ランソプラゾール加療中の患者におけるセフトリアキソンと心室性不整脈、心停止、死亡リスクについて

Journal Title
Ceftriaxone and the Risk of Ventricular Arrhythmia, Cardiac Arrest, and Death Among

論文の要約
【背景】
セフトリアキソン(CTRX)とランソプラゾール(LPZ)はいずれも頻用される薬剤であるが、その併用でQT延長(男性で12msec, 女性で9msec)を起こすこと、CTRXと他のPPIとの併用では上記がみられないことが知られている。その機序としてCTRXとLPZのhERGカリウムチャネルへの作用が疑われているが、予後を含めた臨床的意義は不明である。CTRXとLPZの併用における心室性不整脈・心停止・院内死亡率について、他の酸分泌抑制薬(PPI)を併用する場合と比較することを目的とした後向きコホート研究が計画された。

【方法】
本研究は、カナダ オンタリオの13の医療施設を対象とした後向きコホート研究である。2015年1月1日から2021年12月31日までの間にCTRXとPPIを同時期に併用されていた成人患者の情報が収集された。カナダ保健情報研究所退院抄録データベースや全国外来報告システムから患者管理情報を収集した。曝露群としてCTRXとLPZの併用、対照群として他のPPI(パントプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾール、オメプラゾール)の併用がなされた患者が対象とされた。主要評価項目として入院中・入院後の心室性不整脈または心停止の発生割合を、副次評価項目として院内全死亡を設定した。傾向スコアの重みづけ(Overlap weighting)により、既知のいくつかの患者因子について共変量として調整した。主要評価項目・副次評価項目はχ2乗検定で、リスク差とリスク比はそれぞれミエッティネン・ヌルミネン法と正規近似法で推定した信頼区間を用いて算出した。傾向スコアについては共変量のロジスティック回帰を用いて推定した。CTRXとPPIの投与前にICU入室していた患者、パントプラゾール群は別に設定してサブグループ解析を行った。またいくつかの条件で感度分析を行った。統計学的評価は両側95%信頼区間の両側検定で分析を行った。

【結果】
対象期間のうちに参加施設に83620人が入院し、31152人がCTRXとPPIを併用していた。LPZ群は3747人、他のPPI群は27405人であった。LPZ群は他のPPI群と比較し年齢が高く長期療養型施設からの入院、CTRX+PPI併用前のIC入室、誤嚥やCOVID-19などの併存症が多く他に併用している薬剤の種類が多かった。主要評価項目である心室性不整脈や心停止については、調整後リスク比で2.2(95%CI 1.7-2.7)、調整後リスク差で1.7(1.1-2.3)、副次評価項目である全死因死亡率も調整後リスク比で1.6(1.5-1.7)、調整後リスク差で7.4%(6.1-8.8) とCTRX+LPZ投与群で多かった。傾向スコアの重みづけや各種のサブグループ解析、感度分析を行っても結果は同様だった。

【考察】
本研究は心室性不整脈、心停止、死亡率などの重要な患者転帰を用いてCTRXとLPZの相互作用を調べた最初の研究である。CTRXとLPZの併用により心室性不整脈・心停止の発生率が増加することが示され、これはNNH58.8に相当した。また死亡率も高かった。因果関係は断定できないものの、PPIについては代替薬が存在するため、CTRXとLPZの併用は可能ならば避けることが望ましいと考えられる。

Implication
本研究は心室性不整脈や心停止といった稀な事象についても有意差を検出することに成功しており、また他のPPI群を対照群に設定することでPPI投与に伴う交絡因子の減弱を試みている点が強みとなっている。一方で、CTRXとLPZの併用による直接的事象として知られるQT延長そのものの発症率は確認対象とされておらず、また、併用開始とイベント発生との前後関係を含む時間的関係が評価されていない。さらには、心室性不整脈・心停止のリスク差1.7%に対して全死亡割合のリスク差は7.4%と乖離があり、未測定の交絡が存在し結果を誇張している可能性がある。感度分析により未測定の交絡因子についても考慮されているが、あくまで後向きコホート研究であり、CTRXとLPZの併用と心室性不整脈・心停止との間の因果関係までは断定できない。また、対象がカナダ国内の施設に限定されており、外的妥当性にも懸念がある。カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)など他の酸分泌抑制薬との併用についても今後の検討を要するものと考えられる。

文責 大島和弥/南三郎

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科