microbiology round

メタリックに輝き、線香のような香りを漂わせる、いぶし銀の漢、それはPseudomonas aeruginosaです。ベテランの検査技師の方々は臭いで菌種を推定します。ハンパないです。僕はあのメロンソーダの香りのする細菌にもう一度会いたいと願っていますが、菌名を忘れてしまいました。前置きが長くなりましたが、2023.8.24のMicrobiology RoundはPseudomonas aeruginosaについて取り上げました。

【歴史と微生物に関して】
・シュードモナドータ門ガンマプロテオバクテリア網シュードモナス目シュードモナス科
・Pseudomonas属は好気性グラム陰性桿菌であり、現在LPSNでは316種が記載。
・pseudo→偽、monas→単細胞生物、aeruginosa→緑色を意味している。
・緑がかった青色のラフなコロニーを形成し、線香のような甘い香りが特徴的である。
・嚢胞性線維症や慢性の感染症の患者から分離されたものはムコイド型のことが多く、環境からの分離や院内感染をおこす分離株は通常非ムコイド型である。

【臨床症状】
・主に医療関連感染症をきたすことが多く、①肺炎、②カテーテル関連血流感染症、③骨関節感染症、④耳感染症、⑤眼感染症、⑥尿路感染症、⑦中枢神経感染症⑧消化器系感染症等が報告されている。
①院内肺炎:緑膿菌は、院内肺炎に関与する最も一般的なグラム陰性菌である。緑膿菌による院内肺炎症例の大部分は遅発性でMRSAと同様、入院5日目以降に発生する。
人工呼吸器関連肺炎:黄色ブドウ球菌に次いで2番目に多いVAPの原因微生物である。緑膿菌の定着がVAPの前提条件である。内因性定着→中咽頭および胃に定着し、その後吸引される。外因性定着→微生物が医療従事者を介して定着する。緑膿菌のVAPに対する治療は再発率が上がるため長期に行う必要がある。
②米国のデータベースでグラム陰性桿菌菌血症のCRBSIの8%を占める。特にICUのセッティングでは最も菌血症の原因微生物として多かったという研究もある。緑膿菌の菌血症では壊疽性膿瘡という血性壊死を伴う動脈および静脈の中膜および外膜への血管周囲の細菌の侵入によって生じる特徴的な皮膚病変が見られることがある。(下図)
③骨、関節の感染症は違法薬物使用者の間で頻繁に見られる。胸鎖関節、恥骨結合の敗血症性関節炎、椎体炎、頭蓋底骨髄炎、穿刺傷に関連する骨髄炎が特徴的である。緑膿菌骨髄炎は、黄色ブドウ球菌による骨髄炎と比較して再発リスクが2倍高く切断率も高い。汚染されたスニーカーから緑膿菌の皮膚軟部組織感染症をきたすことが典型的である。骨髄炎ではデブリドマンと6週間以上の抗菌薬治療が必要である。
④単純性外耳炎、悪性外耳炎、中耳炎、軟骨炎をきたす。悪性外耳炎は、症例の95%以上が緑膿菌によって引き起こされる。外耳道の軟骨に発生し、頭蓋骨の骨髄炎をきたす。脳神経に波及し神経障害を起こすが解剖学的に顔面神経麻痺がもっとも多い。舌咽神経、迷走神経、副神経は頸静脈孔で障害を受ける可能性があり、舌下神経は舌下管から出るときに障害を受ける可能性がある。
⑤角膜炎:長時間装用タイプのコンタクトレンズは、レンズ溶液の汚染や水道水の使用が原因で、緑膿菌角膜炎の主なリスクである。軽症例は局所抗菌薬治療が可能である。
 眼内炎:菌血症による内因性眼内炎はまれで、全症例の2%~6%に発生するが、通常は他の感染巣も存在する。白内障術後1-14日に緑膿菌眼内炎は発生することが多い。
⑥緑膿菌は院内の尿路感染、特にCAUTIに関与する主要な病原体である。緑膿菌の尿路感染は市中感染では、前立腺炎、尿路閉塞、泌尿器科的処置、神経因性膀胱がない限り稀である。
⑦緑膿菌の中枢神経感染症は稀である。ほとんどが基礎疾患や直近の外傷、脳外科手術、火傷の既往がある。最低21日間の治療が必要である。
⑧ERCP後胆管炎:緑膿菌胆管炎、菌血症の報告があり内視鏡の洗浄や洗浄水の汚染が原因であるとされている。
盲腸炎:盲腸炎は好中球減少患者で好中球減少性腸炎として見られ、同時に緑膿菌が血液培養から検出されることがある。

【治療に関して】
治療の原則
・ソースコントロールは重要で、感染したカテーテルやその他の埋め込み型デバイスを除去し、膿瘍のドレナージ、閉塞を取り除く必要がある。
・ピペラシリン-タゾバクタム、セフタジジム、セフォペラゾン、セフェピム、アズトレオナム、シプロフロキサシン、メロペネムの中から選択可能なものを選ぶ。
・レボフロキサシンは、緑膿菌による感染症に対してシプロフロキサシンよりも効果が劣り、イミペネムは治療中に耐性を誘発する傾向があり、メロぺネムの方が好まれる。
・アミノグリコシド系(トブラマイシン、ゲンタマイシン、アミカシン)は緑膿菌に対して活性があるが、臨床効果が不十分であるため、一般に単剤では使用しない。
・併用療法は、多くの臨床医が経験的治療に用いており、通常感受性の結果が得られた時点で中止される。
・緑膿菌感染症の治療において、併用療法が生存転帰の改善をもたらすという厳密なエビデンスはない。
・IEでは2剤併用療法が推奨され、腎毒性がない限り1剤はアミノグリコシドが含まれるべきである。
・IEは稀であるため併用療法と単剤療法を比較したデータはないが、症例報告では併用療法が使用されている。
・左心系のIEは早期の弁置換が予後改善と関連している。

多剤耐性緑膿菌
・シプロフロキサシンのMIC≧4μg/mL、イミペネムのMIC≧16μg/mL、アミカシンのMIC≧32μg/mLの3条件を満たした際に多剤耐性緑膿菌と定義され、感染症法で5類定点把握疾患とされる。
・固有の耐性機序(βラクタマーゼの過剰産生、DNAジャイレースやトポイソメラーゼ等の標的蛋白の変異、D2ポーリンの減少等の細胞外膜の抗菌薬透過性の低下、薬剤排泄ポンプの機能亢進、バイオフィルム産生の増加)と獲得性の耐性機序(メタロβラクタマーゼ産生、アミノグリコシドアセチル化酵素)により容易に耐性をきたす。

【参考文献】
1)Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, Ninth Edition
2)Crit Care Med. 2006;34(10):2588.
3)Int J Infect Dis. 2006;10(4):320.
4)Up to date Principles of antimicrobial therapy of Pseudomonas aeruginosa infections
5)IDWR(感染症発生動向調査週報)ホームページ IDWR 2002年第17号掲載
6)人体の正常構造と機能 日本維持新報社
7) Netter's Neurology, Third Edition

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育