microbiology round

今回、2023/8/3のmicrobiology roundでは、カルバペネム耐性となったEnterobacter cloacaeについて取り上げました。微生物の耐性機序は本当に奥深く頭が爆発しそうになります。

歴史
Enterobacter cloacaeは1890年にJordanによって最初に発見され、Bacillus cloacaeと名付けられた。その後、学名と分類学上の位置は多くの変遷を経て1960年に現在の学名であるEnterobacter cloacaeとなった。

微生物学

  • 土壌や下水、ヒトの腸管に棲息し、’cloacae’ とは下水に由来する。
  • Enterobacter属はLPSN(List of Prokaryotic names with Standing in Nomenclature)では58菌種が登録されている。Enterobacter cloacae、Enterobacter aerogenesの2菌種がほとんどを占める。Enterobacter aerogenesはKlebsiella aerogenesに改名された。臨床ではE. aerogenesが一般的に多く使用されている。
  • やや小型のグラム陰性桿菌、腸内細菌目細菌の一種。通性嫌気性菌。
    グラム染色で拡大すると両端がよく染色され、安全ピン様に観察される。
  • 血液寒天培地に発育が良好で、ややムコイドなコロニー。Klebsiellaと似たコロニーを形成する。
  • E. cloacaeと同定される菌には、E. cloacae, E. asburiae, E. carcinogenus, E. hormaechei, E. kobei, E. ludwigil, E. nimipressuratisが含まれ、通常検査では同定が困難なため、Enterobacter cloacae complexとされる。同定には質量分析器や16SrRNA遺伝子解析では同定困難であり、MLSA (multilocus sequence analysis) や全ゲノムシークエンス解析が必要となる。

臨床像

  • 主に入院中の患者の腸管内、気道検体から検出される。病原性は低く、基礎疾患のある患者、易感染者、抗菌薬を長期投与されている患者において血流感染や肺炎などを引き起こす。
  • 肺炎、尿路感染、創部感染、熱傷部の感染、血管内感染、人工物感染、髄膜炎など幅広い医療関連の感染症を引き起こす。
  • E. cloacaeは、術後腹膜炎の10%、院内肺炎の5%、尿路感染症の4%に関与している。他に、眼内炎、脳膿瘍、髄膜炎、椎体炎、および心内膜炎の報告もある。Davin-Regli A, et al. Enterobacter spp.: Update on Taxonomy, Clinical Aspects, and Emerging Antimicrobial Resistance. Clin Microbiol Rev. 2019;32(4)
  • AmpCβラクタマーゼ産生やESBLs産生によって耐性傾向となることが多い。しばしばカルバペネム耐性菌がみられるが、本邦ではカルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(CPE)よりもAmpC+ポーリン欠損が主。
  • AmpC型βラクタマーゼ産生によって、アンピシリン、第 1 世代セフェム系薬、第2世代セフェム系薬に耐性である。
  • βラクタム系抗菌薬(CTX, CTRX, CAZなどの第3世代セファロスポリン)の曝露によってAmpC型βラクタマーゼを過剰産生するようになり、治療開始時に感受性が認められた抗菌薬での治療が失敗することがある。

カルバペネム耐性腸内細菌(CRE;Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae)に関して
カルバペネム耐性を有する菌は、臨床的に有効とされる濃度のカルバペネム系抗菌薬の存在下においても増殖できるものを指す。国内で使用されているカルバペネム系抗菌薬としてはメロペネム、イミペネム、ドリペネム、ビアペネムの4剤である。腸内細菌目細菌においてこれらの薬剤に対する最小発育阻止濃度MICが2µg/mL以上を示すものをCREと呼んでいる(イミペネムの場合はさらにセフメタゾールのMICが64µg/mL以上)。

<カルバペネムの耐性機序>
カルバペネム系抗菌薬に耐性をもたらす主な機序としては3つ。
1. カルバペネム分解酵素 (カルバペネマーゼ) の産生
…加水分解によりカルバペネムを不活化。βラクタマーゼの一種。
2. ポーリンの変異または欠損
…ポーリンは抗菌薬が菌体内に入る際に通過する穴の部分。
これが変異して狭小化したり欠損することによって抗菌薬の菌体内への流入が妨げられる。
3. 排出ポンプによる薬剤の排出
…排出ポンプは能動的に薬剤を菌体外へ排出するシステム。
これにより菌体内の抗菌薬濃度が低下して抗菌薬の活性を低下させる。

