妊娠中のSARS-COV2感染の小児の発達障害への影響

Journal Title
Development impairment in children exposed during pregnancy to maternal SARS-COV2: A Brazilian cohort study.

論文の要約
【目的】
SARS-COV2は、6.2億人に感染し、600万人以上の死者をもたらした。近年、妊娠中のSARS-COV2感染症が小児の神経発達障害に影響する可能性が危惧されている。本研究は、ブラジル北東部の低所得地域において、妊娠中のCOVID19感染と生後1年間の発達との関連を評価した。

【方法】
2020年4月から2021年7月の期間において、ブラジル北東部のハイリスク妊娠の周産期センターでフォローされている単胎妊娠の妊婦を対象とした前向きコホート研究である。染色体異常のない胎児であり、妊娠中や出産時に重篤な合併症を生じていない児を対象とし、母体の死亡、新生児期の胎児の死亡や28週未満の極早産児、32週未満の超早産児は除外した。曝露群は、妊娠期間中にSARS-COV2に感染した集団、非曝露群は、感染していない集団だが、非曝露群の中でフォローアップ期間に症状を発症、もしくは、SARS-COV2感染患者と濃厚接触になった場合には、検査を施行し陽性となった場合には研究から除外した。神経学的発達の評価は、Integrated Management of Childhood Illness(IMCI)に基づいて行い、“normal development”“developmental alert”“probable developmental delay”の3つに分類した。また、曝露群のみ、Ages & Stages Questionnaire, 3rd Edition(ASQ-3)を用いて神経発達スクリーニングを行なった。また、交絡因子を調整するために、傾向スコア重み付けを使用して、母親の年齢、分娩数、人種、合併症について両群の調整を行った。統計学的有意性は、すべての分析でp<0.05と定義した。

【結果】
曝露群69人、非曝露群68人を組み入れた。組み入れた全ての患者がワクチン未接種だった。年齢は、曝露群で平均30.29歳(標準偏差SD6.58)、非曝露群で30.03歳(SD7.08)、何らかの合併症を持つのは曝露群50.7%、非曝露群39.7%だった。37週未満の児の割合は、曝露群21.7%、非曝露群8.8%、Apgar score 5分値が7点未満の割合は曝露群10.1%、非曝露群1.5%となった。IMCIによって神経発達遅滞だと判断された児は、曝露群14人(20.3%)、非曝露群4人(5.3%)、相対危険度3.44; 95%信頼区間 1.19-9.95という結果になった。曝露群のみの評価にとどまるが、ASQ-3によって発達遅滞と評価されたのは、4ヶ月時点で35.7%、6ヶ月時点で7%、12ヶ月時点で32.1%だった。

【結論】
子宮内でのSARS-CoV-2感染への曝露は生後1年以内の児の発達に影響を及ぼす可能性があることが示された。

Implication
本研究は前向きコホート研究であり、母親の年齢、分娩数、人種、合併症などの因子は傾向スコアを用いて重みづけを行い調整してはいるが、合併症の詳細が不明であることや、社会経済的背景が調整されていないなど、多くの交絡因子が残存している可能性がある。そのため、子宮内でのSARS-CoV-2感染への曝露は、発達遅延を含め、生後1年目の子供に影響を及ぼす可能性があると結論づけているが、本研究では未だ仮説の域を出ない。

文責 柴田泰佑/南三郎

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科