妊婦における多発性外傷:傷害の評価、胎児の放射線被爆および死亡率。多施設観察研究

Journal Title
Multiple trauma in pregnant women: injury assessment, fetal radiation exposure and mortality. A multicentre observational study

論文の要約
【背景】
外傷の初期診療において、画像評価として標準的にE-FASTや単純X線写真、全身CTなどが施行されるが、外傷のある妊婦において胎児被曝は重要な関心事である。過去の研究から累積被曝線量が100mGy以下であれば妊娠期間のすべての時点でほぼリスクはないといわれている。本研究においては、外傷診療に関わる医師における妊婦の外傷に関する知識不足の評価と、外傷評価のために施行された放射線画像検査による胎児被曝線量の評価を目的として行われた。

【方法】
本研究は、フランスの国立外傷研究ネットワークに参加する21のセンターを対象とした後向きの多施設観察研究である。対象施設に重症外傷疑いで搬送されたすべての妊婦について、外傷の内容や施行された画像検査、その後の転帰などのデータが収集された。また、参加施設の放射線科医、産科医、集中治療科医、救急医に、妊婦外傷の診療経験や妊婦外傷に対し行っている治療戦略などについてのアンケートを実施した。胎児被曝線量については、初期評価で施行された画像検査の各種撮像条件を遡及的に入手し、フランス国立放射線防護・核安全研究所(IRSN)の推奨に従いCTexpoソフトウェアを用いてCT線量指数を計算し、virtual phantomsのソフトを用いてモンテカルロシミュレーションの手法で胎児累積被曝線量を推定した。主要評価項目として胎児に対する累積被曝線量を据え、100mGy以上の放射線を受けた患者の割合、母児死亡率、出血性ショックの発症率、初期評価として施行された画像検査の内容、施行された画像検査と担当医の専門分野との関連を副次評価項目とした。

【結果】
オンラインアンケートについては、計124人の医師から回答が得られ、初期評価として、85% [79;91] (95%CI)はE-FFAST、37% [28;45]は局所画像検査、65% [57;73]は全身CTを施行すると回答があった。回答者のうち、胎児に影響を及ぼす確率が増加する胎児被曝線量の敷居値が100mGyであることを認識していたのは31%であった。実際の症例については、2011年9月から2019年12月の間に搬送された25331例のうち、54例(0.2%)が妊婦であった。このうち42例が全身CTを、9例が局所画像検査を施行された。妊娠週数の中央値は22週だった。37例(69%)は交通事故による受傷で、ISS>15の外傷は20例(37%)に認められた。全身CTを受けた場合と選択的画像検査を受けた場合に、妊娠週数と胎児被曝線量の中央値は、それぞれ23週 [12-30](IQR)・14 週[14-20]、38mGy [23-63](IQR)・0mGy [0-1]であった。全身CTを受けた症例のうち2例では胎児被曝線量が100mGyを超えたと推定されたが、うち1例は複数回にわたり腹部骨盤CTが撮影されており、もう1例では撮影時点で既に胎児死亡が診断されているものだった。副次評価項目については、母体死亡率は3例(6%)、胎児死亡率は9例(17%)、母体の出血性ショックは6例でそれぞれ確認された。48例(89%)でE-FASTが施行され、うち8例(16%)で陽性であった。42例(78%)で全身CTが、9例(17%)で選択的画像検査が施行されていた。

Implication
本研究は妊婦外傷における胎児被曝線量を測定した初の多施設観察研究であり、フランス全土の指定外傷センターの症例を集積しているが、妊婦症例の絶対数は多くはない。また、後向き研究であり搬送時点で得られていた妊娠週数や胎児の生死といった情報が画像評価の初期戦略に影響を与えていた可能性があり、実際に全身CTを施行された症例よりも選択的画像検査を施行された症例で妊娠週数が低く、より放射線の影響を受けやすいとされる8-25週に含まれている傾向にあった。さらに、本研究においては初期評価としての画像検索にのみ対象が限定されておりその後の追加検査や処置に伴う被曝については未評価であるとともに、短期的・長期的な放射線被曝による胎児への影響については評価対象となっていない。本研究の結果がより一般的に外挿されるためには、さらなる検証が必要である。

文責 大島和弥/南三郎

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科