<カルバペネム耐性CRE と カルバペネマーゼ産生CPE の区別>
CREと紛らわしい用語として、CPE (カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌) がある。その名の通りカルバペネマーゼを産生する腸内細菌目細菌である。CPEの多くの株はMIC 2µg/mL以上の耐性基準を満たす。その一方で、カルバペネマーゼ以外のβ-ラクタマーゼとして、例えばAmpC型β-ラクタマーゼの過剰産生株も薬剤感受性検査でCREの基準を満たす場合がある。ポーリンの透過性の減少や排出ポンプのようにβ-ラクタマーゼ以外の耐性機序を有している細菌でもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示す場合がある。CPEはあくまでもカルバペネマーゼの産生によってカルバペネム系抗菌薬に耐性を示す菌として捉え、CREは耐性機序をカルバペネマーゼに限定せず薬剤感受性検査で耐性の基準を満たす菌と考える。

<カルバペネマーゼの種類>
β-ラクタマーゼの種類は多数あるため、クラスA-Dの4カテゴリーに分けたAmblerの分類が使用されている。カルバペネマーゼはAmblerの分類のクラスA, B, Dに属している。日本国内において多くみられるのがクラスBに分類されるメタロβラクタマーゼであり、特にIMP型がその多くを占めている。

<カルバペネマーゼ産生CPEの判定>
CPEはカルバペネム耐性以外の薬剤耐性遺伝子も同時に保有していることが多いため、多剤耐性としての頻度が高く臨床的に確認は重要である。CPEは基本的にプラスミドにその耐性遺伝子がコードされている場合が多く、他の菌に伝播する可能性があるため感染対策上もCPEの鑑別は必要となる。
1. カルバペネマーゼ産生の確認
カルバペネマーゼ活性を検出するmodified carbapenem inactivation method (mCIM) 法は専用の機器を必要とせず、どの微生物検査室でも実施できる簡易的な方法として推奨される。メタロβラクタマーゼを特異的に検出するメルカプト酢酸ナトリウム (SMA)法もある。
2. カルバペネマーゼの種類の確認
カルバペネマーゼ産生菌であることが判明したら、カルバペネマーゼの種類を明らかにする。PCR法やイムノクロマト法を利用した方法で判定を行う。

<CRE感染症の治療> 7)
CPEでないCREの場合:
カルバペネムの耐性度がそれほど高くない場合はカルバペネムの増量や他の薬剤との併用により有効性を示す場合もある。
メロペネムとイミペネムに感受性がある場合 (MIC≦1) には、メロペネムまたはイミペネム・シラスタチンを使用する。メロペネムには感受性があるが、イミペネムには感受性がない株 (もしくはその逆) には、最適な治療アプローチを示すデータがない。患者の重症度、感染部位に基づいて治療を行うことが提案されている。β-ラクタム抗菌薬以外では、アミノグリコシド系抗菌薬やキノロン系抗菌薬などが選択されることが多い。

CPEの場合:
CPEに対する治療薬としては、カルバペネム、チゲサイクリン、コリスチン、ホスホマイシン、アミノグリコシドなどがあり、これらの併用療法が有用な場合がある。また、カルバペネマーゼの種類によって投与すべき抗菌薬を選択していく必要がある。
►KPCなどclassAに分類されるカルバペネマーゼ産生菌:
レレバクタム・イミペネム・シラスタチン、メロペネム・バボルバクタム、セフタジジム・アビバクタムが有効と考えられる。
►IMPなどのclassBに分類されるカルバペネマーゼ産生菌:
セフタジジム・アビバクタムとアズトレオナムの併用、またはセフィデロコル単独療法が推奨される。
多くのメタロβラクタマーゼ産生菌は、他のβラクタマーゼも産生する。
アズトレオナムは唯一、βラクタム系薬の中でメタロβラクタマーゼで分解されない。
しかしESBLなどが共産生すると、アズトレオナムが分解されることからセフタジジム・アビバクタムの併用が推奨される。
►OXA-48などclassDに分類されるカルバペネマーゼ産生菌:
セフタジジム・アビバクタムが推奨され、代替薬としてセフィデロコルが推奨される。

(参考分献)

  1. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases. 9th
  2. 「臨床微生物検査実践ガイド」大楠清文
  3. 「微生物プラチナアトラス」佐々木雅一
  4. 薬剤耐性菌の基礎知識「ESBLおよびカルバペネマーゼ産生菌」広島大学 院内感染プロジェクト研究センター
    https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/backno8_pdf09.pdf
  5. BD, the BD Logo and all other trademarks are trademarks of Becton, Dickinson and Company or its affiliates. https://www.bdj.co.jp/safety/articles/ignazzo/hkdqj200000wzsex.html
  6. Durante-Mangoni E, Andini R, Zampino R. Management of carbapenem-resistant Enterobacteriaceae infections. Clin Microbiol Infect. 2019;25(8):943-950.
  7. Tamma PD, Aitken SL, et al. Infectious Diseases Society of America 2023 Guidance on the Treatment of Antimicrobial Resistant Gram-Negative Infections. Clin Infect Dis. 2023

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育