院外心停止後の動脈血二酸化炭素分圧における軽度高値と正常値との比較

Journal Title
Mild Hypercapnia or Normocapnia after Out-of-Hospital Cardiac Arrest
Glenn Eastwood
July 6,2023 N Engl Med 2023;389:45-57
DOI:10.1056/NEJMoa2214552

論文の要約
【背景】
国際ガイドラインでは院外心停止後に蘇生された昏睡状態の成人の血中二酸化炭素濃度(PaCO2)は正常値(35~45 mmHg)を目標とすることを推奨している。一方、PaCO2は、脳血管の張力を調整し、その上昇は脳血流を増加させることが知られている。いくつかの観察研究ではhypercapniaが自宅退院率を上昇させ、12ヶ月後の神経学的転帰が良好であることが示されている。さらに副次的アウトカムではあるが多施設第2相RCTにおいては12ヶ月時点での良好な神経学的予後が見込まれる可能性が示されていた。しかし最も効果的なPaCO2の目標値は十分に検討されていない。そこで本研究はPaCO2を軽度高値(50〜55 mmHg)とした場合に神経学的予後が改善されるかをランダム化比較試験で検証したものである。

【方法】
本研究は2018年3月から2021年9月までに17カ国63施設で院外心停止した18歳以上の成人を対象に実施された評価者盲検無作為下非盲検試験である。心原性または原因不明の院外心停止後に蘇生され、集中治療室に入室した昏睡状態の成人を、PaCO2軽度高値を目標とする群(50〜55 mmHg)とPaCO2正常値を目標とする群(35〜45 mmHg)に1:1の割合に無作為に割り付けたものである。無作為割付後から24時間それぞれの目標値を維持した。主要アウトカムは6ヶ月後の良好な神経学的転帰とし,Glasgow Outcome Scale-Extended(GOS-E)が5点以上と定義した。副次的アウトカムは6ヶ月以内の死亡割合とした。1624人の患者を登録すると、α=0.05において神経学的転帰が良好な患者の割合が2群間で8ポイントの差(PaCO2軽度高値群58%、PaCO2正常値群50%)を検出し、90%の棄却する検出力が得られると計算した。サンプルサイズはmild hypercapniaを対象とした先行研究に基づいて計算された。最終的にインフォームドコンセントの撤回と追跡不能を考慮し、1700人とした。

【結果】
17カ国の63施設の集中治療室で1700例が登録され、847例がPaCO2軽度高値群、853例がPaCO2正常値群に割り付けられた。6ヶ月の時点での良好な神経学的転帰を認めたものはPaCO2軽度高値群764例中332例(43.2%),正常値群では784例中350例(44.6%)であった(相対リスク: 0.98,95%信頼区間[Cl]: 0.87~1.11,p=0.76)。副次的アウトカムである6ヶ月以内の死亡リスクはPaCO2軽度高値群816例中393例(48.2%),正常値群では832例中382例(45.9%)であった(相対リスク: 1.05,95%信頼区間[Cl]: 0.94~1.16,p=0.76)有害事象の発現率は両群で有意差はなかった。

【結論】
院外心停止に蘇生された昏睡患者の成人を対象にPaCO2軽度高値を目標とする群(50〜55 mmHg)とPaCO2正常値を目標とする群(35〜45 mmHg)と比較した場合, 6ヶ月後の神経学的転帰,6ヶ月以内の死亡リスクは改善されなかった。

Implication
本研究のstrengthとして、多国籍多施設の研究で、よくデザインされ、サンプルサイズも大きく、内的妥当性が高いことが挙げられる。Limitationとして、院外心停止症例の記載に対するガイドライン(ウツタイン様式)ではprimary outcomeにはCerebral Performance Category (CPC) が推奨されているが、GOS-Eが用いられていること、バイスタンダーありの院外心停止が80%以上であり、外傷やアナフィラキシーなどの原因による心停止や院内心停止、ショック不能な初期リズムを呈する心停止には適応できない点が挙げられる。

文責 田島光盛/芥川晃也/南三郎

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科