敗血症1年生存者における悪性腫瘍発生リスク、レジストリーに基づいた全国的追跡研究
Journal Title
Noninvasive Monitoring of Arterial Pressure: Finger or Lower Leg As Alternatives to the Upper Arm: A Prospective Study in Three ICUs
論文の要約
【目的】
敗血症患者は、初期の炎症反応を乗り切ると、その後に慢性的な免疫機能低下状態になる可能性がある。免疫機能低下状態は、理論的に悪性腫瘍発生リスクになりうる。実際、AIDS患者や臓器移植後の免疫抑制患者では、ある特定の悪性腫瘍の発生率が上昇しているため、敗血症患者でも同様に悪性腫瘍が発生している可能性がある。本研究は、敗血症罹患後1年間生存した患者群における悪性腫瘍の新規発生率について記述し、一般集団と比較した。
【方法】
本研究は、スイスの集中治療レジストリー(Swedish ICU registry、National Cancer registry、National Cause of death registry、National patient registry )の2005年から2017年のデータから、19歳以上の成人で、ICU入室時にICD-10によって定義される敗血症、重症敗血症、敗血症性ショックのいづれかに登録されたものを対象とした。その後データについては複数のデータベース(Swedish ICU registry、National Cancer registry、National Cause of death registry、National patient registry)から情報を抽出した。入室から1年生存したものを最終コホートとし、死亡、移住、2018年末まで情報を収集した。一方で、対照とする一般集団の情報は、NORDCAN registryから抽出した。観察集団と一般集団の各悪性腫瘍罹患率から標準化罹患率(SIR)を算出し、悪性腫瘍罹患率を比較した。また、悪性腫瘍の既往の有無、年代別、チャールソン併存疾患指数(CCI)の重症度別、悪性黒色腫以外の皮膚腫瘍を除外した集団において、感度分析を施行した。
【結果】
データベースから37843人を抽出し、19歳未満、2016年以降に敗血症と診断された患者などを除外した上で、最終的に男性10556人、女性7994人が1年生存者として組み入れられた。中央値3.36年(IQR 1.72-5.86)追跡した。CCI0点が男女ともに85%以上、5年以内に悪性腫瘍と診断された患者が男性22%、女性17%の集団となった。追跡期間中、悪性腫瘍と新規に診断されたのは男性967人(9.2%)、女性658人(8.2%)となり、新規悪性腫瘍発生率を比較したSIRは、男性1.31(95%CI 1.23-1.40)、女性1.74(95%CI 1.61-1.88)となった。感度分析では、悪性腫瘍の既往の有無、CCIの重症度に関わらず同様の結果となり、年代別の感度分析では40歳未満の患者で、SIR 男性4.96(95%CI 2.75-8.96)、女性5.94(95%CI 4.10-8.60)と、一般集団に比較して最も悪性腫瘍と新規診断される割合が高かった。
【結論】
敗血症に罹患しICUに入室した後1年生存した患者群では、一般集団と比較して、新規悪性腫瘍の罹患率が高かった。
Implication
本研究は、敗血症患者の大規模コホートにおける悪性腫瘍発生率を示した初めての研究であり、年代別、悪性腫瘍既往の有無などを調整した複数の感度分析でも同様に敗血症生存者の悪性腫瘍発生率が高く、結果に頑健性がみられた。しかし、対象群として一般集団からの抽出のみで、指摘された共変量以外の交絡が除外できておらず比較可能な対照ではない可能性が高いこと、1年以内に死亡したものが除外されるなど生存者バイアスから、敗血症と悪性腫瘍発生の因果を推測することはできない。今後は適切なコントロールと比較する必要がある。
文責 柴田泰佑/南三郎
このサイトの監修者
亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明
【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科