KIND(亀田感染症セミナー)2023 質疑応答(尿路感染症)

KINDセミナー2023.6.18で頂いたアンケートの質問の回答です。

尿路感染症Q&A

Q1. 先日経験した症例なのですが、発熱患者で胸部聴診上水泡音聴取でき、痰の絡む咳が出ていた(診察時は収まっていた)とのことから肺炎が最も疑わしく思い、尿検査を出すのを忘れてしまったのですが、上級医からは特にそのことは咎められず、諸々の検査結果で明らかな感染源は特定できずにご帰宅となりました。 尿検査・尿培養検査は発熱ある患者には全例やるべきなのかご教授いただけると幸いです。 宜しくお願いします。
A1. まずお伝えしたいのは、感染源(感染巣)は検査で見つけるものではありません。症状、病歴、診察所見で感染の起こっている部位を決めてゆきます。微生物学的検査は感染巣から採取することが原則で、感染巣でないところの検体は提出しても有用な情報は得られません。血液培養は感染巣に関わらず提出します。微生物学的検査は感染症に確定診断をもたらす検査ですが、常在菌あるいは定着菌が存在する検体では検出された微生物がすなわち原因微生物であるとは限りません。不要な検体を提出し、常在菌・定着菌を検出したことでこれを誤って原因微生物であると判断すると診断を誤ってしまう可能性があります。したがって、検出された菌が原因微生物である、という確信が持てるだけの背景の情報が重要となります。症状、病歴、身体所見などから感染巣の検査前確率を推定しその確率が高い状態で想定される微生物が検出された時に確定診断をつけることができます。様々な部位の検体を提出して菌が見つかったところが感染巣である、と判断するのは最も危険な誤った判断を導く方法だと思います。
ご提示された症例では、発熱のほかに咳嗽、喀痰があり、聴診上cracklesを聴取したとのことから肺炎の事前確率が高いと考えられるので、微生物学的検査として喀痰のみを提出したということは良いと思います。喀痰の微生物検査から想定される微生物が見つからなかったときは、どうして見つからなかったのかを考えることが重要です。病歴と身体診察から肺炎を想定したのが間違っていたのか、実は他の感染巣があったのを見逃していたのか、肺炎があったが、微生物検査を提出する前に抗菌薬が使用されていなかったか、通常の検査で検出できない微生物が原因であった可能性はどうか、など、考えられることはいろいろあると思います。これを繰り返すことで感染症診療に必要な情報収集、診察の仕方、検査結果の解釈などが上手になり、感染症診療の腕が上がってゆくのだと思います。
微生物検査は感染巣と疑ったところから採取・提出することが原則で、すべての症例に喀痰、尿、便、咽頭ぬぐい、などあらゆる検体を提出する必要はありませんし、すべきではありません。詳細な病歴聴取、身体診察により感染巣を想定することが重要です。今回の症例ではシナリオとしては腎盂腎炎が最初に起こり、体調が悪化した結果、誤嚥性肺炎に至った可能性があります。そのような場合は抗菌薬が投与された後では、尿定性沈渣、尿培養の結果が誤って陰性になる可能性があります。なぜ熱が出ているのか?どのような経過を経て現在の状況に至っているのか、最も考えられるシナリオはどのようなものか、を考えることが最も重要です。具体的な感染巣やシナリオが想定できない時は、一般的な採血と血液培養、尿定性・沈渣と尿培養を行い、胸部X線検査と喀痰培養も行うことが“Fever work up”としては許容されると考えられます。

Q2. S. aureusがUTIとなるのは稀とのことでしたが、CNSも同様でしょうか?
A2. Staphylococcus saprophyticusというCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)は、尿路の上皮細胞に接着する能力を持っており、尿路感染症の原因となります。一方で、S. aureusや他のCNSは尿路感染症の原因となることはまれです。
Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 72, 962-989.e4

Q3. Serratia marcescensによる腎盂腎炎もしくは前立腺炎の治療期間と抗菌薬選択について(AmpC過剰産生の可能性を考える?)
A3. Serratia marcescensは染色体上にampCの遺伝子を持ち体勢が誘導されることがありますが、治療中にAmpC過剰産生の状態になるリスクは低く、感性と判断された抗菌薬での治療がASTの観点から推奨されます。第3世代セフェム系抗菌薬が感性であればこれを用います。治療中耐性が誘導されるかどうかは治療経過で判断します。改善が見られない場合は再度培養を提出して第4世代(CFPM)に変更しますが、当科ではそのような例はほとんど経験しません。治療期間は腎盂腎炎では2週間、前立腺炎では3週間を想定します。腹部エコーなどで前立腺膿瘍の形成がないことを確認しつつ、臨床経過が良ければ想定した治療期間で終了します。

https://www.idsociety.org/practice-guideline/amr-guidance/

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育