外傷患者の呼吸器管理における、sighsの短期投与を追加した呼吸器管理と通常の呼吸器管理の比較

Journal Title
Sigh Ventilation in Patients With Trauma The SiVent Randomized Clinical Trial

論文の要約
【背景】
人工呼吸器管理中の多くの患者が、一回換気量が一定になるように設定されて管理されているが、この設定はサーファクタントの変性による表面聴力の増加に繋がり、無気肺が生じVILIが誘発される。これに対し、短時間のため息や深呼吸の導入により、II型肺胞上皮細胞が伸展されサーファクタント分泌が活性化されるため、人工呼吸による換気の不均一性と肺の緊張性が一時的に解消され、無気肺の改善やVILIの減少につながるとされる。これまでの研究で肺損傷患者における深呼吸の導入が安全であることは示唆されているが、臨床転帰を改善させるかはわかっていない。本研究では、外傷患者の呼吸器管理において、sighs(深呼吸)の短期投与を通常の呼吸器管理に追加することで臨床転帰が改善するかを検証した。

【方法】
本研究は多施設、非盲検化ランダム化比較試験であり、アメリカの15施設の外傷センターで、2016年~2022年まで実施された。対象基準は、18歳以上、外傷による人工呼吸器の使用時間が24時間未満、急性呼吸窮迫症候群を発症する5つの危険因子のうち1つ以上、予測される人工呼吸器管理期間が24時間以上、予測生存期間が48時間以上であることとした。sighs+usual care群とusual care alone群にそれぞれブロックランダム化によりランダムに割り付けられた。主要アウトカムはVentilator free days(VFDs)とし、事前に設定された副次的アウトカムは28日目までの死亡率、ICU free days、合併症、退院時の状態とした。
サンプルサイズは、EDEN and FACTT studiesに基づいて計算したが、中間分析の結果をふまえ下記のように修正し、標準偏差9.9日、検出力80%、離脱率1%、両側検定の有意水準0.05として544人の参加者が必要と算出した。sighs+usual care群は通常の呼吸器管理に加え、6分間に1回、35cm H2Oのプラトー圧を5秒間かけて管理され、usual care alone群は、担当医の希望通りに呼吸器管理された。

【結果】
スクリーニングを受けた5753人のうち524人の患者が登録された。
主要アウトカムとして、VFDsはsighs+usual care群で中央値18.4日間(IQR 7.0-25.2)、usual care alone群で中央値16.1日間(IQR 1.1-24.4)であり、2群の日数差の平均値は1.9日(95% CI, 0.1-3.6)だった。副次的アウトカムとして、28日目までの死亡率はsighs+usual care群で11.6% (30/259)、usual care alone群で17.6%(46/261)であった。ICU free daysはsighs+usual care群で中央値13.7日間(IQR 2.0-20.6)、usual care alone群で中央値11.9日間(IQR 0-20.0)であり、2群の日数差の平均値は1.3日(95% CI -0.3-2.9)であった。合併症の中で低血圧がsighs+usual care群のみで7件見られたがいずれもsighsとの関連は疑われなかった。

【結論】
Sighsの短期投与が VFDsやICU free daysの延長、死亡や合併症の減少はみられなかった。

Implication
本研究は、早期ARDSなどに行われる侵襲的なリクルートメント手技とは異なり、生理的な深呼吸を模したsighが、外傷患者における人工呼吸管理においてARDSなどの合併を防ぎ、人工呼吸期間を短縮させるか検証した初めての研究である。
ランダム化は適切に行われ、脱落率は1%と低かったが、除外基準や抜管時期など主治医の主観的判断に基づく点が多く、死亡の競合リスクが排除しきれていない点からは内的妥当性は問題がある。またsighsによる侵襲は高くないが、sighsを導入できる呼吸器が限定されており、施設設備の影響を強く受け一般化可能性に欠ける。
外傷患者以外の対象や、自発呼吸の有無、従量式・従圧式などの人工呼吸設定との交互作用を含めたsighsの検証が待たれる。

文責 松本絵美/冨松真帆/南三郎

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科