ICU患者における血小板減少と血小板輸血:多国籍初回コホート研究(PLOT-ICU)

Journal Title
Noninvasive Monitoring of Arterial Pressure: Finger or Lower Leg As Alternatives to the Upper Arm: A Prospective Study in Three ICUs

論文の要約
【背景】
血小板減少症は、血小板数<15万/µLと定義され、集中治療室(ICU)患者で頻繁に起こる。血小板減少症はICU患者の短期的、長期的な転帰に影響を及ぼす可能性が示唆されているが、多くは単一施設の観察研究で外的妥当性が低い。また、血小板減少症は、侵襲的手技の延期や差し控え、血栓症予防の減少、血小板輸血の検討を促す可能性がある。予防的血小板輸血は頻繁に行われているが、無作為化試験のエビデンスは乏しい。本研究ではICU患者における血小板減少症の頻度、その危険因子、血小板輸血の実施状況、死亡率を含む臨床転帰についての疫学を記述した。

【方法】
本研究は、欧州と北米の10カ国52ICUで行われた多国籍前向き初回コホート研究である。ICUに緊急入室した18歳以上の患者を対象とした。入院中の待機的開心術、以前に登録された患者、参加を拒否した患者は除外した。血小板減少を示した患者数を主要評価項目とし、副次的評価項目として軽症(<15万/µL)、中等症(<10万/µL)、重症(<5万/µL)、および超重症(<2万/µL)の血小板減少症患者数、90日死亡率、生命維持装置を使用せずに生存していた日数、生存退院日数、ICU滞在中の出血イベント、ICU滞在中の血栓イベント、血小板輸血を行った患者数、患者あたりの血小板輸血回数および輸血量、各適応症に対する輸血回数を評価した。ICU入室前の血小板数が欠測していた患者は、ICUでの最初の血小板数をベースライン血小板数と仮定し、ICU入室前および入室中の血小板数データがなかった患者は血小板減少症はなかったものとした。研究参加施設のICUから非参加施設のICUに転院した患者は、非研究ICUで過ごした日数にはイベントは発生しなかったと仮定した。

【結果】
10ヵ国43施設52ICUのICU患者1168例を対象とし、うち2例の患者が同意を撤回したため除外した。全体の血小板減少症の頻度は43.2%であり、23.4%がICU入室時に血小板減少症があり、19.8%がICU入室中に血小板減少症を発症した。42.5%が軽症、31%が中等症、12.9%が重症、13.7%が超重症の血小板減少であり、最低血小板数はICU入室から中央値で3日目に発生した。全90日死亡割合は25.9%であり、血小板減少症の有無でそれぞれ34.6%と19.3%と差があった。重症および超重症血小板減少症で死亡率が最も高かった。血小板減少症の患者は、血小板減少症のない患者に比べて、生命維持装置を使用せずに生存していた日数も、通院日数も少なかった。血小板減少症の患者は、血小板減少症のない患者と比較して、血管収縮薬(73% vs 45.8%)、侵襲的機械的換気(63.3% vs 44.6%)、RRT(25% vs 5.3%)、ECMO(2.8% vs 0.6%)をより多く受けた。ICU内での出血イベントは血小板減少のある患者に多く(27.6% vs 7.3%)、血小板減少症患者では重度の出血イベントが多かった。ICU内輸血のほとんどは予防的輸血(64.3%)、次いで治療的輸血(27.6%)、手術前輸血(8.1%)であり、輸血前の血小板数の中央値はそれぞれ1.5万/µL、4万/µL、3.1万/µLであった。ICU入室時の血小板減少<15万/µLには、男性、非AIDS、非がん関連の免疫不全、急性または慢性の肝不全、重症度の高い疾患、出血、敗血症性ショックが関連していた。結果は感度分析でもほぼ一貫していた。ベースライン血小板減少(<15万/µL)は90日死亡率の増加と関連していた(OR 1.7、95%CI 1.19-2.42)。感度分析では、ほぼ一貫した結果が得られた。

Implication
本研究はICUの患者を対象とした血小板減少症の疫学について示した初の多国籍前向き観察研究であり、今後の研究に繋がることが期待される。ICUの患者において血小板減少症は一般的で予後との関連が示されたが、血小板減少症そのものが予後に与える影響や、今後の血小板輸血閾値を決定するためには、さらなる検証が必要である。

文責 中村祐太/南三郎

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科