅱ:S. enterica subsp. salamae, Ⅲa:S. enterica subsp. arizonae, Ⅲb:S. enterica subsp. diarizonae, Ⅳ:S. enterica subsp. houtenae, Ⅵ:S. enterica subsp. indica)とSalmonella bongoriがある。この7つはさらに2500以上の血清型(serovars)に分けられている。亜種Ⅰはヒトや恒温動物に分離され、亜種Ⅱ/Ⅲa/Ⅲb/Ⅳ/Ⅵは変温動物や環境中から分離される。US. National Salmonella Surveillance Systemでは亜種Ⅰ以外はわずか1-2%しか報告されていない。また表面抗原(O抗原、H抗原、Vi抗原)によって血清型が決定され、病原性と強い相関がある。Salmonella serotype Typhiが腸チフスの原因となり、Salmonella serotype Enteritidisが鶏や卵の感染と関連する。近年フルオロキノロンに対する耐性が増加している。
【臨床的特徴】Salmonellaの中でtyphoidalとnontyphoidalに特徴が分かれる。Nontyphoidal Salmonella(NTS)は胃腸炎、菌血症、血管感染症、腸管外感染をおこす。国際的にS. Typhimurium(43.5%)とS. Enteritidis(17.1%)は最も多い血清型とされる。※厚生労働省の発表している令和4年食中毒統計資料によれば、報告されている細菌性食中毒の内で、頻度の多い順に①ウェルシュ菌②カンピロバクター・ジェジュニ/コリ③サルモネラ属菌とされている。腸炎ビブリオは報告されていない。汚染された食品・水の摂取から6-48時間で嘔気/嘔吐/下痢を発症し、NTSはほかの食中毒と区別することは困難である。非血性、中等量の下痢が多く、頭痛/筋肉痛など全身症状を認めたり、偽虫垂炎、稀に中毒性巨大結腸症を引き起こす。NTSによる胃腸炎は通常自然寛解し、下痢は3-7日、発熱は72時間以内に改善する。治癒後、便中NTSの保菌期間は成人平均4-5週間、小児7週間とされ、抗菌薬治療を行うとさらに長くなる。NTS胃腸炎の最大8%が菌血症になり、血清型ではCholeraesuis, Dublin, Enteritidis, Heidelberg, Poona, Schwarzengrundが多く、ほかに乳児/高齢者/免疫不全など併存疾患が多い。サハラ以南のアフリカではNTSが菌血症の最も一般的な原因のひとつで、菌血症は成人のHIV感染、小児のマラリアとHIV同時感染、鎌状赤血球症、低栄養と関連している。NTSの心血管感染症は持続菌血症(特に既知の弁膜症、アテローム性血管障害、人工血管、大動脈瘤)で疑う。
再発性NTS菌血症はAIDS指標疾患であり、稀な腸管外感染症としては感染性心内膜炎、髄膜炎、骨髄炎、関節炎、腎盂腎炎などがある。
【予防】NTSは食用動物製品(卵、鶏、加熱不十分なひき肉・乳製品)、動物排泄物で汚染された生鮮食品、動物や周囲環境との接触、汚染された水など様々な経路でヒトに感染する。特に卵に関しては鶏の卵巣/卵管に感染が成立し、殻が完全に形成される間に卵白と卵黄に感染する。液体の卵をすべて固体まで加熱すると死滅するが、実際販売されているのは低温殺菌卵が一般的に多い。近年は生鮮食品(果物、野菜)に関連した感染が多くなっており、ヒトや動物の糞によって汚染された野菜などの表面は、洗うだけでは完全に除去できない可能性がある。また食品添加物としてピーナッツバターなどピーナッツ製品にも存在する。ペットではカメ、イグアナ、トカゲ、ヘビなど爬虫類、カエルなど両生類が関連する。
胃酸pHを上昇させる制酸剤(PPI、H2ブロッカー)によって、Salmonellaは胃内で生存できるようになり、小腸へ通過するためリスクとなりうる。
【治療】合併症のない胃腸炎には抗菌薬を使用しない(治療を行うことで治療後1ヶ月の便培養陽性率が上昇し、薬剤副作用が増加する。)
Salmonella胃腸炎は5%未満で菌血症を発症し、生後3ヶ月未満の新生児、アテローム性動脈硬化症がある50歳以上、免疫抑制、弁膜症や血管異常の背景患者など特定のリスクの高い患者に経験的な治療を行うことは有益とされる。
菌血症が判明している場合、経験的治療は感受性判明まで第3世代セファロスポリンとフルオロキノロンを含める。High-grade bacteremia(3セット以上の血液培養で50%以上が陽性)の場合は、心エコーなどで心血管の異常を評価する。血管感染症が関与していない場合は7-14日間のセフトリアキソンやアンピシリン、フルオロキノロンで治療を行う。心血管感染が判明すれば6週間治療と治療期間を延長し、感染性動脈瘤などが判明すれば早期に外科的手術を行う。
参考文献
1)Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases Ninth Edition
2)Manual of Clinical Microbiology 11TH EDITION
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育