動脈瘤性くも膜下出血患者における腰椎脳脊髄液ドレナージの有効性

Journal Title
Diagnostic Accuracy of Unenhanced Computed Tomography for Evaluation of Acute Abdominal Pain in the Emergency Department
JAMA Surg. 2023;158(7):e231112. doi:10.1001/jamasurg.2023.1112

論文の要約
【背景】
動脈瘤性くも膜下出血(SAH)患者では、基底槽に貯留した血液により脳血管攣縮が誘発され、二次梗塞が生じうることが知られている。後方視的研究のメタアナリシスでは、予防目的の脳脊髄液ドレナージは、二次梗塞リスクや神経学的転帰を改善させた。動脈瘤性SAH患者210人(WFNS 4,5の重症例は除外)を対象としたランダム化比較試験では、標準治療+腰椎ドレーン留置を行った群で、標準治療群に比べて発症10日後の遅発性虚血性神経脱落症状の割合が低かった一方、神経学的転帰(6か月後のmRSスコア 0-2の割合)は同様であり、重症患者の除外による検出力不足が原因として考えられた。そこで、腰椎ドレナージの早期実施により動脈瘤性くも膜下出血の神経学的転帰が改善するかどうか検証するため本試験を行った。

【方法】
研究デザインは非盲検ランダム化比較試験、ドイツ・カナダ・スイスの3か国19施設で実施された。画像検査で動脈瘤性SAHと診断され、発症48時間以内に動脈瘤治療を受けた、発症前mRS 0-1の成人が対象とされた。動脈瘤治療後の早期(72時間以内)に腰椎脊髄液ドレナージまたは標準治療のみへ1:1にランダムに割り付けらた。発症6か月後の神経学的転帰不良(mRSスコア≧3)の割合が主要評価項目として設定された。サンプルサイズは、標準治療群の神経学的転帰不良を50%、腰椎ドレーン群のそれを33%、検出力85%、α5%として300人と見積もった。intention-to-treat (ITT)および感度分析としてPer-protocol,As-treated解析を行った。

【結果】
2011年から2016年の間に307例のランダム化が行われ、287例がITT解析の対象となった。標準治療群144人と、腰椎ドレーン群(標準治療に加えて腰椎ドレーン留置)143人に割り振られた。68.6%が女性、年齢の中央値は55歳だった。主要評価項目である6か月後の神経学的転帰不良の割合は、腰椎ドレーン群で47/144人 (32.6%)、標準治療群で64/143人 (44.8%)、リスク差 -0.12 (95%CI: -0.23--0.01) リスク比は0.73 (95%CI: 0.51-0.98)、Number needed to treat (NNT) 8.3だった。Per protocol解析、as-treated解析による感度分析でも同様の結果を示した。
副次的評価項目として、退院前CT診断された二次梗塞の割合は腰椎ドレーン群で41/144人(28.5%)、標準治療群で57/143人(39.9%)、リスク差-0.11(95%CI: -0.22-0)、リスク比0.71 (0.49-0.99)だった。

【結論】
動脈瘤性SAHに対する予防的腰椎ドレナージは二次梗塞の負担や、6か月後の神経学的転帰不良の割合を減少させた。この結果から、動脈瘤性SAHに対する腰椎ドレーンを標準治療として用いることを支持する。

Implication
本研究のStrengthは、国際ガイドラインに沿った標準治療群と比較していること、他の研究では除外されていた重症患者も含まれており外的妥当性が高いこと、主要評価項目に関して、サンプルサイズ計算に用いた予測効果量に近い結果が得られたことが挙げられる。
Limitationとしては、腰椎ドレーン群ではプロトコルを逸脱した患者が多かったことが挙げられる。くも膜下出血患者の主な合併症である再出血、けいれん、心肺合併症、電解質異常について記録されなかった。特に再出血は脳脊髄液ドレナージとの関連も報告されており、記録すべきだったと考える。感度分析にてPer protocol解析、as-treated解析が行われたが、ともに8日間で480ml以上ドレーナージされた患者が腰椎ドレーン群に割り当てられたが、生存バイアスなどあり腰椎ドレーン群に有利であり、頑健性をしめしたとは言い難い。
動脈瘤性くも膜下出血に対する予防的腰椎ドレナージの効果を検証したRCTとしてはLUMAS試験に引き続き2本目である本研究では、予防的腰椎ドレナージにより6か月後の神経学的予後不良が標準治療群に比べて減少することが示された。ドレナージの最適なタイミングや速度についてさらに検討が必要である。

文責 武田侑真/芥川晃也/南三郎

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科