microbiology round

2023.8.10のMicrobiology roundではHaemophilus influenzaeは胆道系感染症を起こすのかという臨床疑問から本菌について取り上げました。

【歴史】
1892年にドイツのコッホ研究所の R. Pfeiffer と北⾥柴三郎がインフルエンザ(ウイルス)罹患患者の⿐咽頭から小型の桿菌を発⾒し、インフルエンザの原因微生物として発表した。のちに血液成分が発育に必要なため、Haemo(血液) + philic(好む)からHaemophilus influenzae と名付けられた。

【微生物学特長 グラム染色 培養】

  • 通性嫌気性グラム陰性桿菌。通常ヒトの呼吸器系に定着・感染する。ヒトが唯一の宿主。飛沫・接触感染。
  • Haemophilus 属は、通性嫌気性のグラム陰性の小さな短稈菌で、多形性を示し、百日咳菌(Bordetella pertussis) やパスツレラ属菌とも類似した染色形態を示すが、培養の発育条件により鑑別できる。
  • 莢膜があり分類可能なもの (莢膜表面の多糖類によりa~fの血清型に分類される。血清型bが最も病原性あり)、莢膜がなく分類不可能なもの (遺伝的に多様であり病原性はそれぞれ異なっている) に分けられる。
  • H.influenzae は発育にX因子(hemin)とV因子(NAD:nicotinamide adenine dinucleotide)を必要とし、ヒツジ血液寒天培地には発育しないが、ウマおよびウサギ血液寒天培地には微小な集落を形成する。ウマまたはウサギ赤血球中のV因子破壊酵素は、他の動物(ヒツジ)に比べて著しく少ない。ヒツジ赤血球を用いたチョコレート寒天培地作成時の加熱程度で、V因子破壊酵素は熱変性を起こし失活するが、V因子は破壊されないため、培地中に残存する。したがってチョコレート寒天培地において、35~37°Cの24時間培養で1~2mmの灰白色の集落を形成することが可能になる。
  • BLNAR(β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性)の集落は、感受性株の集落よりも小さい傾向にある。
  • ヒツジ血液寒天培地上に溶血性の Staphylococcus aureusが同時に発育していると、溶血を示したゾーンにおいて S.aureusが産生したV因子を利用し、Haemophilus 属の発育が促進し、その集落が大きくなる衛星現象が認められる。

【臨床的特長】
▼血清型bのH.influenzae (Hib)
6歳児未満の小児の髄膜炎、喉頭蓋炎などの侵襲性感染症。肺炎、膿胸、蜂窩織炎、菌血症、化膿性関節炎。
ワクチンを使用している国ではHibによる感染症はほとんど見ない。
▼分類不能型のH.influenzae (NTHi)
小児の急性中耳炎 (25-30%で原因菌)。COPD増悪。高齢者の市中肺炎。副鼻腔炎。まれに菌血症、髄膜炎など侵襲性感染症。Hibが減少している一方、NTHiの報告は増えている。
▼H. influenzaeの胆嚢炎
いくつかの症例報告がある。Hib、NTHi両方で報告されている。

【耐性の機序】
①β-ラクタマーゼ産生 (TEM-1と ROB-1のいずれか)
②fts-1遺伝子の変異(ペニシリン結合蛋白3の変化によりアンピシリン・アモキシシリンに耐性となる。アメリカでは稀だが日本で多い)
β-Lactamase Producing Ampicillin Resistant (BLPAR) ① AMPC/CVA ABPC/SBTで治療可能
β-lactamase negative and ampicillin resistant (BLNAR)  ② AMPC/CVA ABPC/SBTに耐性。
β-Lactamase Producing Amoxicillin/Clavulanate Resistant (BLPACR) ①+②両方の耐性機序を持つ。

【治療】

  • 軽症 (中耳炎、副鼻腔炎、COPD増悪) ではアモキシシリン・クラブラン酸、感受性あればアモキシシリン。
  • βラクタムアレルギーがある場合、シプロフロキサシン(モキシフロキサシン、レボフロキサシン)
  • マクロライドはβラクタム、キノロンよりもin vitroで感受性が劣る。
  • 侵襲性感染症 (髄膜炎、喉頭蓋炎、菌血症) はアンピシリン耐性を考慮し静注第3世代セファロスポリン。
  • 髄膜炎ではデキサメタゾン (0.15mg/kg)を抗菌薬投与前、その後6時間毎に4日間投与を併用しり。
  • Hibの場合、有効な抗菌薬投与から24時間経過するまでは飛沫感染予防策を行う。
  • Hib暴露後の予防内服が場合によって必要になることがある。

(参考分献)

  1. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 9th edition
  2. Manual of clinical microbiology 11th edition
  3. 第2版 感染症診断に役立つグラム染色
  4. UpToDate®︎ Epidemiology, clinical manifestations, diagnosis, and treatment of Haemophilus influenzae
  5. シュロスバーグの臨床感染症学
  6. Bacteremia and biliary infection caused by Haemophilus influenzae type e in an adult (PMID: 1396761)
  7. Johns Hopkins ABX Guide
  8. 最新臨床検査学講座 臨床微生物学

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育