小児の前腕骨遠位端骨折疑いに対する超音波検査とX線検査との比較

Journal Title
Ultrasonography or Radiography for Suspected Pediatric Distal Forearm Fractures

論文の要約
【背景】
小児および青年の橈骨遠位端損傷は救急外来を受診する頻度の高い原因であり、発生率は世界的に増加している。そのなかで、最も多くみられるのが橈骨遠位骨幹端の隆起骨折(buckle fracture)であり、軟部組織の損傷と類似しており、手首の副子固定または包帯固定で管理できる。骨折で、2010年のWHOによる調査では、世界人口の約2/3が画像診断を受けられない。超音波検査は持ち運びやすく安価で、中低所得国で使われやすい。小児の橈骨遠位端骨折の診断において超音波検査はレントゲンと比較して正確であることはいくつかの診断精度研究で示されている。しかし、骨折の初期診断に超音波検査を使用した場合の長期的な運動機能についての研究はない。本研究では、目視で変形がない小児・青年の前腕骨折の初期画像診断で、超音波検査がその後の腕の身体機能に関してX線検査に劣らないかを調査した。

【方法】
本研究は、オーストラリアクイーンズランド州の4施設で行われた多施設、非盲検のランダム化比較試験である。対象は、前腕骨遠位部の単独外傷で上記施設の救急部を受診し,臨床的に明らかな変形を認めず,画像検査によるさらなる評価の適応となった 5~15 歳のものとした。患者は、超音波検査群とX線検査群にそれぞれ1対1にランダムに割り付けられた。超音波検査群において、骨折なし、もしくはbuckle骨折以外に分類されたものはX線が施行された。主要アウトカムは、妥当性が確認されている小児上肢簡易版患者報告アウトカム測定情報システム(PROMIS)スコアで測定した4週間後の身体機能とし、副次的アウトカムは腕の身体機能、満足度、疼痛、合併症頻度、X線撮影頻度、救急外来での滞在時間と治療時間とした。サンプルサイズは、4週間後のPROMISスコアの真の群間差が0、非劣勢マージンが5ポイント、標準偏差が11.5ポイントと仮定し、5ポイントの非劣性マージンは専門家により選択された。300人の患者を対象とし、片側αレベル 0.025で検出力 90%とし、224人の参加者が必要と算出した。

【結果】
2020年9月1日~2021年11月11日に270人の患者が登録された。主要アウトカムとして、4週間後の超音波検査のPROMISスコアは36.4+-5.9、X線検査のPROMISスコアが36.3+-5.3で、平均の差は0.1、95%信頼区間は-1.3から1.4だった。副次的アウトカムとして、1週間後の超音波検査のPROMISスコアは28.4+-8.7、X線検査のPROMISスコアが27.7+-8.6で、平均の差は0.7、95%信頼区間は-1.4から2.8だった。8週間後の超音波検査のプロミススコアは39.2+-2.2、X線検査のPROMISスコアが39.1+-2.6で、平均の差は0.1、95%信頼区間は-0.5から0.7だった。

【結論】
小児の前腕骨骨折の初期診断に超音波検査を使用することはX線検査と比較してもその後の腕の身体機能に関して非劣性が示された。

Implication
本研究は、小児の前腕骨骨折に対する超音波検査を用いて、患者アウトカムへの影響をみた 影響分析である。ランダム化は適切に行われており、脱落率は1.5%と低く、内的妥当性は高い。一方、超音波検査は施行者の手技レベルにより結果が左右されうる検査であり、外的妥当性に懸念が残る。 臨床的に重要な骨折の見逃しはなく、有害事象の発生率に差がない一方、救急部門滞在時間は短く、処置に要した時間も短かく超音波検査のすぐれていた点は重要である。以上から、本研究での超音波検査の教育が行える環境で、超音波検査で骨折がないまたはbuckle骨折と診断できた患者においては、超音波検査だけで安全に管理ができる可能性が高いといえる。

文責 髙木未唯/南三郎

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科