KIND(亀田感染症セミナー)2023 質疑応答(感染症診療の大原則)

KINDセミナー2023.6.18で頂いたアンケートの質問の回答です。僕らの感染症診療に対するパッションが伝わればと思います。

感染症診療の大原則Q&A

Q1. CRPの遅れてくる上昇と、抗菌薬見直しの時期(2〜3日目)が被っている場合はあるでしょうか。CRPが高値、という理由で抗菌薬がエスカレーションされてしまうことが多々あります。薬剤師のため、あまり診断の部分には踏み込めず対応に苦慮しています。
A. 前提として、「抗菌薬見直しの時期」という考え方自体が、感染症診療の原則に則った診療とは異なります。
「起炎菌がわからないからとりあえずなんか抗菌薬を始めてみて、2-3日経って、CRPが下がってたらそのまま、下がってなかったら抗菌薬を”見直し”手別の抗菌薬に変える」ということだと思いますが、感染症診療の原則にそうとそうういう診療の仕方はしなくてすみます。
起炎菌を予測してそれをカバーした抗菌薬の投与を開始しているので、「2-3日」経ったら、全例抗菌薬を”見直す”という作業はしません。つぎにみなおすのは、微生物検査の結果が出て、感受性検査の結果が出たときです。そのときに初期治療で投与を開始した抗菌薬よりも狭域の抗菌薬が使用できればそちらに変更します。
基本的には起炎菌に関する情報がない段階で、盲目的に抗菌薬を”見直す”という作業はしません。CRPは半日から1日遅れて上昇、下降しますが、そもそもCRPを目安に抗菌薬を投与開始したりやめたりしないので、この質問は成り立たないことになります。CRPを見ないで患者さんを見て、起炎菌を予測して抗菌薬を選択し、培養/感受性検査の結果で抗菌薬を変更する治療ができるようになると良いと思います。

Q2. 御講演、ありがとうございました。 当院でも、発熱=感染、CRP=感染と判断され、抗菌薬が投与開始指示があり、なかなか、難渋しております。先生の説明を参考にもっと先生方にアプローチして不要な抗菌薬の使用をなくしていきたいと思います。
A. ありがとうございます。抗菌薬の適正使用が進むと良いですね。

Q3. 貴重なお時間ありがとうございました。 これから感染症の勉強をしていく中での指標ができたと思います。 質問ですが、当直中に発熱患者に対して血液培養をとる指標のようなものがあればご教授していただきたいです。 というのも、研修医向けの参考書だと菌血症疑ったら培養をとりなさいというような物が多い中、救急当直中に検査を出す際に上級医に相談すると「(この患者さんは)若いし、バイタルも安定してるし、体温も37.8℃くらいなら菌血症疑わなくても良いんじゃないか」と言われたことがありました。年齢やqSOFAである程度篩いにかけて検査前確率が低いなら侵襲度の高い検査はするべきではないのか、それとも少しでも可能性があるなら培養を取ったほうがいいのかご教授いただけると幸いです。 宜しくお願い致します
A. 当直時や救急外来時には、入院中にずっと経過観察をしていたわけではないので、患者さんの状態を隅々まで完全に把握するのは難しい状況です。そのような状況においては自分の把握していない感染症や、予測できなかった自体が起こっている可能性があります。したがって血液培養を2セット取っておくことをおすすめします。発熱のたびに血液培養を採取する習慣がついてくると、「ああ、血液培養を取っておいてよかった」と思う症例にかならず当たるようになります。あと、感染性心内膜炎がこんなにも多い疾患だったのか、ということに気づくと思います。当院では毎週のように感染性心内膜炎患者が見つかります。
もう一つ、血液培養は決して侵襲度の高い検査ではありません。末梢血の静脈穿刺をするだけなので、日々の採血と同じ侵襲度です。血液培養の侵襲度を考えて検査を控えるなら日々の採血も控えるべき検査になってしまいます。
若いこと、バイタルが安定していること、体温が37.8℃であることはいずれも菌血症を否定する要件にはなりません。若い患者の菌血症、バイタルの安定している菌血症、37.8℃の菌血症はたくさん経験します。また、黄色ブドウ球菌の菌血症においては若くて明らかな感染巣が見当たらないときは感染性心内膜炎のリスクが高いと評価されます。発熱については熱のピークと血液培養陽性率の高さは関連しないことがわかっています。また敗血症においては38℃以上の症例よりも36℃以下の症例のほうが予後が悪いことが知られており、体温で評価はできないことが知られています。

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育