多枝病変がある高齢者の心筋梗塞に対する完全血行再建は、責任病変のみへの血行再建と比較して、生命予後を改善するか

Journal Title
Complete or Culprit-Only PCI in Older Patients with Myocardial Infarction
N Engl J Med 2023 September 7; 389:889-898

論文の要約
【背景】
心筋梗塞の責任病変以外の狭窄に対する完全血行再建は、年齢が若い多枝病変患者において生命予後を改善することは、過去の臨床試験で明らかとなっていた。しかしこれまでに行われた臨床試験の多くは、75歳以上を除外するか、参加していても割合が小さく、高齢者に対するエビデンスは不足していた。心筋梗塞で入院する高齢患者(75歳以上)の割合が増加しており、本研究では多枝病変がある高齢の心筋梗塞患者において、完全血行再建が責任病変のみへの血行再建(対照群)と比較して生命予後を改善するかを検討した。

【方法】
研究デザインはイタリア、スペイン、ポーランドの34施設を対象としたランダム化比較試験である。患者選択基準は、75歳以上、STEMIかNSTEMIで入院していること、責任病変へのPCIが成功していること、責任病変以外に50-99%の狭窄率の病変があることとした。主要評価項目は、1 年時点での死亡・心筋梗塞・脳卒中・予定外の血行再建の複合イベントであった。副次評価項目は、心血管死と心筋梗塞の複合イベントであり、安全性は造影剤腎症・脳卒中・重大な出血の複合事象とされた。サンプルサイズは、責任病変のみの血行再建群のアウトカム発生割合を15%、完全血行再建術により相対リスク減少を30%として、α5%、1-β80%、脱落も考慮し、1385人と見積もった。

【結果】
2019/7/18-2021/10/25の機関に1445人が組み入れられ、完全血行再建群に720人、対照群に725人が割り付けられた。年齢の中央値は 80 歳であり、528 人(36.5%)が STEMI であった。主要評価項目の発生割合は、完全血行再建群で有意に低くかった(15.7% vs. 21.0%, hazard ratio [HR]0.73, 95% confidence interval [CI] 0.57-0.93, p=0.001)。副次評価項目の発生も完全血行再建群で低く(8.9% vs. 13.5%, HR 0.64, 95% CI 0.47-0.88, p=0.001)、安全性においては両群間に差を認めなかった(22.5% vs. 20.4%, p=0.37)

【結論】
75歳以上の多枝病変を持つ心筋梗塞患者では、死亡、心筋梗塞、脳卒中、虚血に寄る血行再建の複合アウトカムの発生率は、責任病変のみへの血行再建術と比較して、完全血行再建術で低いことがわかった。

Implication
本研究の強みは、これまでの臨床試験と違ってSTEMI、NSTEMI両方の患者が登録されたこと、患者の年齢中央値が約80歳であり、この分野の過去の主要な臨床研究よりも約20歳上の年齢層であったこと、目標サンプルサイズを達成できたこと、99.9%の患者の1年後のフォローアップデータを収集することができたことが挙げられる。また、複合アウトカムである主要評価項目は、虚血による血行再建は6.8%とごく一部であり、心筋梗塞や死亡などの重篤なイベントが大部分を占めていた。また、副次評価項目である心血管イベントにおいても差が見られ、各サブグループでも一貫性がみられるため完全血行再建術を支持している。
Limitationとしては、非盲検化試験であるため、研究者参加者が血管造影の結果を知ることによって患者選択が恣意的になりうる点や、シロリムス溶出性ステントのみを使用したため一般化可能性を低くしている。
また、本研究における非責任病変の機能的虚血は、圧センサー付きガイドワイヤーもしくは血管造影によって同定されたが、統一されておらず、病変部位の選択方法には課題が残る。

文責 伊達裕美子/富田将司/南三郎

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科