難治性敗血症性ショックに対するバソプレシンのローディングに関する研究:前向き観察研究

Journal Title
The Vasopressin Loading for Refractory septic shock (VALOR) study: a prospective observational study. Crit Care 2023; 27: 294.

論文の要約
【目的】
バソプレシンは、強力な昇圧剤であるが、虚血などの副作用があり、敗血症性ショックにおいてはノルアドレナリンに次ぎ第二選択の薬剤である。ノルアドレナリンに反応しないrefractive shockにおいて、早期に昇圧を行う必要があるが、投与方法が持続投与のため昇圧までに時間を要し、反応しない場合もある。そのため昇圧をえるための新たな方策が求められている。そこで、本研究はバソプレッシンのローディングの効果および、その反応性、安全性を評価することを目的として行われた。

【方法】
本研究は、2021年4月〜2023年3月の期間で、日立総合病院のICUで行われた前向き観察研究である。患者選択基準は、18歳以上、敗血症性ショック(Sepsis-3)、ノルアドレナリン需要が≥0.2 μg/kg/minで、バソプレシンの投与が必要、バソプレシン開始までにステロイドが開始されていない、Aライン挿入済の患者とされた。終末期の患者は除外とした。バソプレシンの投与は1 Uローディング後、1 U/hで持続投与開始するものとし、目標血圧は定めず、救急・集中治療医の裁量に委ねられた。ローディングの3~5分の血圧変化の下3分位を閾値として、上2/3をresponder、下1/3をnon-responderとして分類した。Primary outcomeは、バソプレシン投与開始6時間時点のカテコラミン指数 (CAI = dopamine+dobutamine + (noradrenaline + adrenaline) × 100 μg/kg/min) とされた。
secondary outcomeはバソプレシン開始から2、4 時間時点のCAI変化、2時間ごとの尿量、24時間でのIN/OUT balance、2 時間時点での乳酸値、pHの変化、総バソプレシン投与時間、バソプレシン投与開始後のステロイド使用、院内死亡割合 (mortality) 、ICU滞在期間、入院期間とした。サンプルサイズは、合併症を5%、ロードディングにより5%増加すると見積もり、100人とされた。

【結果】
92人の患者が登録された。試験の結果を踏まえて後方視的に、MAPの変化が22mmHg以上の患者をresponder (62人) 、それ以外をnon-responder (30人) と定義すると、primary outcomeであるバソプレシン投与開始6時間時点のCAI変化はresponderで中央値 -10 (-15, -5)、non-responderで0(0, 28.8)となり前者で有意に低く(p<0.0001)、持続注入後のCAI変化<0を予測するためのバソプレシン負荷によるMAP変化のAUROCは0.843で、感度は0.92、特異度は0.77であった。

【結語】
バソプレシン負荷は、持続注入に対する反応を予測し、血圧を上昇させる適切な戦略を選択するために使用できる可能性が示唆された。

Implication
バソプレッシンのローディングに本研究の新規性がみられる。前試験において、ローディングによる血圧変化の閾値は下3分位の18mmHgとしてresponderとnon-responderに分類し、その後の反応の予測精度が検証された。本研究での閾値は、本試験のデータから後方視的に改めて下3分位の22mmHgを閾値として採用されたため、外的検証の意味が弱くなっている。参加人数が100人に対して様々な仮説が検証されているため記述研究に近いといえる。また、バソプレッシンの効果予測は、バソプレッシン投与前の変数を用いた予測式が開発されることも望まれる。今後、さらなる外的検証が望まれる。

 

文責 芥川晃也/南三郎

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科